92.名残惜しい人
夢主名前設定
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「やっと黙ったな。お前は驚くと黙るからな、驚かせるのが一番だ」
「もっ……土方さんてば……」
「ははっ、怒るなよ。最後まで話を聞け、いいか。いつもでも戻って来ていいからな。困った事があれば……嫌になれば、いつでも戻って来い。喜んで迎えてやる。例え斎藤がいなくてもだ」
「土方さん……」
「分かればいい。話は以上だ」
そこまで話すと土方はふっと腕を解き夢主を離した。
「ふふっ、分かりました……ありがとうございます……」
「きっと帰って来いよ、元気に……過ごせ……」
体を離したものの土方は名残惜しそうに見つめ、手を伸ばすと夢主の頬を軽く撫でた。
「土方……さん?」
「いや……何でもない。俺はもう行く。斎藤が出て行くまで、お前が出て行くまで俺はもう……こうやって個人的には会わない。だがいつでもお前を気に掛けているからな、忘れるなよ」
「はい、ありがとうございます。土方さん……戻って来ますよね……」
夢主は我慢できず、斎藤の名は出さずに、だが帰屯の可能性を訊ねてしまった。
土方は困ったような笑いを見せ、夢主の頭に手を置いて首を傾げた。
答えることは出来ないが、頷いているようにも見える仕草に夢主は頷き返した。
「私も、きっと……」
「あぁ」
土方は夢主の頭をくしゅりと撫で、髪と夢主の笑顔を乱して去って行った。
「遅かったですね」
もやもやした顔で部屋を出た夢主だが、すっきりした顔で部屋へ戻った。
ずっと待っていた沖田は相変わらずの涼しい顔だ。
「斎藤さんは出て行きましたよ。すぐ戻るようですがね。夢主ちゃんも早く荷物を纏めたほうが良いですよ、静かにね」
「分かりました。沖田さん、沖田さんにもまたきっと色々とご迷惑を……よろしくお願いします」
「ははっ、こんなことを言うと何ですけれど、今更……ですよ」
「今更……?」
「えぇ。もうそんな気遣いの要る間柄とは、僕は思っていませんよ」
「あ……ありがとうございます……」
沖田の優しさに応えながら、夢主は斎藤が「今更」と呟いた時を思い出した。
「今更って、良い言葉だったんですね」
「んっ?そうですね、僕は今更の関係が好きですよ」
「ふふっ、本当ですね。試衛館のみなさんもそうですもんね……いつもずっと、仲良しで……」
夢主は自分の部屋で数少ない荷物を分け始めた。
沖田は手伝いも要らないなと、襖の縁に触れて覗いた。
「半纏は持っていけるかな……暖かくなってもういらないかな。でも山ならきっと夜は寒いよね……。櫛と紅は自分の手で持って行きます。鏡は沖田さん、預かってくれますか」
「喜んで」
沖田はにこやかに微笑み、見守るように夢主の荷の整頓に付き合った。
「もっ……土方さんてば……」
「ははっ、怒るなよ。最後まで話を聞け、いいか。いつもでも戻って来ていいからな。困った事があれば……嫌になれば、いつでも戻って来い。喜んで迎えてやる。例え斎藤がいなくてもだ」
「土方さん……」
「分かればいい。話は以上だ」
そこまで話すと土方はふっと腕を解き夢主を離した。
「ふふっ、分かりました……ありがとうございます……」
「きっと帰って来いよ、元気に……過ごせ……」
体を離したものの土方は名残惜しそうに見つめ、手を伸ばすと夢主の頬を軽く撫でた。
「土方……さん?」
「いや……何でもない。俺はもう行く。斎藤が出て行くまで、お前が出て行くまで俺はもう……こうやって個人的には会わない。だがいつでもお前を気に掛けているからな、忘れるなよ」
「はい、ありがとうございます。土方さん……戻って来ますよね……」
夢主は我慢できず、斎藤の名は出さずに、だが帰屯の可能性を訊ねてしまった。
土方は困ったような笑いを見せ、夢主の頭に手を置いて首を傾げた。
答えることは出来ないが、頷いているようにも見える仕草に夢主は頷き返した。
「私も、きっと……」
「あぁ」
土方は夢主の頭をくしゅりと撫で、髪と夢主の笑顔を乱して去って行った。
「遅かったですね」
もやもやした顔で部屋を出た夢主だが、すっきりした顔で部屋へ戻った。
ずっと待っていた沖田は相変わらずの涼しい顔だ。
「斎藤さんは出て行きましたよ。すぐ戻るようですがね。夢主ちゃんも早く荷物を纏めたほうが良いですよ、静かにね」
「分かりました。沖田さん、沖田さんにもまたきっと色々とご迷惑を……よろしくお願いします」
「ははっ、こんなことを言うと何ですけれど、今更……ですよ」
「今更……?」
「えぇ。もうそんな気遣いの要る間柄とは、僕は思っていませんよ」
「あ……ありがとうございます……」
沖田の優しさに応えながら、夢主は斎藤が「今更」と呟いた時を思い出した。
「今更って、良い言葉だったんですね」
「んっ?そうですね、僕は今更の関係が好きですよ」
「ふふっ、本当ですね。試衛館のみなさんもそうですもんね……いつもずっと、仲良しで……」
夢主は自分の部屋で数少ない荷物を分け始めた。
沖田は手伝いも要らないなと、襖の縁に触れて覗いた。
「半纏は持っていけるかな……暖かくなってもういらないかな。でも山ならきっと夜は寒いよね……。櫛と紅は自分の手で持って行きます。鏡は沖田さん、預かってくれますか」
「喜んで」
沖田はにこやかに微笑み、見守るように夢主の荷の整頓に付き合った。