88.いつかの望み
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
早めの夕餉を終えた夢主は、共に食事を終えた斎藤の部屋で洗濯物を畳んでいた。
斎藤は文机に向かい、夜の巡察までの時間を潰している。
「今日久しぶりにゆっくり原田さんとお話したんですよ、お会いしたのも久しぶりな気がします……そういえば永倉さんも」
「原田さんはおまささんとの生活、永倉さんも小常さんとか言う女の所だろう」
「そうですね……お二人共すっかり……ふふっ。大事な人の傍にいたいですよね」
散々呑んで遊び回っていた二人も、すっかり落ち着いてしまったのか。
笑う夢主だが、斎藤は机に向かう顔を上げずに呟いた。
「ここも随分と変わってきたな」
「斎藤さん……」
「そろそろ支度をするか」
机の物を片付け斎藤が立ち上がった。
夢主も自分の部屋に戻ろうと腰を上げた。襖を開いた手を止めて肩越しに斎藤を見ると、既に袴を手にしている。自分が襖を閉めるまで待ってくれている。
「斎藤さん……」
「何だ」
「変わらないものも……きっとありますよ」
「フン」
静かに笑んで部屋に戻る夢主に斎藤は鼻をならし、襖が閉まるの見届けて着替えを始めた。
閉じた障子に背を向けたまま、夢主は斎藤の言葉を噛み締めた。
「そう……変わっちゃうんだ……」
現実に、隊は既に大きく変わっていた。
夢主が初めてやって来た頃に比べ隊士の数は増え、また殉職や切腹、度重なる粛清でいなくなってしまった隊士も多い。
斎藤はこの新選組が大好きなのだろう。
決して口には出さないが、刀を振るう為に必要な場であり、数少ない気の置けない仲間がいる場なのだろう。
この年の秋頃から冬にかけて、新選組局長の近藤、参謀の伊東らが広島方面へ出向いた。
幾度か長州への入国を試みるが結局果たせずに帰京する。近藤に焦りが生ませないか、気掛かりだ。
同行した伊東もまた、新選組を大きく変える人物だ。
夏のじっとりとした暑さが嘘のように、町には肌を震わせる風が吹いている。
吹き付ける風が木々の枝から、葉を落とし切ろうとしていた。
四季の移り変わりが見事に映える京の町の素晴らしさ。
京に生まれ育った者はそれを誇りにし、他の地から来た者達は感嘆して溜息を漏らす。
土方や斎藤も四季の移り変わりを味わう心を持ち合わせている。
伊東もまた、季節が変わる度に見せる表情を楽しむ男であった。
「美しいわね……散りゆく落ち葉も風情があるけれど、葉の無くなった枝も私は嫌いではないわ。そのうちに雪が降り積もって白い枝に変わるのよ……」
「伊東さん」
「お久しぶりね」
部屋前の庭を箒で掃く夢主に声を掛けた伊東は、長州入りに失敗し戻ってきたのだが、どこか機嫌が良い。
「貴女も風流がお好きだと聞いたわよ、やはり京の町はいいわね。西の国々も美しかったけれど、やはりこの地に比べると……あら、いけないわね」
懐から取り出した扇子で口元を隠し、他藩を笑ってはいけないと誤魔化した。
悪戯な仕草に、夢主もつい笑みを漏らした。
以前は怖いと感じたが、機嫌が良いからか、扇子の向こうで微笑む姿に怖さは感じない。
「ふふっ、伊東さん、長旅お疲れさまでした」
「確かに長かったわね……これからもっと長い旅になりそうだけど」
「また出かけられるのですか」
「そうね……ねぇ貴女、西の諸国をどう思うかしら」
「西の?大坂……とかでしょうか、商人の町って印象がありますけど……」
「そうではないわ、もっと西よ」
「はぁ……でしたら薩摩と長州ですか……行ったことが無いので、どうとも……」
夢主は幕末、大坂より西の地と聞いて誰もが思い浮かべる代表的な二藩を口にした。
この屯所にいてもよく耳にする藩名だけに、何も気にしていない。
「そう、薩摩と長州!!そうよ、そうなのよ……」
「伊東さん?」
伊東は突然高揚し甲高い声で言うと、夢主の手を取り、にこにこと「薩摩と長州」と再度繰り返して、そそくさと立ち去った。
斎藤は文机に向かい、夜の巡察までの時間を潰している。
「今日久しぶりにゆっくり原田さんとお話したんですよ、お会いしたのも久しぶりな気がします……そういえば永倉さんも」
「原田さんはおまささんとの生活、永倉さんも小常さんとか言う女の所だろう」
「そうですね……お二人共すっかり……ふふっ。大事な人の傍にいたいですよね」
散々呑んで遊び回っていた二人も、すっかり落ち着いてしまったのか。
笑う夢主だが、斎藤は机に向かう顔を上げずに呟いた。
「ここも随分と変わってきたな」
「斎藤さん……」
「そろそろ支度をするか」
机の物を片付け斎藤が立ち上がった。
夢主も自分の部屋に戻ろうと腰を上げた。襖を開いた手を止めて肩越しに斎藤を見ると、既に袴を手にしている。自分が襖を閉めるまで待ってくれている。
「斎藤さん……」
「何だ」
「変わらないものも……きっとありますよ」
「フン」
静かに笑んで部屋に戻る夢主に斎藤は鼻をならし、襖が閉まるの見届けて着替えを始めた。
閉じた障子に背を向けたまま、夢主は斎藤の言葉を噛み締めた。
「そう……変わっちゃうんだ……」
現実に、隊は既に大きく変わっていた。
夢主が初めてやって来た頃に比べ隊士の数は増え、また殉職や切腹、度重なる粛清でいなくなってしまった隊士も多い。
斎藤はこの新選組が大好きなのだろう。
決して口には出さないが、刀を振るう為に必要な場であり、数少ない気の置けない仲間がいる場なのだろう。
この年の秋頃から冬にかけて、新選組局長の近藤、参謀の伊東らが広島方面へ出向いた。
幾度か長州への入国を試みるが結局果たせずに帰京する。近藤に焦りが生ませないか、気掛かりだ。
同行した伊東もまた、新選組を大きく変える人物だ。
夏のじっとりとした暑さが嘘のように、町には肌を震わせる風が吹いている。
吹き付ける風が木々の枝から、葉を落とし切ろうとしていた。
四季の移り変わりが見事に映える京の町の素晴らしさ。
京に生まれ育った者はそれを誇りにし、他の地から来た者達は感嘆して溜息を漏らす。
土方や斎藤も四季の移り変わりを味わう心を持ち合わせている。
伊東もまた、季節が変わる度に見せる表情を楽しむ男であった。
「美しいわね……散りゆく落ち葉も風情があるけれど、葉の無くなった枝も私は嫌いではないわ。そのうちに雪が降り積もって白い枝に変わるのよ……」
「伊東さん」
「お久しぶりね」
部屋前の庭を箒で掃く夢主に声を掛けた伊東は、長州入りに失敗し戻ってきたのだが、どこか機嫌が良い。
「貴女も風流がお好きだと聞いたわよ、やはり京の町はいいわね。西の国々も美しかったけれど、やはりこの地に比べると……あら、いけないわね」
懐から取り出した扇子で口元を隠し、他藩を笑ってはいけないと誤魔化した。
悪戯な仕草に、夢主もつい笑みを漏らした。
以前は怖いと感じたが、機嫌が良いからか、扇子の向こうで微笑む姿に怖さは感じない。
「ふふっ、伊東さん、長旅お疲れさまでした」
「確かに長かったわね……これからもっと長い旅になりそうだけど」
「また出かけられるのですか」
「そうね……ねぇ貴女、西の諸国をどう思うかしら」
「西の?大坂……とかでしょうか、商人の町って印象がありますけど……」
「そうではないわ、もっと西よ」
「はぁ……でしたら薩摩と長州ですか……行ったことが無いので、どうとも……」
夢主は幕末、大坂より西の地と聞いて誰もが思い浮かべる代表的な二藩を口にした。
この屯所にいてもよく耳にする藩名だけに、何も気にしていない。
「そう、薩摩と長州!!そうよ、そうなのよ……」
「伊東さん?」
伊東は突然高揚し甲高い声で言うと、夢主の手を取り、にこにこと「薩摩と長州」と再度繰り返して、そそくさと立ち去った。