91.心構え
夢主名前設定
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「それにしても本当に良かったのかなぁ~土方さんに黙って抜け出して」
ようやく気を取り直して夢主の横を歩く沖田が、道の先をぼんやり眺めてぼやいた。
暖かい陽気にすっかりのどかな口調だ。
「えぇっ、斎藤さん、土方さんからお許しを得たんじゃないんですか」
「あぁそういえば訊いていなかったな」
沖田とは対照的に慌てた声で訊ねるが、斎藤も落ち着いている。
「ええっ!そんな、じゃあ本当に土方さんに見付かったら……ただじゃ済みませんよ、戻りましょうよ!」
いくら大目に見てくれる土方でも、謹慎中に更に不祥事を起こせば流石にただでは済まないのでは。
夢主は二人を屯所へ連れ戻そうとするが、二人は至って冷静だ。呑気なほど落ち着き払っている。
「大丈夫だ。土方さんはあれでいて融通の利く人なんだよ」
「そんなぁ……今までだって色々……規則を破ってお咎めを受けた人がいたじゃありませんか、なのに平気だなんてどうして言い切れるんですか」
「いいんだよ。それよりお前もそろそろ心しておけよ」
「何をですか……」
休息所に着いた三人は足を止めた。
背後に立つ斎藤を見上げると、真っ直ぐ向けられた視線は全く揺らいでいない。
切れ長の目に捉えられたまま、夢主は黙って続きを待った。
「あの男に一度連絡をつけておけ。そろそろ話が動くかもしれん」
「新津さんに、じゃあ斎藤さんはもうすぐ……」
「そんなことは分からんし、俺がどうこう言えるものでも無い」
休息所の中に体を向け、言葉を続ける。
斎藤が動くと、その頭に隠れていた低い冬の太陽が現れた。射るような日差しが夢主を照らし、思わず目を眇める。
「そもそも沖田君がいては話がし辛くてならん」
「えぇっ!酷いじゃありませんか、夢主ちゃんに関わる話は僕も一緒に聞くべきでしょう。土方さんははっきり言ってくれませんでしたが斎藤さんもお察しの通り、あの人の件で動いているのは知っていますからね」
斎藤の後を追った沖田は土間で仁王立ちになって文句を言い、上がり框を占領している斎藤がその場を空けるのを待った。
「フン、話の腰を折るなよ」
沖田に一瞥をくれて斎藤は先に休息所の座敷に腰を下ろした。
三人腰を落ち着けると、斎藤は早速肝心な話を切り出した。
手短にこれからの事を話しておきたかったのだ。
邪魔立てするなと牽制するよう沖田を横目で見てから話を始めた。
「いいか夢主、俺はお前に一つ嘘をつく」
「嘘……」
「あぁ。俺があそこを出ていく時に、俺はお前を突き放す」
「それが……嘘……」
「そうだ。本心でお前を突き放すわけではない。だが仮にお前が俺の後を追って屯所を出たとすれば、お前が伊東達と合流しないのは不自然だろう。仮に俺があの場所へ戻ったとして、その時お前がひょっこり現れるのはどうだ、それもまた不自然ではないか」
「突き放す……置いていかれて拗ねて飛び出して……監察方が探し連れ戻されたとか……そんな手はありませんか」
「温いな。勘の鋭い奴らはお前が予め話を聞かされていたと考えるに違いない。お前に上からの情報が届くと周りに思われるのは困るんだよ」
夢主は俯くように頷き、座った膝の上に置いた手に力を込めて拳を握った。
「突き放された私は……どうなるのですか」
「傷心であそこを出ろ。それで俺が戻った時に俺が謝り連れ戻したことにしてやる」
「上手く行くでしょうか……一回放り出すのに」
「俺がべた惚れして忘れられなかったとでも言ってやるさ」
顔を上げると、柄にも無い役回りをニヤリとおどけて話す斎藤の満更でもない様子が見えた。
「いいんですか、そんなこと言ったら……そんな風にみんなに思われちゃいますよ」
「失うよりは、いいだろう」
えっ……
夢主は眉間に寄せていた皺を解いて目を丸くし、微かに首を傾げて斎藤の瞳を見つめ返した。
危険に晒すより、失うより、己が少し道化を演じれば良いだけだ。
斎藤は何とかなるから案ずるなと余裕を見せた。
ようやく気を取り直して夢主の横を歩く沖田が、道の先をぼんやり眺めてぼやいた。
暖かい陽気にすっかりのどかな口調だ。
「えぇっ、斎藤さん、土方さんからお許しを得たんじゃないんですか」
「あぁそういえば訊いていなかったな」
沖田とは対照的に慌てた声で訊ねるが、斎藤も落ち着いている。
「ええっ!そんな、じゃあ本当に土方さんに見付かったら……ただじゃ済みませんよ、戻りましょうよ!」
いくら大目に見てくれる土方でも、謹慎中に更に不祥事を起こせば流石にただでは済まないのでは。
夢主は二人を屯所へ連れ戻そうとするが、二人は至って冷静だ。呑気なほど落ち着き払っている。
「大丈夫だ。土方さんはあれでいて融通の利く人なんだよ」
「そんなぁ……今までだって色々……規則を破ってお咎めを受けた人がいたじゃありませんか、なのに平気だなんてどうして言い切れるんですか」
「いいんだよ。それよりお前もそろそろ心しておけよ」
「何をですか……」
休息所に着いた三人は足を止めた。
背後に立つ斎藤を見上げると、真っ直ぐ向けられた視線は全く揺らいでいない。
切れ長の目に捉えられたまま、夢主は黙って続きを待った。
「あの男に一度連絡をつけておけ。そろそろ話が動くかもしれん」
「新津さんに、じゃあ斎藤さんはもうすぐ……」
「そんなことは分からんし、俺がどうこう言えるものでも無い」
休息所の中に体を向け、言葉を続ける。
斎藤が動くと、その頭に隠れていた低い冬の太陽が現れた。射るような日差しが夢主を照らし、思わず目を眇める。
「そもそも沖田君がいては話がし辛くてならん」
「えぇっ!酷いじゃありませんか、夢主ちゃんに関わる話は僕も一緒に聞くべきでしょう。土方さんははっきり言ってくれませんでしたが斎藤さんもお察しの通り、あの人の件で動いているのは知っていますからね」
斎藤の後を追った沖田は土間で仁王立ちになって文句を言い、上がり框を占領している斎藤がその場を空けるのを待った。
「フン、話の腰を折るなよ」
沖田に一瞥をくれて斎藤は先に休息所の座敷に腰を下ろした。
三人腰を落ち着けると、斎藤は早速肝心な話を切り出した。
手短にこれからの事を話しておきたかったのだ。
邪魔立てするなと牽制するよう沖田を横目で見てから話を始めた。
「いいか夢主、俺はお前に一つ嘘をつく」
「嘘……」
「あぁ。俺があそこを出ていく時に、俺はお前を突き放す」
「それが……嘘……」
「そうだ。本心でお前を突き放すわけではない。だが仮にお前が俺の後を追って屯所を出たとすれば、お前が伊東達と合流しないのは不自然だろう。仮に俺があの場所へ戻ったとして、その時お前がひょっこり現れるのはどうだ、それもまた不自然ではないか」
「突き放す……置いていかれて拗ねて飛び出して……監察方が探し連れ戻されたとか……そんな手はありませんか」
「温いな。勘の鋭い奴らはお前が予め話を聞かされていたと考えるに違いない。お前に上からの情報が届くと周りに思われるのは困るんだよ」
夢主は俯くように頷き、座った膝の上に置いた手に力を込めて拳を握った。
「突き放された私は……どうなるのですか」
「傷心であそこを出ろ。それで俺が戻った時に俺が謝り連れ戻したことにしてやる」
「上手く行くでしょうか……一回放り出すのに」
「俺がべた惚れして忘れられなかったとでも言ってやるさ」
顔を上げると、柄にも無い役回りをニヤリとおどけて話す斎藤の満更でもない様子が見えた。
「いいんですか、そんなこと言ったら……そんな風にみんなに思われちゃいますよ」
「失うよりは、いいだろう」
えっ……
夢主は眉間に寄せていた皺を解いて目を丸くし、微かに首を傾げて斎藤の瞳を見つめ返した。
危険に晒すより、失うより、己が少し道化を演じれば良いだけだ。
斎藤は何とかなるから案ずるなと余裕を見せた。