86.見上げる背
夢主名前設定
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「何だそんなに頼みにくいことか、赤い顔で願い出るとはお前も随分と厭らしくなったもんだな」
「何言ってるんですか、ち、違いますよ!私はただ……髪を……」
「髪」
斎藤が夢主の顔から視線を髪へ移すと、なるほど、汗と湿気で髪が重たそうに垂れていた。
「髪を……拭いていただきたいです……」
遠慮がちに申し出た夢主の願いに、斎藤はフッと小さく笑みを隠した。
「いいだろう、水を汲んで来る。お前は支度をしておけ」
水の入った手桶にまっさらな手拭い。
斎藤がくれた櫛を用意し、久しぶりに髪を整えてもらうことになった。
斎藤の大きな手に触れられていると、とても心地良い。
夢主は目を瞑って嬉しそうに、にこにこ笑っている。
前を向いているせいで顔は見えないが、斎藤にも夢主が心地よく感じていると伝わり、斎藤の顔付きも柔らかになっていた。
「すっきりするか」
「はぃ……とっても……」
「お前の髪も気持ちいいぞ」
斎藤がするすると髪の間に指を滑らせているのが分かり、夢主は無性にくすぐったさを感じた。
「滑らかで指通りが心地よい」
「そっ……そうですか……」
不意に褒められ夢主は閉じていた目を開けた。
「ありがとうございます……」
素直に応えると、斎藤が髪に手を入れながらつと夢主の両肩に触れた。
「お前の背は……小さいな」
「えっ」
反射的に肩を弾ませるが、斎藤は何も言葉を続けなかった。
「斎藤さんの背中は大きくて……とっても頼もしいです。……斎藤さんの背中に傷がないわけが、分かった気がします」
怖ろしい光景の中、向かってくる全てから夢主を守るよう目の前に立ち、剣を振るっていた昨日の背中。
……決して怖くなんか、怖くない……でも、いつもの背中が一番好きって……思っちゃう……
血の斬撃と呼べる光景が脳裏に思い浮かぶ。
怖いのはあの状況で、皆や斎藤が怖いわけではない。
「斎藤さんの背中……好きです……」
「んっ」
「ふふっ、なんでもありません」
口の中で呟かれた声は後ろに座る斎藤には届かなかった。
小声でそんな話をしていると、廊下の向こうから聞き覚えのある元気な足音が響いてきた。
「あ……沖田さ……」
「戻りましたっ!」
大坂から飛んで帰ってきた沖田は、馬を置き真っ直ぐ夢主のもとへ走って来た。
「おかえりなさい、沖田さん」
「あぁーーー!帰って早々こんな光景を見せられるなんて!急いで帰ってきたのに……何かな僕……」
元気な夢主の姿に安堵するのも束の間、斎藤に髪を整えられながら心安らかに微笑む姿に沖田はうな垂れた。
「何言ってるんですか、ち、違いますよ!私はただ……髪を……」
「髪」
斎藤が夢主の顔から視線を髪へ移すと、なるほど、汗と湿気で髪が重たそうに垂れていた。
「髪を……拭いていただきたいです……」
遠慮がちに申し出た夢主の願いに、斎藤はフッと小さく笑みを隠した。
「いいだろう、水を汲んで来る。お前は支度をしておけ」
水の入った手桶にまっさらな手拭い。
斎藤がくれた櫛を用意し、久しぶりに髪を整えてもらうことになった。
斎藤の大きな手に触れられていると、とても心地良い。
夢主は目を瞑って嬉しそうに、にこにこ笑っている。
前を向いているせいで顔は見えないが、斎藤にも夢主が心地よく感じていると伝わり、斎藤の顔付きも柔らかになっていた。
「すっきりするか」
「はぃ……とっても……」
「お前の髪も気持ちいいぞ」
斎藤がするすると髪の間に指を滑らせているのが分かり、夢主は無性にくすぐったさを感じた。
「滑らかで指通りが心地よい」
「そっ……そうですか……」
不意に褒められ夢主は閉じていた目を開けた。
「ありがとうございます……」
素直に応えると、斎藤が髪に手を入れながらつと夢主の両肩に触れた。
「お前の背は……小さいな」
「えっ」
反射的に肩を弾ませるが、斎藤は何も言葉を続けなかった。
「斎藤さんの背中は大きくて……とっても頼もしいです。……斎藤さんの背中に傷がないわけが、分かった気がします」
怖ろしい光景の中、向かってくる全てから夢主を守るよう目の前に立ち、剣を振るっていた昨日の背中。
……決して怖くなんか、怖くない……でも、いつもの背中が一番好きって……思っちゃう……
血の斬撃と呼べる光景が脳裏に思い浮かぶ。
怖いのはあの状況で、皆や斎藤が怖いわけではない。
「斎藤さんの背中……好きです……」
「んっ」
「ふふっ、なんでもありません」
口の中で呟かれた声は後ろに座る斎藤には届かなかった。
小声でそんな話をしていると、廊下の向こうから聞き覚えのある元気な足音が響いてきた。
「あ……沖田さ……」
「戻りましたっ!」
大坂から飛んで帰ってきた沖田は、馬を置き真っ直ぐ夢主のもとへ走って来た。
「おかえりなさい、沖田さん」
「あぁーーー!帰って早々こんな光景を見せられるなんて!急いで帰ってきたのに……何かな僕……」
元気な夢主の姿に安堵するのも束の間、斎藤に髪を整えられながら心安らかに微笑む姿に沖田はうな垂れた。