92.名残惜しい人
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
……本当に歴史が辿られるのだろうか……斎藤さんは無事に戻ってこられるのか……藤堂さんは……
廊下を歩きながら堂々巡りに陥った夢主は、ふと庭に下りて空を眺めた。
本当に厠に行きたかったわけではない、ひとりで少し考えを纏めたかっただけだ。
降りた庭は賑やかな寺の正面と違い人気のないとても静かな空間。考え事をするにはもってこいの静寂さ。
既に時は三月、旧暦の三月は夢主が育った世の四月。
昼間は暖かい陽気に身を任せることが出来る。静かで暖かく、心地好い空気だ。
目の前にある大きな木を見上げた。狭い寺の隅から広い空に届けと目一杯枝を広げている。
「あったかい……そういえば梅の花、見なかったな……」
「夢主……」
誰もいないと思った空間で突然名を呼ばれ、驚いて声の主を探すと、木の上から藤堂が降りて来た。
「藤堂さん!そんな所にいたんですか……」
「あぁちょっと考え事をな……静かでいいよな、ここ。お前もか、夢主」
少し憂いのある顔で言う藤堂に、夢主は似たような顔を返した。
「そうだよな、お前も悩むよな……どうするんだ、斎藤について来るのか」
「あ……」
これからの夢主の行動を知らない藤堂は心から心配している。
新選組に残っても飛び出しても、きっと藤堂は再び心から心配してくれるのだろう。とても優しく、いつも夢主を気に掛けてくれていたのだから。
「はい、私も一緒に……」
「そっか、そっか!じゃあさ、俺から伊東さんに頼んでみるよ!!きっと受け入れてくれるさ!なっ、良かった、一緒に来てくれるんだな!」
「あっ……あの……斎藤さんに!私から斎藤さんに直接お願いしますので、藤堂さんは待ってください。自分の口で言いたいんです」
「そうか……分かったよ。ごめんな、つい先走っちまってよ!」
藤堂が自分を責めて髪を掻き上げるので、安心させようと夢主は笑って見せた。
「ふふふっ、大丈夫ですよ、お気持ち嬉しいです!藤堂さんはいつも明るくて、傍にいると私も楽しい気持ちになります」
ねっ?と首を傾げると、藤堂ははにかんで更に髪を掻き上げた。
「ははっ、急になんだよ!嬉しいな……そんな風に思ってくれてたのか。俺も傍にいられるのが嬉しくって姿を見るとつい声掛けちまうんだよな、ははっ」
藤堂は頭から手を離すと、今度は照れくさそうに顔をぽりぽり掻いて自分の気持ちをごまかしている。
そんな様子に夢主も似たような照れ笑いを返した。
「お前の姿を目で追いかけてるとさ、楽しいんだよな。笑ったり怒ったり……斎藤君や総司がちょっとだけ羨ましかったさ。いつも隣にいるんだもん」
「そうなんですか……」
夢主はますます恥ずかしそうに、複雑な照れ笑いを浮かべた。
そんな風に思ってくれているとは露知らず、羨ましいという言葉に心苦しさを覚える。
辺りは相変わらず静かなままだ。二人の声がよく通っていた。
「私も色々……覚えていますよ、道場で斎藤さんと沖田さんがぶつかっていた時、藤堂さんにいきなり抱えられた時が一番驚きました」
あの時、見たことが無い二人の荒々しく、どこか刺々しい手合わせに萎縮していた。
道場を共に覗いてくれる人がいて、心強かった。
悪戯に抱えられたあの時、藤堂は心から楽しそうに笑顔を煌めかせていた。
斎藤達を残して二人で一緒に行こうと言ったのは、本心だったのかもしれない。
夢主は気付かなかった想いを噛みしめるように、当時の驚きを告げた。
「あははっ!あれかぁ、あのまま本当に連れ出しちまえば良かったなぁ、お前なら簡単に抱えられるぜ、ははっ」
「もぉっ、人を物みたいに言わないで下さい」
「はは、悪い悪い。俺はやっぱりあの花魁みたいな綺麗な姿で現れた時かな、別人みたいだったもんな。別人だなんて言ったら失礼か」
「いえそんな……自分でも別人みたいでしたから、気にしません」
あの時の皆の視線を思い出すと、今でも擽ったく感じる。
夢主はほんのり頬を染めて、おもはゆい気持ちでくすりと笑った。
「そっか……良かった、気ぃ悪くしないでくれよな」
くすくすと笑い合う二人の頭上で小鳥が鳴き始めた。大きな木の上からは、離れた場所までよく見通せるのだろう。
鳴き声につられ二人は顔を上げ、良く晴れた空を目にした。
廊下を歩きながら堂々巡りに陥った夢主は、ふと庭に下りて空を眺めた。
本当に厠に行きたかったわけではない、ひとりで少し考えを纏めたかっただけだ。
降りた庭は賑やかな寺の正面と違い人気のないとても静かな空間。考え事をするにはもってこいの静寂さ。
既に時は三月、旧暦の三月は夢主が育った世の四月。
昼間は暖かい陽気に身を任せることが出来る。静かで暖かく、心地好い空気だ。
目の前にある大きな木を見上げた。狭い寺の隅から広い空に届けと目一杯枝を広げている。
「あったかい……そういえば梅の花、見なかったな……」
「夢主……」
誰もいないと思った空間で突然名を呼ばれ、驚いて声の主を探すと、木の上から藤堂が降りて来た。
「藤堂さん!そんな所にいたんですか……」
「あぁちょっと考え事をな……静かでいいよな、ここ。お前もか、夢主」
少し憂いのある顔で言う藤堂に、夢主は似たような顔を返した。
「そうだよな、お前も悩むよな……どうするんだ、斎藤について来るのか」
「あ……」
これからの夢主の行動を知らない藤堂は心から心配している。
新選組に残っても飛び出しても、きっと藤堂は再び心から心配してくれるのだろう。とても優しく、いつも夢主を気に掛けてくれていたのだから。
「はい、私も一緒に……」
「そっか、そっか!じゃあさ、俺から伊東さんに頼んでみるよ!!きっと受け入れてくれるさ!なっ、良かった、一緒に来てくれるんだな!」
「あっ……あの……斎藤さんに!私から斎藤さんに直接お願いしますので、藤堂さんは待ってください。自分の口で言いたいんです」
「そうか……分かったよ。ごめんな、つい先走っちまってよ!」
藤堂が自分を責めて髪を掻き上げるので、安心させようと夢主は笑って見せた。
「ふふふっ、大丈夫ですよ、お気持ち嬉しいです!藤堂さんはいつも明るくて、傍にいると私も楽しい気持ちになります」
ねっ?と首を傾げると、藤堂ははにかんで更に髪を掻き上げた。
「ははっ、急になんだよ!嬉しいな……そんな風に思ってくれてたのか。俺も傍にいられるのが嬉しくって姿を見るとつい声掛けちまうんだよな、ははっ」
藤堂は頭から手を離すと、今度は照れくさそうに顔をぽりぽり掻いて自分の気持ちをごまかしている。
そんな様子に夢主も似たような照れ笑いを返した。
「お前の姿を目で追いかけてるとさ、楽しいんだよな。笑ったり怒ったり……斎藤君や総司がちょっとだけ羨ましかったさ。いつも隣にいるんだもん」
「そうなんですか……」
夢主はますます恥ずかしそうに、複雑な照れ笑いを浮かべた。
そんな風に思ってくれているとは露知らず、羨ましいという言葉に心苦しさを覚える。
辺りは相変わらず静かなままだ。二人の声がよく通っていた。
「私も色々……覚えていますよ、道場で斎藤さんと沖田さんがぶつかっていた時、藤堂さんにいきなり抱えられた時が一番驚きました」
あの時、見たことが無い二人の荒々しく、どこか刺々しい手合わせに萎縮していた。
道場を共に覗いてくれる人がいて、心強かった。
悪戯に抱えられたあの時、藤堂は心から楽しそうに笑顔を煌めかせていた。
斎藤達を残して二人で一緒に行こうと言ったのは、本心だったのかもしれない。
夢主は気付かなかった想いを噛みしめるように、当時の驚きを告げた。
「あははっ!あれかぁ、あのまま本当に連れ出しちまえば良かったなぁ、お前なら簡単に抱えられるぜ、ははっ」
「もぉっ、人を物みたいに言わないで下さい」
「はは、悪い悪い。俺はやっぱりあの花魁みたいな綺麗な姿で現れた時かな、別人みたいだったもんな。別人だなんて言ったら失礼か」
「いえそんな……自分でも別人みたいでしたから、気にしません」
あの時の皆の視線を思い出すと、今でも擽ったく感じる。
夢主はほんのり頬を染めて、おもはゆい気持ちでくすりと笑った。
「そっか……良かった、気ぃ悪くしないでくれよな」
くすくすと笑い合う二人の頭上で小鳥が鳴き始めた。大きな木の上からは、離れた場所までよく見通せるのだろう。
鳴き声につられ二人は顔を上げ、良く晴れた空を目にした。