89.熱燗の熱
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「はーい、お待たせしましたぁ~!」
元気に戻ってきた沖田を迎え入れる為に障子を開くと、鼻と頬を赤く染め、まるで酔っ払いのような顔で立っていた。
「わぁ、沖田さん!寒かったんですね、すみません、早く中に……」
「ふふん、ありがとう夢主ちゃん」
「えっ……」
沖田が夢主の横を通り過ぎた時、ふと柔らかく甘い香りも共に通り過ぎた。
「沖田さん、お茶じゃないんですか」
「えぇ、たまには熱燗で温まりましょう」
熱燗を含んで夢主に手を伸ばしてしまった経験がある斎藤は、眉間に深い皺を寄せた。
「熱燗」
「あれ、斎藤さん熱いのはお嫌いですか」
「嫌いではないがな、温まりすぎるんだよ」
「そうですか……どうしましょうね」
せっかく用意した熱燗を飲まないのかと、沖田は大袈裟に首を倒した。
「夢主ちゃんは呑んだことありませんよね」
「はい、熱燗は……」
「せっかくだし一杯だけ、どうかな。お酒はね、夢主ちゃんの弱いお酒で作ったんだよ」
「そうなんですか、でしたら一杯だけ……」
斎藤も夢主の酒ならばいけるかと猪口を手にした。
しかし猪口から手に伝わる酒の熱に、あの日の出来事を思い返してしまう。
行灯からの揺らぐ明かりだけが照らす薄暗い部屋の中、ほのかに酔った夢主が自分の気持ちを打ち明けそうになった時、斎藤は堪えきれずに夢主の言葉を止めた。
聞いてしまえば今度は自分の感情の抑えが効かなくなってしまうと、夢主を責めた。
今にして思えば、己の弱さを夢主のせいにして逃げていた。斎藤は若葉色の猪口の中で揺れる酒を眺めた。
「斎藤さん、大丈夫ですか」
「あぁすまん。少し考え事をしていただけだ」
あの日と違い酒は弱く沖田も共にいるのだから、間違いはまず起こるまい。
斎藤は手にした酒を流し込んだ。
「美味いな、酒の弱さも気にならん。腹の中から温まる」
酒を用意してくれた沖田にニッと目で礼を伝えると、沖田に酒を汲んでやった。
そして猪口を手にしたまま座る夢主を促した。
「冷えた体にはいいだろう。お前も呑んで温まれ」
「はい」
素直に応え、愛らしい桜色の猪口に目を落とした。
猪口からの熱で指先が温まっていく感覚が心地よい。
口を付けると優しい香りが広がり、温かさと共に夢主を包み込んだ。
「とっても美味しい……このお酒、温めてもこんなに美味しかったんですね、すごく……おいしい……」
一口含んで様子を確かめた夢主は猪口に残っていた酒を全て流し込み、体の中を温かいものが通り過ぎて行く感覚を味わった。
酒の熱だけではないものが体を温めて行く。
「あぁ……酔いが……はやくまわるきがします」
「そうですか、僕は違いが分からないなぁ」
そう言いながら沖田はご機嫌に手酌で酒を進めた。
元気に戻ってきた沖田を迎え入れる為に障子を開くと、鼻と頬を赤く染め、まるで酔っ払いのような顔で立っていた。
「わぁ、沖田さん!寒かったんですね、すみません、早く中に……」
「ふふん、ありがとう夢主ちゃん」
「えっ……」
沖田が夢主の横を通り過ぎた時、ふと柔らかく甘い香りも共に通り過ぎた。
「沖田さん、お茶じゃないんですか」
「えぇ、たまには熱燗で温まりましょう」
熱燗を含んで夢主に手を伸ばしてしまった経験がある斎藤は、眉間に深い皺を寄せた。
「熱燗」
「あれ、斎藤さん熱いのはお嫌いですか」
「嫌いではないがな、温まりすぎるんだよ」
「そうですか……どうしましょうね」
せっかく用意した熱燗を飲まないのかと、沖田は大袈裟に首を倒した。
「夢主ちゃんは呑んだことありませんよね」
「はい、熱燗は……」
「せっかくだし一杯だけ、どうかな。お酒はね、夢主ちゃんの弱いお酒で作ったんだよ」
「そうなんですか、でしたら一杯だけ……」
斎藤も夢主の酒ならばいけるかと猪口を手にした。
しかし猪口から手に伝わる酒の熱に、あの日の出来事を思い返してしまう。
行灯からの揺らぐ明かりだけが照らす薄暗い部屋の中、ほのかに酔った夢主が自分の気持ちを打ち明けそうになった時、斎藤は堪えきれずに夢主の言葉を止めた。
聞いてしまえば今度は自分の感情の抑えが効かなくなってしまうと、夢主を責めた。
今にして思えば、己の弱さを夢主のせいにして逃げていた。斎藤は若葉色の猪口の中で揺れる酒を眺めた。
「斎藤さん、大丈夫ですか」
「あぁすまん。少し考え事をしていただけだ」
あの日と違い酒は弱く沖田も共にいるのだから、間違いはまず起こるまい。
斎藤は手にした酒を流し込んだ。
「美味いな、酒の弱さも気にならん。腹の中から温まる」
酒を用意してくれた沖田にニッと目で礼を伝えると、沖田に酒を汲んでやった。
そして猪口を手にしたまま座る夢主を促した。
「冷えた体にはいいだろう。お前も呑んで温まれ」
「はい」
素直に応え、愛らしい桜色の猪口に目を落とした。
猪口からの熱で指先が温まっていく感覚が心地よい。
口を付けると優しい香りが広がり、温かさと共に夢主を包み込んだ。
「とっても美味しい……このお酒、温めてもこんなに美味しかったんですね、すごく……おいしい……」
一口含んで様子を確かめた夢主は猪口に残っていた酒を全て流し込み、体の中を温かいものが通り過ぎて行く感覚を味わった。
酒の熱だけではないものが体を温めて行く。
「あぁ……酔いが……はやくまわるきがします」
「そうですか、僕は違いが分からないなぁ」
そう言いながら沖田はご機嫌に手酌で酒を進めた。