88.いつかの望み
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近藤の部屋では土方が見守る中、静かに話が進められていた。
「総司に道場を、これは誰も文句のつけようがないだろう。江戸にいた頃から誰もが感じていたはずだ」
「ですが、やはり周平さんを養子に迎えたからには」
「彼にはもちろん天然理心流の稽古を積んでもらう。だが道場を継ぐには正直まだまだ未熟過ぎる」
「彼が腕を上げるまで……そういうことですか」
「いや、総司が道場を継ぎ、次に引き継ぐに相応しいとお前が判断できる男に渡してくれればいい。誰の息子かではなく剣の腕が師範に足るかどうかだ」
「それでは彼の立場が……」
「彼には近藤家を継いでもらう。その役目も重要だ」
「近藤家……」
土方は言葉を交わす二人の顔に交互に視線を送り黙って話の行方を見守っている。
「試衛館を任せてくれるのはとても嬉しいです。正直……おこがましくも、ずっとそのつもりでいました。でも……近藤さんが周平さんを養子に迎えた時に思ったんです。近藤さんには近藤さんの考えがある、僕には僕の……考えを持たなきゃいけないんだって。生き方を考えなければと」
「総司……」
近藤は養子縁組が沖田に与えた影響の大きさを、今更ながら思い知った。
若く器量良しの若者を養子に迎え満足していたが、ずっと傍で尽くしてくれた沖田の心を置き去りにしていたと、ようやく気が付いたのだ。
「もっと早く伝えるべきだったな、きっと総司は心積もりしてくれていると……俺がお前に甘えていたんだな、すまん総司」
「近藤さん……僕は今も変わらず近藤さんが大好きですよ。周平さんはいい子だと思いますし……試衛館も大好きです。僕は天然理心流の使い手だし……」
そこまで言って顔を上げた沖田の晴れやかな顔に、視線を送っていた土方が息を呑んだ。
「僕、自分の道場を持ちたいんです」
「総司……」
「誰にも言ってなかったんです。出来ればもっと、ずっと……内緒にしておきたかったなぁ、ははっ。そうだな、本当に目途がつく頃までは」
「総司お前……」
驚きで伸ばしていた背筋を緩める近藤に対し、土方は体を乗り出して顔を覗いた。
……山南さんが言っていた総司の夢、このことか、山南さんは知っていたんだな、だから自由にしてやって欲しいだなんて、あんなことを……
何かを察した土方に、沖田はにこりと穏やかな笑顔を向けた。
「試衛館を継ぐのは嬉しいです。でも継ぐのならば……今の試衛館はそのまま周平さんに、僕は僕で道場を開きたいです。お弟子達さんを新しく一から募って……こんな我が儘、駄目でしょうか」
「総司……駄目なものか、天然理心流の発展だ、喜んで支援するぞ」
「ありがとうございます、でもその支援も遠慮します。一から……やってみたいんです。僕の道場」
「ははははっ、総司の道場か……鬼の稽古じゃ誰もついてこれねぇな」
驚き言葉を失う近藤と沖田の間で、土方は黙っていた口を開き爽やかに笑った。
「ふふっ、山南さんにも言われました。少し控えるよう努力します」
「そうか……山南さんも……」
「もちろんすぐにとは思っていません。京の動乱が落ち着いてから……そんな日が来るのか分かりませんが」
「総司、今暫く力を貸してくれるか」
「えぇ、勿論です。僕で良ければそばに……いさせてください」
三人、目を合わせ互いに優しく微笑んだ。
そこには沖田が幼い頃に得た絆が今も確かに存在していた。
「総司に道場を、これは誰も文句のつけようがないだろう。江戸にいた頃から誰もが感じていたはずだ」
「ですが、やはり周平さんを養子に迎えたからには」
「彼にはもちろん天然理心流の稽古を積んでもらう。だが道場を継ぐには正直まだまだ未熟過ぎる」
「彼が腕を上げるまで……そういうことですか」
「いや、総司が道場を継ぎ、次に引き継ぐに相応しいとお前が判断できる男に渡してくれればいい。誰の息子かではなく剣の腕が師範に足るかどうかだ」
「それでは彼の立場が……」
「彼には近藤家を継いでもらう。その役目も重要だ」
「近藤家……」
土方は言葉を交わす二人の顔に交互に視線を送り黙って話の行方を見守っている。
「試衛館を任せてくれるのはとても嬉しいです。正直……おこがましくも、ずっとそのつもりでいました。でも……近藤さんが周平さんを養子に迎えた時に思ったんです。近藤さんには近藤さんの考えがある、僕には僕の……考えを持たなきゃいけないんだって。生き方を考えなければと」
「総司……」
近藤は養子縁組が沖田に与えた影響の大きさを、今更ながら思い知った。
若く器量良しの若者を養子に迎え満足していたが、ずっと傍で尽くしてくれた沖田の心を置き去りにしていたと、ようやく気が付いたのだ。
「もっと早く伝えるべきだったな、きっと総司は心積もりしてくれていると……俺がお前に甘えていたんだな、すまん総司」
「近藤さん……僕は今も変わらず近藤さんが大好きですよ。周平さんはいい子だと思いますし……試衛館も大好きです。僕は天然理心流の使い手だし……」
そこまで言って顔を上げた沖田の晴れやかな顔に、視線を送っていた土方が息を呑んだ。
「僕、自分の道場を持ちたいんです」
「総司……」
「誰にも言ってなかったんです。出来ればもっと、ずっと……内緒にしておきたかったなぁ、ははっ。そうだな、本当に目途がつく頃までは」
「総司お前……」
驚きで伸ばしていた背筋を緩める近藤に対し、土方は体を乗り出して顔を覗いた。
……山南さんが言っていた総司の夢、このことか、山南さんは知っていたんだな、だから自由にしてやって欲しいだなんて、あんなことを……
何かを察した土方に、沖田はにこりと穏やかな笑顔を向けた。
「試衛館を継ぐのは嬉しいです。でも継ぐのならば……今の試衛館はそのまま周平さんに、僕は僕で道場を開きたいです。お弟子達さんを新しく一から募って……こんな我が儘、駄目でしょうか」
「総司……駄目なものか、天然理心流の発展だ、喜んで支援するぞ」
「ありがとうございます、でもその支援も遠慮します。一から……やってみたいんです。僕の道場」
「ははははっ、総司の道場か……鬼の稽古じゃ誰もついてこれねぇな」
驚き言葉を失う近藤と沖田の間で、土方は黙っていた口を開き爽やかに笑った。
「ふふっ、山南さんにも言われました。少し控えるよう努力します」
「そうか……山南さんも……」
「もちろんすぐにとは思っていません。京の動乱が落ち着いてから……そんな日が来るのか分かりませんが」
「総司、今暫く力を貸してくれるか」
「えぇ、勿論です。僕で良ければそばに……いさせてください」
三人、目を合わせ互いに優しく微笑んだ。
そこには沖田が幼い頃に得た絆が今も確かに存在していた。