87.向き合う恐怖
夢主名前設定
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「どうやら本気のようだな。だが驚いたな、本当に知っているとは」
比古は困った事になったと溜息を吐き、剣気を解いて夢主を開放した。
口を封じるわけにもいかないが、捨て置くわけにもいかない。どう対処すべきかと夢主を眺めた。
「お弟子さんのことも知っています。でも彼が京で困ったことをしてる人だとは、斎藤さん達には話していません。それに、お弟子さんの最後のおねしょとか、笑い茸のお話も知っていますよ……」
緊張が解けた夢主がぼそりと呟くと、比古は途端に大笑いをした。
外で構える二人が驚くほど大きな声だった。
「お前気に入ったぞ。いや、会った時から気に入っていたがな。その話を知っているとは、確かに実に厄介な女だな、はははっ。その話ならばいっそ壬生狼達に話してやればいい、面白いことになるだろうよ」
「そんなっ、それこそ駄目ですよっ!」
「冗談だよ、冗談!先程の話だがいいだろう、確かにお前を放り出すわけには行かないようだからな。三月だけだぞ。その時が来たらしっかり預かってやるよ」
「本当ですか!」
「あぁ、俺は嘘は吐かん」
「ありがとうございます!!」
「だが随分と信頼してくれるな。悪い気はしねぇが、そばに三月もいて何か起きても知らねぇぞ。山の奥だ、助けは来ないし来たところで俺に敵う者など存在せん」
「ふふっ、比古師匠を信じています。御剣流の理を」
「ははっ、理を出されては反論できんな、参ったなこりゃ。しかし師匠はやめろよ、お前は弟子じゃねぇだろう」
「では……比古さん……」
「今まで通り新津で構わないさ。その時が来たら比古と呼べ」
「はい、新津さん」
「うむ」
素直に応える夢主を比古は満足そうに頷いた。
「ところで、ここまで話したらついでだ。先ほど言ったことだが、お前、目の色が変わったな」
「目の色ですか」
目の色が変わったなどと、初めて言われた。
目の色が変わるといえば月明かりに染まる斎藤の瞳。目を伏せて斎藤の瞳を思い浮かべた。
「人は辛い経験をすると目の色が変わるものだ」
比古の観察眼に驚き顔を上げると、話したければ話せと、頼もしい瞳で夢主を見つめていた。
人に対して情深い比古の寛大さ。
優しさだけではない、人生の機微に通じた男の大きさを感じた。
「もぅ……大丈夫なんです。少し怖い思いをしただけで……」
乗り越えたと思った出来事を思い出した途端、涙が頬を伝い始め、それは止らなくなった。
皆とは一線を画した大人の存在、比古の存在に張り詰めていたものが一気に緩んだ。
泣き声が洩れないよう口を覆うが、込み上げる涙は止められなかった。
「すみませんっ、斎藤さん達に……気付かれたくっ、ないんです……」
下を向いて必死に堪える夢主を比古は静かに見守っている。
「怖い思いをしたのは……二度なんです。つい一昨日のことで……知らない男の人達に襲われて、とっても怖かったんです。それから、知らなかったんです……斎藤さんと沖田さんが、人を斬る姿を……」
おさまりかけた涙が再び溢れてきた。
夢主は途切れ途切れながら、全ての感情を打ち明けた。
必死に受け入れて、納得しようと抑えていた感情を比古に曝け出したのだ。
「知っていたはずなんです、みんなのしていることも、すべきこともっ……それなのにあんなに驚いてしまった自分が嫌で、情けなくて、……っ怖くて、みんな命を懸けているのにっ……私っ」
「命を懸ける……か。お前は御剣流を知っているんだろう、一番大切なことは何だ」
御剣流にとって一番大切なこと……
夢主は奥義の伝授を受ける緋村の姿を思い出した。
刀を手にした時に必要な覚悟。
一度は比古に否定され、絶対の死と向き合った緋村がすんでのところで導き出した答えとは。
「……生きようとする意志は……」
「何よりも強い。そうだ、お前は生きようとしたんだろう。斎藤の何があっても生きろという言葉は悪くないと思うぞ。それから沖田だ。俺はあいつの剣が好きだ。守る為に振るう奴の剣はきっと強いだろう」
比古から見ても沖田の腕は特別なのか、夢主は口を隠したまま涙を流して話を聞いている。
比古は困った事になったと溜息を吐き、剣気を解いて夢主を開放した。
口を封じるわけにもいかないが、捨て置くわけにもいかない。どう対処すべきかと夢主を眺めた。
「お弟子さんのことも知っています。でも彼が京で困ったことをしてる人だとは、斎藤さん達には話していません。それに、お弟子さんの最後のおねしょとか、笑い茸のお話も知っていますよ……」
緊張が解けた夢主がぼそりと呟くと、比古は途端に大笑いをした。
外で構える二人が驚くほど大きな声だった。
「お前気に入ったぞ。いや、会った時から気に入っていたがな。その話を知っているとは、確かに実に厄介な女だな、はははっ。その話ならばいっそ壬生狼達に話してやればいい、面白いことになるだろうよ」
「そんなっ、それこそ駄目ですよっ!」
「冗談だよ、冗談!先程の話だがいいだろう、確かにお前を放り出すわけには行かないようだからな。三月だけだぞ。その時が来たらしっかり預かってやるよ」
「本当ですか!」
「あぁ、俺は嘘は吐かん」
「ありがとうございます!!」
「だが随分と信頼してくれるな。悪い気はしねぇが、そばに三月もいて何か起きても知らねぇぞ。山の奥だ、助けは来ないし来たところで俺に敵う者など存在せん」
「ふふっ、比古師匠を信じています。御剣流の理を」
「ははっ、理を出されては反論できんな、参ったなこりゃ。しかし師匠はやめろよ、お前は弟子じゃねぇだろう」
「では……比古さん……」
「今まで通り新津で構わないさ。その時が来たら比古と呼べ」
「はい、新津さん」
「うむ」
素直に応える夢主を比古は満足そうに頷いた。
「ところで、ここまで話したらついでだ。先ほど言ったことだが、お前、目の色が変わったな」
「目の色ですか」
目の色が変わったなどと、初めて言われた。
目の色が変わるといえば月明かりに染まる斎藤の瞳。目を伏せて斎藤の瞳を思い浮かべた。
「人は辛い経験をすると目の色が変わるものだ」
比古の観察眼に驚き顔を上げると、話したければ話せと、頼もしい瞳で夢主を見つめていた。
人に対して情深い比古の寛大さ。
優しさだけではない、人生の機微に通じた男の大きさを感じた。
「もぅ……大丈夫なんです。少し怖い思いをしただけで……」
乗り越えたと思った出来事を思い出した途端、涙が頬を伝い始め、それは止らなくなった。
皆とは一線を画した大人の存在、比古の存在に張り詰めていたものが一気に緩んだ。
泣き声が洩れないよう口を覆うが、込み上げる涙は止められなかった。
「すみませんっ、斎藤さん達に……気付かれたくっ、ないんです……」
下を向いて必死に堪える夢主を比古は静かに見守っている。
「怖い思いをしたのは……二度なんです。つい一昨日のことで……知らない男の人達に襲われて、とっても怖かったんです。それから、知らなかったんです……斎藤さんと沖田さんが、人を斬る姿を……」
おさまりかけた涙が再び溢れてきた。
夢主は途切れ途切れながら、全ての感情を打ち明けた。
必死に受け入れて、納得しようと抑えていた感情を比古に曝け出したのだ。
「知っていたはずなんです、みんなのしていることも、すべきこともっ……それなのにあんなに驚いてしまった自分が嫌で、情けなくて、……っ怖くて、みんな命を懸けているのにっ……私っ」
「命を懸ける……か。お前は御剣流を知っているんだろう、一番大切なことは何だ」
御剣流にとって一番大切なこと……
夢主は奥義の伝授を受ける緋村の姿を思い出した。
刀を手にした時に必要な覚悟。
一度は比古に否定され、絶対の死と向き合った緋村がすんでのところで導き出した答えとは。
「……生きようとする意志は……」
「何よりも強い。そうだ、お前は生きようとしたんだろう。斎藤の何があっても生きろという言葉は悪くないと思うぞ。それから沖田だ。俺はあいつの剣が好きだ。守る為に振るう奴の剣はきっと強いだろう」
比古から見ても沖田の腕は特別なのか、夢主は口を隠したまま涙を流して話を聞いている。