87.向き合う恐怖
夢主名前設定
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二人が手の猪口を置いて布団を覗くと、薄っすらと目を開き天井を眺めている夢主が見えた。
「起きていたのか」
「ぃえ……」
「お話、聞いてたんですか」
楽しくない話だったのではと訊ねるが、夢主は小さく笑んで首を振った。
「今、ふと意識が戻ったんです……まだぼぉっとして……」
「そのまま寝ていろ」
「はぃ……」
フッと笑んで去ろうとする斎藤の袖を夢主は弱々しく掴んだ。
「夢を見たんです……新しい時代の夢……最近たまに見るんです……」
「夢か、嫌な夢でも見たのか。気にすることは無い」
「いぃぇ……とっても温かい夢でした……斎藤さんも、沖田さんも……笑っていました」
「そうか」
夢を思い出して笑みを溢し安堵する夢主。
斎藤は袖を掴んできた手をもう一度布団に戻そうとするが、夢主は拒んだ。
「あの、もう一度……今度は私がお酌をします。聞いて欲しいお話があるんです……迷ってて、言っちゃいけないのかなって……でも話し合えって新津さんに言われて……話してもいいのかなって……」
「来い」
斎藤はフッと笑い、ゆっくり体を起こす夢主に手を添えて、起き上がるのを手伝った。
「話くらい幾らでも聞いてやるさ、俺達はそれくらい出来る男だぜ」
「ふふっ……斎藤さんたら……」
酒が残っているのか、ふらつく足元を斎藤に支えられ、先程と同じ場所に座った。
「お酒美味しかったです……やっぱり私には強いみたいですけど……」
そう話しながら夢主は二人の猪口に順に酒を注いだ。
手に徳利を持ったまま二人を交互に眺める。
「本当のことを言うと……この前、お二人が刀を振るっている姿を初めて見て…………怖いと思いました」
俯く夢主に対し、沖田は黙って頷いた。
斎藤は微動だにせず耳を傾け、夢主を見つめている。
「人が死んでゆく姿が、とても怖かったです。……圧し掛かってきた男の人の顔が、忘れられません……血の温さも……雄叫びも、呻き声も……こびりついて離れないんです」
夢主が手に力を込めると徳利が大きく動き、中の酒が小さな水音を立てた。
「でも……血の紅が……少しだけ綺麗でした。そんな風に感じた自分も怖くて……みんながしている事は京の為、時代の為……分かっているのにあんなに驚いてしまって申し訳なくて、それでもやっぱり怖くて……」
夢主は徳利を膳に戻し、手が震えないよう拳を握った。
「ごめんなさい、受け入れなきゃと思って、もう大丈夫だと思ったのに、やっぱり怖い……お二人が怖い訳じゃないんです、それでも……どうしていいか分からなくて……」
「分かった、夢主。言いたいことは良く分かるさ」
斎藤は手に持つ空の猪口に目を落としてから、そっと横目で伏せている顔を見た。
目が合うと夢主は申し訳無さそうに目を逸らした。
「夢主ちゃんが慣れる必要はないですよ……僕だって初めて血を見た時は震えたものです。覚悟をしていた僕だってそんな有様だったんだ、何も無理しなくていいんです」
「はぃ……新津さんも、同じようなことを……慣れなくて良いと……」
「沖田君や新津の言う通りだ。人が人を斬る場面を見て何も感じない者は、そうそういない」
「そうです、僕達や人斬りは皆おかしいんです。人の死に慣れ過ぎているのかもしれない……あんな怖い思いはもうさせないよ」
震えないよう耐える手に沖田は自らの手を重ねるが、夢主は首を振った。
「きっとこれから、時代が激しくなればあんな光景が……もっと酷い光景が広がって行くんです。私だけが逃げてちゃいけないんです……」
「夢主ちゃん……」
「確かに時代からは逃げられん。お前なりに立ち向かうしかないだろう」
「斎藤さん!」
突き放すような言い草に憤る沖田だが、夢主は静かに微笑みを浮かべた。
「起きていたのか」
「ぃえ……」
「お話、聞いてたんですか」
楽しくない話だったのではと訊ねるが、夢主は小さく笑んで首を振った。
「今、ふと意識が戻ったんです……まだぼぉっとして……」
「そのまま寝ていろ」
「はぃ……」
フッと笑んで去ろうとする斎藤の袖を夢主は弱々しく掴んだ。
「夢を見たんです……新しい時代の夢……最近たまに見るんです……」
「夢か、嫌な夢でも見たのか。気にすることは無い」
「いぃぇ……とっても温かい夢でした……斎藤さんも、沖田さんも……笑っていました」
「そうか」
夢を思い出して笑みを溢し安堵する夢主。
斎藤は袖を掴んできた手をもう一度布団に戻そうとするが、夢主は拒んだ。
「あの、もう一度……今度は私がお酌をします。聞いて欲しいお話があるんです……迷ってて、言っちゃいけないのかなって……でも話し合えって新津さんに言われて……話してもいいのかなって……」
「来い」
斎藤はフッと笑い、ゆっくり体を起こす夢主に手を添えて、起き上がるのを手伝った。
「話くらい幾らでも聞いてやるさ、俺達はそれくらい出来る男だぜ」
「ふふっ……斎藤さんたら……」
酒が残っているのか、ふらつく足元を斎藤に支えられ、先程と同じ場所に座った。
「お酒美味しかったです……やっぱり私には強いみたいですけど……」
そう話しながら夢主は二人の猪口に順に酒を注いだ。
手に徳利を持ったまま二人を交互に眺める。
「本当のことを言うと……この前、お二人が刀を振るっている姿を初めて見て…………怖いと思いました」
俯く夢主に対し、沖田は黙って頷いた。
斎藤は微動だにせず耳を傾け、夢主を見つめている。
「人が死んでゆく姿が、とても怖かったです。……圧し掛かってきた男の人の顔が、忘れられません……血の温さも……雄叫びも、呻き声も……こびりついて離れないんです」
夢主が手に力を込めると徳利が大きく動き、中の酒が小さな水音を立てた。
「でも……血の紅が……少しだけ綺麗でした。そんな風に感じた自分も怖くて……みんながしている事は京の為、時代の為……分かっているのにあんなに驚いてしまって申し訳なくて、それでもやっぱり怖くて……」
夢主は徳利を膳に戻し、手が震えないよう拳を握った。
「ごめんなさい、受け入れなきゃと思って、もう大丈夫だと思ったのに、やっぱり怖い……お二人が怖い訳じゃないんです、それでも……どうしていいか分からなくて……」
「分かった、夢主。言いたいことは良く分かるさ」
斎藤は手に持つ空の猪口に目を落としてから、そっと横目で伏せている顔を見た。
目が合うと夢主は申し訳無さそうに目を逸らした。
「夢主ちゃんが慣れる必要はないですよ……僕だって初めて血を見た時は震えたものです。覚悟をしていた僕だってそんな有様だったんだ、何も無理しなくていいんです」
「はぃ……新津さんも、同じようなことを……慣れなくて良いと……」
「沖田君や新津の言う通りだ。人が人を斬る場面を見て何も感じない者は、そうそういない」
「そうです、僕達や人斬りは皆おかしいんです。人の死に慣れ過ぎているのかもしれない……あんな怖い思いはもうさせないよ」
震えないよう耐える手に沖田は自らの手を重ねるが、夢主は首を振った。
「きっとこれから、時代が激しくなればあんな光景が……もっと酷い光景が広がって行くんです。私だけが逃げてちゃいけないんです……」
「夢主ちゃん……」
「確かに時代からは逃げられん。お前なりに立ち向かうしかないだろう」
「斎藤さん!」
突き放すような言い草に憤る沖田だが、夢主は静かに微笑みを浮かべた。