91.心構え
夢主名前設定
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「わわっ、待ってくださいよ!部屋に戻りますからそれから着替えてくださいっ」
夢主が冗談か本気か分からない行動に動揺していると、斎藤はやれやれと帯を解く手を止めた。
「今更だ……」
「えっ」
誰に届けるつもりも無く発した斎藤の小さな声に振り向くと、久しぶりに目にする斎藤の整った筋肉質な胸板があった。
帯をそのままに、斎藤はゆっくり袖を抜き、上半身を露にしたのだ。
無数の傷を帯びた胸に続き腹が晒された。見るのが嫌ならさっさと行けと言わんばかりに見せ付けている。
「やっ……」
冷静に、何を今更……と視線をぶつけてくる斎藤から逃れ、夢主は自分の部屋に逃げ戻った。
確かに壬生にいた頃はよく斎藤の傷の無い綺麗な背を、たまに傷が残る胸や腹も目にしていた。
部屋が分かれた今は、滅多に斎藤の肌を目にしない。
「もうっ、少し待ってくれるだけでいいのにっ」
赤い頬を膨らまし剥れてぼやくと、襖の向こうから声が届いた。
「聞こえてるぞ」
「知りませんっ」
夢主の悪態を斎藤がハハッと鼻で笑う声が聞こえた。
襖が開くのではと赤い顔を向けて警戒するが、襖は開かなかった。
夢主も寝仕度を整え、布団を広げて眠ろうとした頃、思い出したように斎藤が襖越しに話し掛けてきた。
「昼間の話、覚えているな」
「昼間の……嘘のお話ですか」
「あぁ。忘れるな」
「はぃ……」
小さく籠もった声に応えた後、夢主は鏡を覗いた。
これから淋しい現実が待っている。覗いた鏡には情けない自分の顔が映っていた。
「……ふふっ」
自嘲するよう声を漏らし、大人しく布団に潜りこんだ。
こんなに繰り返し伝えてくるのだ、斎藤も自分を突き放す振りをするのが少しは辛いのだろうか……
夢主は暗い天井を見上げて思い巡らせた。
斎藤が屯所を出るのは一時、しかし次、斎藤に会える時には藤堂が、伊東がこの世からいなくなっている。
……俺がここを出ていく時もそんな顔をして見せろ……
淋しそうな顔を……
昼間の斎藤の言葉は、斎藤自身にとっても建前ではなく、本心に近い思い。
もう一度出会う時、お互いに変わってしまっていないだろうか。
夢主は布団を手繰り寄せて顔を半分隠すと、ふと原田の子の温もりを思い出した。
ほかほかと温かい体に優しい無垢な笑顔は心までも温めてくれた。
「赤ちゃんかぁ……」
胸に赤子を抱いた感覚を思い出して微笑むが、自らが母親になる姿は到底想像出来なかった。
……こんな時代で子供を生むなんて……無理に決まってる……
斎藤には子供がいた……三人も。
幸せな斎藤の未来を思うと、自分には与えられない幸せなのかもしれないと顔を曇らせた。
「出来るのかな……」
いつの日か結ばれ夫婦になり子を授かる……
今と全く違う自分になれるのだろうか。
斎藤となら……夢主は考えながら閉ざされた襖に目をやり、向こうにいる斎藤を愛おしく思いながら目を閉じた。
いつか見た夢が現実になりますように、そう祈りながら。
夢主が冗談か本気か分からない行動に動揺していると、斎藤はやれやれと帯を解く手を止めた。
「今更だ……」
「えっ」
誰に届けるつもりも無く発した斎藤の小さな声に振り向くと、久しぶりに目にする斎藤の整った筋肉質な胸板があった。
帯をそのままに、斎藤はゆっくり袖を抜き、上半身を露にしたのだ。
無数の傷を帯びた胸に続き腹が晒された。見るのが嫌ならさっさと行けと言わんばかりに見せ付けている。
「やっ……」
冷静に、何を今更……と視線をぶつけてくる斎藤から逃れ、夢主は自分の部屋に逃げ戻った。
確かに壬生にいた頃はよく斎藤の傷の無い綺麗な背を、たまに傷が残る胸や腹も目にしていた。
部屋が分かれた今は、滅多に斎藤の肌を目にしない。
「もうっ、少し待ってくれるだけでいいのにっ」
赤い頬を膨らまし剥れてぼやくと、襖の向こうから声が届いた。
「聞こえてるぞ」
「知りませんっ」
夢主の悪態を斎藤がハハッと鼻で笑う声が聞こえた。
襖が開くのではと赤い顔を向けて警戒するが、襖は開かなかった。
夢主も寝仕度を整え、布団を広げて眠ろうとした頃、思い出したように斎藤が襖越しに話し掛けてきた。
「昼間の話、覚えているな」
「昼間の……嘘のお話ですか」
「あぁ。忘れるな」
「はぃ……」
小さく籠もった声に応えた後、夢主は鏡を覗いた。
これから淋しい現実が待っている。覗いた鏡には情けない自分の顔が映っていた。
「……ふふっ」
自嘲するよう声を漏らし、大人しく布団に潜りこんだ。
こんなに繰り返し伝えてくるのだ、斎藤も自分を突き放す振りをするのが少しは辛いのだろうか……
夢主は暗い天井を見上げて思い巡らせた。
斎藤が屯所を出るのは一時、しかし次、斎藤に会える時には藤堂が、伊東がこの世からいなくなっている。
……俺がここを出ていく時もそんな顔をして見せろ……
淋しそうな顔を……
昼間の斎藤の言葉は、斎藤自身にとっても建前ではなく、本心に近い思い。
もう一度出会う時、お互いに変わってしまっていないだろうか。
夢主は布団を手繰り寄せて顔を半分隠すと、ふと原田の子の温もりを思い出した。
ほかほかと温かい体に優しい無垢な笑顔は心までも温めてくれた。
「赤ちゃんかぁ……」
胸に赤子を抱いた感覚を思い出して微笑むが、自らが母親になる姿は到底想像出来なかった。
……こんな時代で子供を生むなんて……無理に決まってる……
斎藤には子供がいた……三人も。
幸せな斎藤の未来を思うと、自分には与えられない幸せなのかもしれないと顔を曇らせた。
「出来るのかな……」
いつの日か結ばれ夫婦になり子を授かる……
今と全く違う自分になれるのだろうか。
斎藤となら……夢主は考えながら閉ざされた襖に目をやり、向こうにいる斎藤を愛おしく思いながら目を閉じた。
いつか見た夢が現実になりますように、そう祈りながら。