92.名残惜しい人
夢主名前設定
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「そろそろ俺も……仕度しておこうかな。急に行くぞっとか言われそうだもんね。伊東さんいつも急なんだよな!」
「そうなんですね……」
「あぁ、いつもだぜ!今回も突然だもんな、さすがに迷ったけど、それでも自分で決めたんだ!俺はもう迷わないよ。後悔もしていない」
「藤堂さん……」
藤堂は見上げていた顔を下げ、夢主を見つめた。
曇りのない目は希望に満ちている。踏み出す新たな一歩に期待を持っていた。
「俺は決めたから!どこまでも真っ直ぐ生きるよ!お前も俺達について来い、いいな」
「藤堂さん……真っ直ぐに……藤堂さん、どんな時でも振り返っちゃ駄目ですよ!」
「どうした、分かってるさ」
突然語彙を強めた夢主を不思議そうに覗き、藤堂は爽やかな顔を見せた。
これからも一緒だなと嬉しそうで、安心してついて来いと頼もしさが溢れている。
「振り返らずに、走ってください……その時が来たら……」
「夢主?」
「いえ……藤堂さん、本当にありがとう……ございます……」
「何だよ改まって!ははっ、礼を言われるようなことは何もしてないよ」
「いぃえ、たくさん元気付けていただいてます……」
「そっか、じゃあまた後でな!」
夢主が湧き上がる哀しさを抑えて微笑むと藤堂は笑顔で走り出し、足音に驚いて木の上の小鳥もどこかへ飛び去っていった。
「どうか振り返らないでください……」
振り返らず真っ直ぐ生きて、生き延びてください……
夢主は藤堂が姿を消した廊下を目に、祈りを込めて呟いた。
胸のざわめきは静まらないが、部屋に戻らねばと夢主も歩き出した。
すると今まで死角になっていた場所に立つ人物が視界に入った。
原田が壁にもたれている。
いつも温かい目が今は切なそうに夢主を見つめている。
視線が合うと、ハッと表情を変えて戸惑いを見せるが、何かを振り切るように顔を背けて去って行った。
「きっと話を聞いていたんだろう、藤堂とお前の話を」
「土方さん」
視界の外に土方がいた。
立ち去った原田を目で追うように顔を向けて、夢主へ近付いて来る。
「大丈夫か」
「はぃ……」
「お前に声を掛けたら引き留めてしまうと、原田は思ったんだろうよ。お前が気になるからだ」
原田が自分を避けたと感じ、暗い顔をする夢主を元気付けるように土方は言葉を選んだ。
「俺はお前の行動に口出しはしねぇ。だが、決まっているんだろう」
小さく頷く夢主に対し、土方はフッと笑うような息を吐いた。
成り行きをずっと見守っていた土方にはこれからの動きも、今の夢主の気持ちも手に取るように理解出来る。自分が何かを指図する必要は無い。
「そうか。お前のことは総司と斎藤に任せているからな」
「ふふっ、それからもう一人いる気がします」
「あぁ山崎か。お前も気付いていたな」
ははっと笑い、仕方が無いと頷いた。
「確かに山崎にも世話になってるな。総司と斎藤と山崎にお前は任せた。だが……」
「えっ……土方さんっ」
「いいからそのまま聞いてろ」
土方はそっと体を寄せて夢主を軽く抱きしめた。
そして夢主の懐に小さな包みを忍ばせた。
「このままの方が都合が良い話だ」
「これは……」
「お前の為の金だ。少ししか包んでねぇが、世話になる場所があるんだろう、生活費として渡せ。手ぶらで行くより良くしてくれるだろう。足りなくなれば手配してやる」
「土方さん!でも……きっと必要ありません」
「いいから、これは新選組とは関係ないお前の為の金なんだ。気にするな」
「私の……」
「あぁ、懐にしまっておけ。それ以上言うと口を吸うぞ」
「えっ……」
どうしてそんな話に飛ぶのかと顔を赤らめて体を少しだけ押し離すと、土方は可笑しそうににやけていた。
「そうなんですね……」
「あぁ、いつもだぜ!今回も突然だもんな、さすがに迷ったけど、それでも自分で決めたんだ!俺はもう迷わないよ。後悔もしていない」
「藤堂さん……」
藤堂は見上げていた顔を下げ、夢主を見つめた。
曇りのない目は希望に満ちている。踏み出す新たな一歩に期待を持っていた。
「俺は決めたから!どこまでも真っ直ぐ生きるよ!お前も俺達について来い、いいな」
「藤堂さん……真っ直ぐに……藤堂さん、どんな時でも振り返っちゃ駄目ですよ!」
「どうした、分かってるさ」
突然語彙を強めた夢主を不思議そうに覗き、藤堂は爽やかな顔を見せた。
これからも一緒だなと嬉しそうで、安心してついて来いと頼もしさが溢れている。
「振り返らずに、走ってください……その時が来たら……」
「夢主?」
「いえ……藤堂さん、本当にありがとう……ございます……」
「何だよ改まって!ははっ、礼を言われるようなことは何もしてないよ」
「いぃえ、たくさん元気付けていただいてます……」
「そっか、じゃあまた後でな!」
夢主が湧き上がる哀しさを抑えて微笑むと藤堂は笑顔で走り出し、足音に驚いて木の上の小鳥もどこかへ飛び去っていった。
「どうか振り返らないでください……」
振り返らず真っ直ぐ生きて、生き延びてください……
夢主は藤堂が姿を消した廊下を目に、祈りを込めて呟いた。
胸のざわめきは静まらないが、部屋に戻らねばと夢主も歩き出した。
すると今まで死角になっていた場所に立つ人物が視界に入った。
原田が壁にもたれている。
いつも温かい目が今は切なそうに夢主を見つめている。
視線が合うと、ハッと表情を変えて戸惑いを見せるが、何かを振り切るように顔を背けて去って行った。
「きっと話を聞いていたんだろう、藤堂とお前の話を」
「土方さん」
視界の外に土方がいた。
立ち去った原田を目で追うように顔を向けて、夢主へ近付いて来る。
「大丈夫か」
「はぃ……」
「お前に声を掛けたら引き留めてしまうと、原田は思ったんだろうよ。お前が気になるからだ」
原田が自分を避けたと感じ、暗い顔をする夢主を元気付けるように土方は言葉を選んだ。
「俺はお前の行動に口出しはしねぇ。だが、決まっているんだろう」
小さく頷く夢主に対し、土方はフッと笑うような息を吐いた。
成り行きをずっと見守っていた土方にはこれからの動きも、今の夢主の気持ちも手に取るように理解出来る。自分が何かを指図する必要は無い。
「そうか。お前のことは総司と斎藤に任せているからな」
「ふふっ、それからもう一人いる気がします」
「あぁ山崎か。お前も気付いていたな」
ははっと笑い、仕方が無いと頷いた。
「確かに山崎にも世話になってるな。総司と斎藤と山崎にお前は任せた。だが……」
「えっ……土方さんっ」
「いいからそのまま聞いてろ」
土方はそっと体を寄せて夢主を軽く抱きしめた。
そして夢主の懐に小さな包みを忍ばせた。
「このままの方が都合が良い話だ」
「これは……」
「お前の為の金だ。少ししか包んでねぇが、世話になる場所があるんだろう、生活費として渡せ。手ぶらで行くより良くしてくれるだろう。足りなくなれば手配してやる」
「土方さん!でも……きっと必要ありません」
「いいから、これは新選組とは関係ないお前の為の金なんだ。気にするな」
「私の……」
「あぁ、懐にしまっておけ。それ以上言うと口を吸うぞ」
「えっ……」
どうしてそんな話に飛ぶのかと顔を赤らめて体を少しだけ押し離すと、土方は可笑しそうににやけていた。