88.いつかの望み
夢主名前設定
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「よぉ左之、久しぶりに非番に姿を見せたと思ったらお前何しに来たんだよ」
「おぉっ新八!何しに来たはねぇだろう」
「夢主を抱擁しに来たんじゃねぇのか」
「おいおい、冗談で言ってるんだろうな」
「ははっ、まぁな。で、どうだ……あいつ」
「それは俺が聞きたい……放ったらかした俺がいけねぇんだが、あいつの身に何が起きたんだ、新八、お前は詳しく知ってるのか」
「気になるか」
「土方さん!」
背後から話に割って入ってきた声に、二人が振り返った。
土方が眉間に皺を寄せて立っていた。
険しい顔で腕組みをしている。見えない手元に怒りを隠しているようだ。楽な装いだが、少しも寛ぐ気配が感じられない。
「見ちまったんだ。斎藤と総司が不逞浪士らを斬り殺すところを。それから……見知らぬ男達に手篭めにされそうになった。実際一線は越えなかったが、着物を剥がれてあれこれ触られたようだ」
「何だとっ」
「そいつは本当かっ、そいつらは一体!」
知らされた真相に、二人は土方に詰め寄った。
大声を出してしまった二人は井戸にいる夢主を見るが、洗い物に懸命でこちらには気付いていない。
土方も洗い物に勤しむ夢主を見た。
「本当だ。男達は通りすがりの浪人が斬り伏せたそうだ。あとは……余計な詮索はするな、大丈夫だ。斎藤達に任せておけ」
「斎藤達に……」
「それで夢主は本当に大丈夫なのか」
「あぁ、大丈夫だ。でなけりゃ俺だって……」
土方は言いかけて我に返り、目の前の二人を睨みつけた。
「とにかくだ、余計な詮索は無用だ。他の連中まで気にし始めちまう。お前らの仕事は聞き耳立てやがる平隊士達をしっかり管理して好奇心を抑えることだろう、お前らが噂しててどうすんだ」
「他の……そうだな、確かに土方さんの言う通りだ」
「副長はちゃんと斎藤達が役目を果たしてるか、しっかり目付けしてくれよ」
「分かってるさ」
土方は立ち去ろうとするが、小さく振り返った。
「傍にいてやるくらいなら、あいつも喜ぶだろう」
そう言い残して去っていった。
「斎藤達もずっとはいられねぇからな」
「たまには顔を見に来てやらねぇとだな」
二人は夢主が洗い物を終えて、汗掻いた顔を上げ笑顔を見せるまで、懸命に働く姿を縁側から眺めていた。
夢主が洗濯を終えた頃、土方の部屋では沖田が珍しく憤慨していた。
始末が済んだと思った例の娘の実家である商家から、謝罪金だと二百両もの金が届いたのだ。
それを土方が受け取ってしまったので沖田は怒っていた。
「どうして受け取っちゃったんですか!これでは借りが出来てしまうではありませんか!」
「借りではないだろう、あちらさんの詫びの気持ちなんだ。受け取ってやらねぇと向こうも引っ込みがつかねぇだろう」
「それにしても額が大き過ぎます!」
「分からねぇかな、この金はお前宛てであってお前宛じゃねぇんだよ。大坂の一商家から、新選組に対しての金なんだよ」
「どういう意味ですか……」
「今後とも良しなに……」
「そんな、尚更受け取ってはいけませんよ!」
「武器を揃え情報を仕入れるには金が掛かる。悪いが金は受け取るぜ。それにな……分からねぇか」
「何がですか……僕には分かりませんよ」
真っ直ぐな眼差しを向ける沖田に土方は大きく溜息を吐き、静かににじり寄った。
「この金は夢主に対しての慰謝料でもあるんだよ。ここまで言えば分からねぇか」
「あ……では……」
「あぁ。会津藩や幕府に貰った金は隊にしか使えねぇ。だがあいつに対して払われたこの金なら、いざという時に渡してやれるんだよ」
「だから土方さんは……」
沖田はようやく納得して見目を張った。
「貰っておくぞ、いいな」
「はい、土方さん」
夢主の為ならば。
沖田の返事に土方は無言で頷いた。
「おぉっ新八!何しに来たはねぇだろう」
「夢主を抱擁しに来たんじゃねぇのか」
「おいおい、冗談で言ってるんだろうな」
「ははっ、まぁな。で、どうだ……あいつ」
「それは俺が聞きたい……放ったらかした俺がいけねぇんだが、あいつの身に何が起きたんだ、新八、お前は詳しく知ってるのか」
「気になるか」
「土方さん!」
背後から話に割って入ってきた声に、二人が振り返った。
土方が眉間に皺を寄せて立っていた。
険しい顔で腕組みをしている。見えない手元に怒りを隠しているようだ。楽な装いだが、少しも寛ぐ気配が感じられない。
「見ちまったんだ。斎藤と総司が不逞浪士らを斬り殺すところを。それから……見知らぬ男達に手篭めにされそうになった。実際一線は越えなかったが、着物を剥がれてあれこれ触られたようだ」
「何だとっ」
「そいつは本当かっ、そいつらは一体!」
知らされた真相に、二人は土方に詰め寄った。
大声を出してしまった二人は井戸にいる夢主を見るが、洗い物に懸命でこちらには気付いていない。
土方も洗い物に勤しむ夢主を見た。
「本当だ。男達は通りすがりの浪人が斬り伏せたそうだ。あとは……余計な詮索はするな、大丈夫だ。斎藤達に任せておけ」
「斎藤達に……」
「それで夢主は本当に大丈夫なのか」
「あぁ、大丈夫だ。でなけりゃ俺だって……」
土方は言いかけて我に返り、目の前の二人を睨みつけた。
「とにかくだ、余計な詮索は無用だ。他の連中まで気にし始めちまう。お前らの仕事は聞き耳立てやがる平隊士達をしっかり管理して好奇心を抑えることだろう、お前らが噂しててどうすんだ」
「他の……そうだな、確かに土方さんの言う通りだ」
「副長はちゃんと斎藤達が役目を果たしてるか、しっかり目付けしてくれよ」
「分かってるさ」
土方は立ち去ろうとするが、小さく振り返った。
「傍にいてやるくらいなら、あいつも喜ぶだろう」
そう言い残して去っていった。
「斎藤達もずっとはいられねぇからな」
「たまには顔を見に来てやらねぇとだな」
二人は夢主が洗い物を終えて、汗掻いた顔を上げ笑顔を見せるまで、懸命に働く姿を縁側から眺めていた。
夢主が洗濯を終えた頃、土方の部屋では沖田が珍しく憤慨していた。
始末が済んだと思った例の娘の実家である商家から、謝罪金だと二百両もの金が届いたのだ。
それを土方が受け取ってしまったので沖田は怒っていた。
「どうして受け取っちゃったんですか!これでは借りが出来てしまうではありませんか!」
「借りではないだろう、あちらさんの詫びの気持ちなんだ。受け取ってやらねぇと向こうも引っ込みがつかねぇだろう」
「それにしても額が大き過ぎます!」
「分からねぇかな、この金はお前宛てであってお前宛じゃねぇんだよ。大坂の一商家から、新選組に対しての金なんだよ」
「どういう意味ですか……」
「今後とも良しなに……」
「そんな、尚更受け取ってはいけませんよ!」
「武器を揃え情報を仕入れるには金が掛かる。悪いが金は受け取るぜ。それにな……分からねぇか」
「何がですか……僕には分かりませんよ」
真っ直ぐな眼差しを向ける沖田に土方は大きく溜息を吐き、静かににじり寄った。
「この金は夢主に対しての慰謝料でもあるんだよ。ここまで言えば分からねぇか」
「あ……では……」
「あぁ。会津藩や幕府に貰った金は隊にしか使えねぇ。だがあいつに対して払われたこの金なら、いざという時に渡してやれるんだよ」
「だから土方さんは……」
沖田はようやく納得して見目を張った。
「貰っておくぞ、いいな」
「はい、土方さん」
夢主の為ならば。
沖田の返事に土方は無言で頷いた。