84.見えない罅 ※
夢主名前設定
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それから夢主が部屋へ戻って着替える間に、斎藤は土方のもとへ薬を借りに出向いた。
斎藤は嘘が吐ける男だ。
それでも完全に嘘を吐かずに顔に表す時は嘘を吐きたくない時、もしくは嘘は吐かないが何かを伝えたい時だ。
「ほぉ、夢主が湯呑みをなぁ」
「はい、手が滑ったというか、俺の目の前で面目ないことに火傷をさせてしまいました」
ぴくりと斎藤の眉が動いた。土方は斎藤の合図を見逃しはしない。
隊士達の前で声に出さずに話を伝える時にも斎藤はこうして合図を送る時がある。
「手をねぇ……まぁいいさ。酷くは無いんだろう」
斎藤の落ち着き払った様子に、土方は返事を決め付けて訊ねた。
「大丈夫です、赤くはなっていますが酷いものではありません」
「そうか、良かった。白い肌に火傷の赤みは目立つだろうな、あいつの柔らかくて綺麗な肌が目に浮かぶぜ」
「んんっ……」
「あぁ、そうだったな、薬だ薬」
にやりと夢主の肌を思い浮かべ愉しげに話す土方を咳払い一つでたしなめ、斎藤は薬を受け取った。
「太腿だったか」
「副長っ」
「冗談だよ、ほら行け行けっ」
もう一度身を乗り出した土方を叱り付けるように役で呼ぶと、土方は分かったよとばかりに手を振って斎藤を追い出した。
土方家秘伝の薬は夢主の肌にとても良く合うらしい。
以前の火傷もあっという間に赤みが引いていった。
今回も薬の効果か、思ったより早く治まっていった。
斎藤と沖田は比古を捕まえようと、ついでがあれば酒屋に立ち寄り、巡察の度に町中に目を光らせていた。
特に沖田は躍起になっていた。
気付けば、浪士探索がいつに無く熱心だと平隊士達が気を引き締めるほど懸命だった。
捕まえて何かをしたいわけではないが、一言文句を言わずにいられなかったのだ。
比古の姿をようやく捉えたのは約束の日の前夜、巡察の夜だった。
屯所で眠る夢主の腿の赤みもすっかり引いていた。
この夜も斎藤と沖田はいつも通り途中から道を分けて、暗い京の町を別々に探索していた。
月は半分姿を隠し、生暖かい緩い風が吹いている。
斎藤の三番隊が浪士達を発見し対峙している頃、比古を見つけたのは沖田だった。
暗闇で目が合った沖田は伍長に向こうで待っていてくださいと目配せをし、先日のように隊を任せて一人その場を離れた。
「よぉ坊主、どうした」
前に出会った時と同じ、月明かりが遮られる路地で比古は沖田を待っていた。白い外套がゆらゆらと風に合わせて揺れている。
比古は小さな沖田がこちらへやって来るのを見つけ、先に声を発して呼び止めた理由を訊ねた。
「またそんな風に僕を呼ぶんですか、探しましたよ新津さん。僕は今、少し怒っています」
坊主呼ばわりは構わないが、比古の姿を目の前にして夢主が火傷した瞬間を思い出し、薄れていた怒りが一気に蘇った。
斎藤は嘘が吐ける男だ。
それでも完全に嘘を吐かずに顔に表す時は嘘を吐きたくない時、もしくは嘘は吐かないが何かを伝えたい時だ。
「ほぉ、夢主が湯呑みをなぁ」
「はい、手が滑ったというか、俺の目の前で面目ないことに火傷をさせてしまいました」
ぴくりと斎藤の眉が動いた。土方は斎藤の合図を見逃しはしない。
隊士達の前で声に出さずに話を伝える時にも斎藤はこうして合図を送る時がある。
「手をねぇ……まぁいいさ。酷くは無いんだろう」
斎藤の落ち着き払った様子に、土方は返事を決め付けて訊ねた。
「大丈夫です、赤くはなっていますが酷いものではありません」
「そうか、良かった。白い肌に火傷の赤みは目立つだろうな、あいつの柔らかくて綺麗な肌が目に浮かぶぜ」
「んんっ……」
「あぁ、そうだったな、薬だ薬」
にやりと夢主の肌を思い浮かべ愉しげに話す土方を咳払い一つでたしなめ、斎藤は薬を受け取った。
「太腿だったか」
「副長っ」
「冗談だよ、ほら行け行けっ」
もう一度身を乗り出した土方を叱り付けるように役で呼ぶと、土方は分かったよとばかりに手を振って斎藤を追い出した。
土方家秘伝の薬は夢主の肌にとても良く合うらしい。
以前の火傷もあっという間に赤みが引いていった。
今回も薬の効果か、思ったより早く治まっていった。
斎藤と沖田は比古を捕まえようと、ついでがあれば酒屋に立ち寄り、巡察の度に町中に目を光らせていた。
特に沖田は躍起になっていた。
気付けば、浪士探索がいつに無く熱心だと平隊士達が気を引き締めるほど懸命だった。
捕まえて何かをしたいわけではないが、一言文句を言わずにいられなかったのだ。
比古の姿をようやく捉えたのは約束の日の前夜、巡察の夜だった。
屯所で眠る夢主の腿の赤みもすっかり引いていた。
この夜も斎藤と沖田はいつも通り途中から道を分けて、暗い京の町を別々に探索していた。
月は半分姿を隠し、生暖かい緩い風が吹いている。
斎藤の三番隊が浪士達を発見し対峙している頃、比古を見つけたのは沖田だった。
暗闇で目が合った沖田は伍長に向こうで待っていてくださいと目配せをし、先日のように隊を任せて一人その場を離れた。
「よぉ坊主、どうした」
前に出会った時と同じ、月明かりが遮られる路地で比古は沖田を待っていた。白い外套がゆらゆらと風に合わせて揺れている。
比古は小さな沖田がこちらへやって来るのを見つけ、先に声を発して呼び止めた理由を訊ねた。
「またそんな風に僕を呼ぶんですか、探しましたよ新津さん。僕は今、少し怒っています」
坊主呼ばわりは構わないが、比古の姿を目の前にして夢主が火傷した瞬間を思い出し、薄れていた怒りが一気に蘇った。