90.密偵、酒宴
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島原には既に何人かの隊士が派遣され、成果を得られないまま帰屯していた。
そんな隊士らが沖田と出て行く夢主とすれ違った。
夢主の内から漏れ出る闘志にも似た気に驚いて振り返り、遠ざかる姿を見送った。
いざとういう事態に備え、沖田が選んだ一番隊の隊士も数人後ろに控えている。
島原への道中、沖田は夢主をたしなめながら他愛の無い話をしてみるが効果は無く、通りに人がいなくなった頃に顔を寄せて耳元で呟いた言葉にようやく反応が返ってきた。
「土方さんに話しましたよ、労咳の件」
「えっ……」
「やっとこっちを見てくれましたね、ははっ、病の話でだなんて皮肉だなぁ」
「ごめんなさい、ずっとやきもきしてて……」
「いいんですよ、あの人達は確かにいけないんですよ。明らかな隊規違反ですからね!連れ帰って潔く切腹していただきましょう」
「そんなっ、沖田さん!冗談ですよね」
真剣な声色で語る沖田に肝を冷やすと、沖田はしめたとばかりにクスリと笑った。
「ずっと僕を無視してたからちょっと揶揄っちゃいました、ごめんなさい。大丈夫ですよ、ね」
素直に頷く夢主に「では」と声を掛け、沖田が先導して島原へ向かった。
斎藤達が居座る角屋に辿り着くと、まずは店の者に「迎えが来た」と先に来た隊士達と同じように伝言を頼んだ。
新年早々の居座りにほとほと困っていた店の者達は快く迎え、夢主や沖田の頼みに応じてくれた。
二階の部屋で伝言を受けた斎藤や伊東達は高らかに笑い「またか」と相手にせず、店の者を部屋から追い出した。
だが店の者が障子を閉めた次の瞬間、足音に耳を傾ける間もなく部屋の戸が勢いよく開かれた。
部屋にいた者達は一斉に顔を上げた。
「夢主っ」
「夢主さんっ……」
ぽかんと口を空け、突然の来客に驚く男達。
何故ここに夢主が、呑み過ぎて幻でも見ているのかと疑うが、後からやって来た沖田の姿に我を取り戻した。
隊士達は沖田の言いつけで一階に控えている。
幹部達のだらしない姿を見せたくはないものだ。
男達の周りには噂通り女が付き、酌をしてはぴたりと寄り添っていた。
中には緋色の襦袢姿で酌をする者もいる。
緩んだ襦袢の色が女の顔まで染めるのか、頬が色付いて見える。酒を酌む途中、肌に触れる戯れもあったのだろう。
夢主は咄嗟に部屋の中を見回した。
以前、土方と共に対面した、斎藤が過去に贔屓にした太夫の姿が無いか無意識に探している。
太夫の姿は無かった。
土方との約束を守り、伊東からの逢状に応えなかったのだ。
夢主は若干気持ちを落ち着かせるが、男達の太く荒々しい足が目に入り、慌てて目を逸した。
みんな揃って着流しと言う楽な装いで、寛いだ姿勢で座っている。
斎藤さえも足を崩していた。
太夫がいなくとも女が同席する場でそんな格好を……
恥ずかしさを感じると共に、落ち着きかけた怒りの感情が蘇った。
再び心が騒ぎ出す。苛立ちながら部屋に一歩足を踏み入れるが、寄って来た斎藤の息に顔を歪めて固まった。
「くっ……臭ぃっ、お酒臭すぎますっ、呼気で酔っちゃいそう……近付かないで下さいっ……」
咄嗟に夢主は手で顔を覆い、口と鼻を隠して斎藤から体を反らした。
そんな隊士らが沖田と出て行く夢主とすれ違った。
夢主の内から漏れ出る闘志にも似た気に驚いて振り返り、遠ざかる姿を見送った。
いざとういう事態に備え、沖田が選んだ一番隊の隊士も数人後ろに控えている。
島原への道中、沖田は夢主をたしなめながら他愛の無い話をしてみるが効果は無く、通りに人がいなくなった頃に顔を寄せて耳元で呟いた言葉にようやく反応が返ってきた。
「土方さんに話しましたよ、労咳の件」
「えっ……」
「やっとこっちを見てくれましたね、ははっ、病の話でだなんて皮肉だなぁ」
「ごめんなさい、ずっとやきもきしてて……」
「いいんですよ、あの人達は確かにいけないんですよ。明らかな隊規違反ですからね!連れ帰って潔く切腹していただきましょう」
「そんなっ、沖田さん!冗談ですよね」
真剣な声色で語る沖田に肝を冷やすと、沖田はしめたとばかりにクスリと笑った。
「ずっと僕を無視してたからちょっと揶揄っちゃいました、ごめんなさい。大丈夫ですよ、ね」
素直に頷く夢主に「では」と声を掛け、沖田が先導して島原へ向かった。
斎藤達が居座る角屋に辿り着くと、まずは店の者に「迎えが来た」と先に来た隊士達と同じように伝言を頼んだ。
新年早々の居座りにほとほと困っていた店の者達は快く迎え、夢主や沖田の頼みに応じてくれた。
二階の部屋で伝言を受けた斎藤や伊東達は高らかに笑い「またか」と相手にせず、店の者を部屋から追い出した。
だが店の者が障子を閉めた次の瞬間、足音に耳を傾ける間もなく部屋の戸が勢いよく開かれた。
部屋にいた者達は一斉に顔を上げた。
「夢主っ」
「夢主さんっ……」
ぽかんと口を空け、突然の来客に驚く男達。
何故ここに夢主が、呑み過ぎて幻でも見ているのかと疑うが、後からやって来た沖田の姿に我を取り戻した。
隊士達は沖田の言いつけで一階に控えている。
幹部達のだらしない姿を見せたくはないものだ。
男達の周りには噂通り女が付き、酌をしてはぴたりと寄り添っていた。
中には緋色の襦袢姿で酌をする者もいる。
緩んだ襦袢の色が女の顔まで染めるのか、頬が色付いて見える。酒を酌む途中、肌に触れる戯れもあったのだろう。
夢主は咄嗟に部屋の中を見回した。
以前、土方と共に対面した、斎藤が過去に贔屓にした太夫の姿が無いか無意識に探している。
太夫の姿は無かった。
土方との約束を守り、伊東からの逢状に応えなかったのだ。
夢主は若干気持ちを落ち着かせるが、男達の太く荒々しい足が目に入り、慌てて目を逸した。
みんな揃って着流しと言う楽な装いで、寛いだ姿勢で座っている。
斎藤さえも足を崩していた。
太夫がいなくとも女が同席する場でそんな格好を……
恥ずかしさを感じると共に、落ち着きかけた怒りの感情が蘇った。
再び心が騒ぎ出す。苛立ちながら部屋に一歩足を踏み入れるが、寄って来た斎藤の息に顔を歪めて固まった。
「くっ……臭ぃっ、お酒臭すぎますっ、呼気で酔っちゃいそう……近付かないで下さいっ……」
咄嗟に夢主は手で顔を覆い、口と鼻を隠して斎藤から体を反らした。