92.名残惜しい人
夢主名前設定
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「総司、お前はどう思うんだ」
原田は黙って座っている沖田の存在に今更気付いた様子で訊ねた。
腕を組んで動かない土方の傍で大人しくしていた沖田。問われて咄嗟に笑顔を取り戻すが、さすがに淋しさの色が浮かんでいる。
「どうって、土方さんの言う通りですよ。僕にはどうしようもありませんし、夢主ちゃんの望むままに。僕はどこからでも見守ります。力にだってなるつもりです、出来るでしょう、一緒にいなくったって」
「総司……そうか。お前は冷静だな……俺らなんかよりよっぽど大人だ」
いつも子供扱いしている男に余裕を見せられるとは情けない。原田は自嘲して気持ちを落ち着かせた。
そして沖田が先に事情を知っていたと気付かないまま、部屋を立ち去った。
「上手く行きましたね、土方さん」
「うるせぇ……お前もさっさと行けよ」
自分をにこにこ見つめていつまでも腰を上げない沖田を、土方は仏頂面で横目に睨んで追い払った。
「やれやれ……また荒れそうだなぁ」
斎藤の部屋に誰かいるのではと戻ってきた沖田だが、土方の一言が効いたのか、引き留めに来ている者はいなかった。話し声は聞こえない。
沖田は自室に入ると中で襖を開いて空っぽの夢主の部屋を通り過ぎ、開きっ放しの襖、斎藤の部屋へ続く鴨居をくぐった。
「こちらは、まぁ収まったんじゃないでしょうか、斎藤さん」
「そうか」
持って出る荷物と置いていく荷物、密かにどこかへ運び出す荷物。斎藤は既に荷分けに入っていた。
手早く荷を片付けながら考えも纏めている。
傍では手出しするなと言われた夢主がただ黙って見つめていた。
「原田さんも永倉さんも相当戸惑っていましたよ。知りませんよ、夜道で原田さん達に斬られても」
「フッ……斬られるとしたら向こうだろうな」
「ははっ、確かに斬り合いをすればお互いにただでは済みませんものね、穏便に離隊と行きましょう」
「離隊ではない。分隊、だそうだ」
伊東の講じた策をフンと鼻で笑うと斎藤は手を止めた。
「夢主」
「はぃ……」
「お前も荷を纏めておけ。必要なものだけな。持っていけない物は沖田君に預けておくんだ。誰にも悟られないようにな」
「わかりました……」
「お前の纏めた荷物はあの男に届くよう酒屋に預けておく。いいか、飛び出す時に大きな荷を抱えていては滑稽だろう」
「ふふっ……そうですね」
家出か夜逃げのように大きな風呂敷を背負い出て行くわけにはいかない。
夢主は手に抱えて出られるほどの荷物に纏めなければと、自分の部屋を振り返った。荷物は少ない。すぐに片付くだろう。
分隊の話があったということは、斎藤の嘘が告げられるのも間もなく。
胸の奥に沈む重たいものを掻き混ぜられるような不安を感じる。
暫く会えなくなる人、もう二度と会えなくなる人。
夢主は自分を落ち着かせるべく黙って俯き、記憶を改めて整理した。
「すみません、ちょっと出てきます……厠へ……」
一人になりたいと、荷を片付ける前に一旦部屋を出た。
原田は黙って座っている沖田の存在に今更気付いた様子で訊ねた。
腕を組んで動かない土方の傍で大人しくしていた沖田。問われて咄嗟に笑顔を取り戻すが、さすがに淋しさの色が浮かんでいる。
「どうって、土方さんの言う通りですよ。僕にはどうしようもありませんし、夢主ちゃんの望むままに。僕はどこからでも見守ります。力にだってなるつもりです、出来るでしょう、一緒にいなくったって」
「総司……そうか。お前は冷静だな……俺らなんかよりよっぽど大人だ」
いつも子供扱いしている男に余裕を見せられるとは情けない。原田は自嘲して気持ちを落ち着かせた。
そして沖田が先に事情を知っていたと気付かないまま、部屋を立ち去った。
「上手く行きましたね、土方さん」
「うるせぇ……お前もさっさと行けよ」
自分をにこにこ見つめていつまでも腰を上げない沖田を、土方は仏頂面で横目に睨んで追い払った。
「やれやれ……また荒れそうだなぁ」
斎藤の部屋に誰かいるのではと戻ってきた沖田だが、土方の一言が効いたのか、引き留めに来ている者はいなかった。話し声は聞こえない。
沖田は自室に入ると中で襖を開いて空っぽの夢主の部屋を通り過ぎ、開きっ放しの襖、斎藤の部屋へ続く鴨居をくぐった。
「こちらは、まぁ収まったんじゃないでしょうか、斎藤さん」
「そうか」
持って出る荷物と置いていく荷物、密かにどこかへ運び出す荷物。斎藤は既に荷分けに入っていた。
手早く荷を片付けながら考えも纏めている。
傍では手出しするなと言われた夢主がただ黙って見つめていた。
「原田さんも永倉さんも相当戸惑っていましたよ。知りませんよ、夜道で原田さん達に斬られても」
「フッ……斬られるとしたら向こうだろうな」
「ははっ、確かに斬り合いをすればお互いにただでは済みませんものね、穏便に離隊と行きましょう」
「離隊ではない。分隊、だそうだ」
伊東の講じた策をフンと鼻で笑うと斎藤は手を止めた。
「夢主」
「はぃ……」
「お前も荷を纏めておけ。必要なものだけな。持っていけない物は沖田君に預けておくんだ。誰にも悟られないようにな」
「わかりました……」
「お前の纏めた荷物はあの男に届くよう酒屋に預けておく。いいか、飛び出す時に大きな荷を抱えていては滑稽だろう」
「ふふっ……そうですね」
家出か夜逃げのように大きな風呂敷を背負い出て行くわけにはいかない。
夢主は手に抱えて出られるほどの荷物に纏めなければと、自分の部屋を振り返った。荷物は少ない。すぐに片付くだろう。
分隊の話があったということは、斎藤の嘘が告げられるのも間もなく。
胸の奥に沈む重たいものを掻き混ぜられるような不安を感じる。
暫く会えなくなる人、もう二度と会えなくなる人。
夢主は自分を落ち着かせるべく黙って俯き、記憶を改めて整理した。
「すみません、ちょっと出てきます……厠へ……」
一人になりたいと、荷を片付ける前に一旦部屋を出た。