88.いつかの望み
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「伊東さん、大丈夫かな……」
おかしな言動を心配し、遠征の失敗で参っているのかと、縁側に上がって歩いて行く姿を眺めた。
「おい」
箒を持ったまま立っていると、斎藤の部屋の障子が開き、来いと手招きされた。
小走りで駆け寄り、伊東が残していった庭下駄の横に箒を立てかける。
夢主が縁側に上がるのを待って、斎藤は問いかけた。
「何を話していた」
「それが、京の美しさと……西の国のお話を」
「西の国」
「はい、西の国をどう思うかと聞かれたので、大坂は商人の町で、他は分からないですとお答えしました」
「そうか」
「はぃ……それから他はと聞かれたので、薩摩と長州くらいしか浮かばないけど、行った事がないのでと……」
「それでご機嫌に去っていったのか」
「何かいけなかったでしょうか」
「いや、伊東さんが勝手に喜んでいるだけだろう。俺達が目の敵にしている長州と、会津と共に京を守っている薩摩の名が並んだのをな」
「えっ……おかしなことでしょうか」
「さぁな。だが伊東さんには嬉しい並びだったようだ。反目すべき二藩が並ぶのがな」
「また長い旅に出ると仰ってましたけどまさか……」
「そうか。まぁまた暫く顔を見なくて良いのなら構わんがな。何か起こりそうな嫌な予感がするな」
その予感どおり、伊東は薩摩への接触を試みるようになっていく。
伊東が姿を消した先を見据えて、斎藤は腕組みをした。
「そろそろ京にも雪が降る季節だな」
「……ふふっ」
「何だ」
空を見上げ呟いた言葉を夢主が笑った。
「ごめんなさい、伊東さんも同じようなことを仰っていたので……ふふっ、伊東さんの言葉を借りますと、みんな風流ですねっ」
「フン、やめんか」
伊東の言葉を真似て揶揄う夢主に悪態をつくと、斎藤は障子を開け放っていた部屋へ戻って行った。
「斎藤さん、こんなに冷えますし熱いお茶をお持ちしますね。ちょうどお掃除も終わったので片付けてきます」
部屋の中で黙って頷いた斎藤に会釈をして、夢主は勝手元へ向かった。
「沖田さんもお部屋にいるのかな……」
斎藤と話す声が届けば部屋から出てきそうなものだが、姿を見せなかった。
不在かもしれないが、念の為に三人分の茶を用意した。
「お待たせしました。……あの、沖田さんは……」
斎藤に茶を届け、斎藤の部屋から襖の開いた自分の部屋に目を向けるが、沖田の部屋に続く襖は閉じたままだった。
人が動いている気配も無い。
「沖田君は近藤さんの部屋だ」
「近藤さんのお部屋ですか」
「あぁ。道場について、江戸の試衛館について話があるらしい」
「試衛館のお話……」
「近藤さんが道場は沖田君に任せると郷への手紙に書いていたのが伝わったようでな。沖田君が確認に行っている」
「沖田さんに……」
「あぁ。まぁ自然な話だろうな」
「周平さんは……」
「養子の周平か。分からんが家は周平に、道場は沖田君に、そう考えているのかも知れんし、もっと別の考えがあるのかも知れんな。近藤さんの考えだ、正直俺には分からん」
「そうですか……沖田さん、喜んでるかな」
近藤を慕い剣術を愛する沖田ならば、自らの修めた流派を受け継ぐことに喜びを感じるだろう。
夢主は沖田の湯呑みを盆に置いたまま、自分の茶を手に取った。
「今日は冷えるな。熱い茶が美味い」
「ふふっ、良かったです。……ねぇ斎藤さん」
「なんだ」
夢主は湯呑みを顔に近づけ、立ち上る湯気を顔に当てた。
「沖田さんが戻ったら……久しぶりに、三人で湯屋に行きませんか」
「湯屋か」
「温まりませんか……」
斎藤は夢主の手元から広がる白い湯気を眺めた。
「……いいだろう」
夢主はありがとうございますと頭を下げると、熱い茶に小さく息を吹きかけて、そっと口に含んだ。
おかしな言動を心配し、遠征の失敗で参っているのかと、縁側に上がって歩いて行く姿を眺めた。
「おい」
箒を持ったまま立っていると、斎藤の部屋の障子が開き、来いと手招きされた。
小走りで駆け寄り、伊東が残していった庭下駄の横に箒を立てかける。
夢主が縁側に上がるのを待って、斎藤は問いかけた。
「何を話していた」
「それが、京の美しさと……西の国のお話を」
「西の国」
「はい、西の国をどう思うかと聞かれたので、大坂は商人の町で、他は分からないですとお答えしました」
「そうか」
「はぃ……それから他はと聞かれたので、薩摩と長州くらいしか浮かばないけど、行った事がないのでと……」
「それでご機嫌に去っていったのか」
「何かいけなかったでしょうか」
「いや、伊東さんが勝手に喜んでいるだけだろう。俺達が目の敵にしている長州と、会津と共に京を守っている薩摩の名が並んだのをな」
「えっ……おかしなことでしょうか」
「さぁな。だが伊東さんには嬉しい並びだったようだ。反目すべき二藩が並ぶのがな」
「また長い旅に出ると仰ってましたけどまさか……」
「そうか。まぁまた暫く顔を見なくて良いのなら構わんがな。何か起こりそうな嫌な予感がするな」
その予感どおり、伊東は薩摩への接触を試みるようになっていく。
伊東が姿を消した先を見据えて、斎藤は腕組みをした。
「そろそろ京にも雪が降る季節だな」
「……ふふっ」
「何だ」
空を見上げ呟いた言葉を夢主が笑った。
「ごめんなさい、伊東さんも同じようなことを仰っていたので……ふふっ、伊東さんの言葉を借りますと、みんな風流ですねっ」
「フン、やめんか」
伊東の言葉を真似て揶揄う夢主に悪態をつくと、斎藤は障子を開け放っていた部屋へ戻って行った。
「斎藤さん、こんなに冷えますし熱いお茶をお持ちしますね。ちょうどお掃除も終わったので片付けてきます」
部屋の中で黙って頷いた斎藤に会釈をして、夢主は勝手元へ向かった。
「沖田さんもお部屋にいるのかな……」
斎藤と話す声が届けば部屋から出てきそうなものだが、姿を見せなかった。
不在かもしれないが、念の為に三人分の茶を用意した。
「お待たせしました。……あの、沖田さんは……」
斎藤に茶を届け、斎藤の部屋から襖の開いた自分の部屋に目を向けるが、沖田の部屋に続く襖は閉じたままだった。
人が動いている気配も無い。
「沖田君は近藤さんの部屋だ」
「近藤さんのお部屋ですか」
「あぁ。道場について、江戸の試衛館について話があるらしい」
「試衛館のお話……」
「近藤さんが道場は沖田君に任せると郷への手紙に書いていたのが伝わったようでな。沖田君が確認に行っている」
「沖田さんに……」
「あぁ。まぁ自然な話だろうな」
「周平さんは……」
「養子の周平か。分からんが家は周平に、道場は沖田君に、そう考えているのかも知れんし、もっと別の考えがあるのかも知れんな。近藤さんの考えだ、正直俺には分からん」
「そうですか……沖田さん、喜んでるかな」
近藤を慕い剣術を愛する沖田ならば、自らの修めた流派を受け継ぐことに喜びを感じるだろう。
夢主は沖田の湯呑みを盆に置いたまま、自分の茶を手に取った。
「今日は冷えるな。熱い茶が美味い」
「ふふっ、良かったです。……ねぇ斎藤さん」
「なんだ」
夢主は湯呑みを顔に近づけ、立ち上る湯気を顔に当てた。
「沖田さんが戻ったら……久しぶりに、三人で湯屋に行きませんか」
「湯屋か」
「温まりませんか……」
斎藤は夢主の手元から広がる白い湯気を眺めた。
「……いいだろう」
夢主はありがとうございますと頭を下げると、熱い茶に小さく息を吹きかけて、そっと口に含んだ。