87.向き合う恐怖
夢主名前設定
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「分かった夢主、休息所を使え。俺達はその入り口に控える。それでいいだろう」
斎藤は提案して夢主が首を縦に動かすのを確認すると、比古の反応を見た。
「良かろう。その休息所とやらに案内しろ。今回限りだぞ、夢主」
「はい、ありがとうございます!」
斎藤と沖田が夢主の為に使う休息所に、隊士以外が上がるのは初めてだ。
辿り着くと約束通り斎藤と沖田は入り口で足を止めた。
「あの男、本当に大丈夫だろうな」
斎藤は中に入ろうとする夢主に顔を寄せて一言確かめた。
「はい、信頼できるお方です」
「そうか。ならば、お前を信じるさ」
斎藤と沖田、二人の間を通って夢主は座敷に上がり込んだ。
「ふん、さほど広くはないが充分な造りだな。綺麗に整って趣味もいい。新選組の休息所と聞いて浮かんだものとはだいぶ違う」
「ふふっ、素敵なお部屋です」
比古は一通り部屋を見回すと胡坐を掻いた。膝に手を乗せて「さて」と場を切り替える。
夢主は休息所が急に狭くなったと錯覚した。目の前に体の大きな比古と大きく張った赤い襟、いつもの休息所が違って見える。
「まずは一言、確かにすまなかった。謝罪しておこう。火傷をさせてしまったそうだな」
「あ……火傷はもう……酷くありませんでしたし気にしていませんので、新津さんもお気になさらないで下さい」
「そうか。では話とは何だ、まさか世間話でもなかろう。先に言っておくが俺が何にも与しないぞ」
「はい……心得ています」
にこりと微笑む夢主を見て嘘は吐いていないなと認め、比古は大きくゆっくり頷いた。
「実は……貴方に嘘は通じないと思うので、正直にお話しします」
夢主は真っ直ぐ己を見つめる、迫力ある比古の瞳に生唾を飲み込んだ。
嘘も駆け引きも通じない。全てを見通す人物と向き合う怖さを感じる。
「私、貴方を……比古清十郎のことを知っています」
一言で全てを伝えた夢主に向かう比古の目つきが、厳しいものに変わった。
「新選組のみなさんは知りません。伝える気もありません。斎藤さんや沖田さんももちろん知りませんし……聞かないでいてくれる人達なんです」
「成る程」
新津から比古清十郎に変わった顔で夢主を見据えている。
確かに沖田は気のいい奴で信頼も置けると、比古自身も捉えていた。
「それで、俺がその比古清十郎だとして、どうかなるのか」
「その……比古清十郎である貴方にお願いがあるんです。この先、私の行く場所がなくなる時が来るんです。その時……三月(みつき)で構いません、その時が来たら私を匿っていただきたいんです」
「ほぅ、匿えだと」
「はい……」
「他に行く場所など幾らでもあるだろう。何故俺じゃなきゃいけねぇんだ」
「わけは……私、とても厄介な女なんです」
自らを厄介と言うとはおかしな奴だ、比古は困った顔で微笑む夢主を注視した。
「説明が難しいのですが、色々と知ってしまっていることが多くて……例えば比古師匠の存在もそうですが、外のお二人にも伝えていない話も沢山あります。例えば、飛天御剣流の理……お弟子さんの存在……最終奥義の秘密……」
「面白いことを言うな」
比古の声色は真剣そのもので、徐々に声が強まっている。
「夢主、奥義の話を今現在知っているのは……」
「十三代目の貴方だけ……」
恐る恐る比古の言葉を拾って続ける夢主に、比古は驚くほどの疾さで近付いた。
「言ってみろ、奥義の秘密を」
比古は夢主の耳元で囁き、自らの耳を夢主の口元に寄せた。
耳元で低く響いた声に夢主はゾクリと背筋が凍る感覚がした。
怖々と消えそうな声で最終奥義の秘密を口にすると、比古は驚きを隠せない様子で体を離した。
「奥義は秘密を知った程度で使えるものではない。また、破れるものでもない。だが……誰にも伝えていないと言い切れるのか。誰にも言わないと、約束できるのか」
問われて唇を震わせながら頷く。
比古は夢主を試すように恐ろしく威圧的な剣気を叩きつけた。
咄嗟に外から斎藤と沖田が飛び込んでくるが、夢主は青い顔で二人を見て首を振った。
「大丈夫です……大丈夫ですから、どうか外へ……」
震える唇で絞り出された声に斎藤と沖田は躊躇うが、必死に懇願するよう首を振る夢主に頷き、刀に掛けた手を離した。
夢主を気に掛け、振り返ったままゆっくり外へ戻って行った。
斎藤は提案して夢主が首を縦に動かすのを確認すると、比古の反応を見た。
「良かろう。その休息所とやらに案内しろ。今回限りだぞ、夢主」
「はい、ありがとうございます!」
斎藤と沖田が夢主の為に使う休息所に、隊士以外が上がるのは初めてだ。
辿り着くと約束通り斎藤と沖田は入り口で足を止めた。
「あの男、本当に大丈夫だろうな」
斎藤は中に入ろうとする夢主に顔を寄せて一言確かめた。
「はい、信頼できるお方です」
「そうか。ならば、お前を信じるさ」
斎藤と沖田、二人の間を通って夢主は座敷に上がり込んだ。
「ふん、さほど広くはないが充分な造りだな。綺麗に整って趣味もいい。新選組の休息所と聞いて浮かんだものとはだいぶ違う」
「ふふっ、素敵なお部屋です」
比古は一通り部屋を見回すと胡坐を掻いた。膝に手を乗せて「さて」と場を切り替える。
夢主は休息所が急に狭くなったと錯覚した。目の前に体の大きな比古と大きく張った赤い襟、いつもの休息所が違って見える。
「まずは一言、確かにすまなかった。謝罪しておこう。火傷をさせてしまったそうだな」
「あ……火傷はもう……酷くありませんでしたし気にしていませんので、新津さんもお気になさらないで下さい」
「そうか。では話とは何だ、まさか世間話でもなかろう。先に言っておくが俺が何にも与しないぞ」
「はい……心得ています」
にこりと微笑む夢主を見て嘘は吐いていないなと認め、比古は大きくゆっくり頷いた。
「実は……貴方に嘘は通じないと思うので、正直にお話しします」
夢主は真っ直ぐ己を見つめる、迫力ある比古の瞳に生唾を飲み込んだ。
嘘も駆け引きも通じない。全てを見通す人物と向き合う怖さを感じる。
「私、貴方を……比古清十郎のことを知っています」
一言で全てを伝えた夢主に向かう比古の目つきが、厳しいものに変わった。
「新選組のみなさんは知りません。伝える気もありません。斎藤さんや沖田さんももちろん知りませんし……聞かないでいてくれる人達なんです」
「成る程」
新津から比古清十郎に変わった顔で夢主を見据えている。
確かに沖田は気のいい奴で信頼も置けると、比古自身も捉えていた。
「それで、俺がその比古清十郎だとして、どうかなるのか」
「その……比古清十郎である貴方にお願いがあるんです。この先、私の行く場所がなくなる時が来るんです。その時……三月(みつき)で構いません、その時が来たら私を匿っていただきたいんです」
「ほぅ、匿えだと」
「はい……」
「他に行く場所など幾らでもあるだろう。何故俺じゃなきゃいけねぇんだ」
「わけは……私、とても厄介な女なんです」
自らを厄介と言うとはおかしな奴だ、比古は困った顔で微笑む夢主を注視した。
「説明が難しいのですが、色々と知ってしまっていることが多くて……例えば比古師匠の存在もそうですが、外のお二人にも伝えていない話も沢山あります。例えば、飛天御剣流の理……お弟子さんの存在……最終奥義の秘密……」
「面白いことを言うな」
比古の声色は真剣そのもので、徐々に声が強まっている。
「夢主、奥義の話を今現在知っているのは……」
「十三代目の貴方だけ……」
恐る恐る比古の言葉を拾って続ける夢主に、比古は驚くほどの疾さで近付いた。
「言ってみろ、奥義の秘密を」
比古は夢主の耳元で囁き、自らの耳を夢主の口元に寄せた。
耳元で低く響いた声に夢主はゾクリと背筋が凍る感覚がした。
怖々と消えそうな声で最終奥義の秘密を口にすると、比古は驚きを隠せない様子で体を離した。
「奥義は秘密を知った程度で使えるものではない。また、破れるものでもない。だが……誰にも伝えていないと言い切れるのか。誰にも言わないと、約束できるのか」
問われて唇を震わせながら頷く。
比古は夢主を試すように恐ろしく威圧的な剣気を叩きつけた。
咄嗟に外から斎藤と沖田が飛び込んでくるが、夢主は青い顔で二人を見て首を振った。
「大丈夫です……大丈夫ですから、どうか外へ……」
震える唇で絞り出された声に斎藤と沖田は躊躇うが、必死に懇願するよう首を振る夢主に頷き、刀に掛けた手を離した。
夢主を気に掛け、振り返ったままゆっくり外へ戻って行った。