9.お留守番
夢主名前設定
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夜、夢主は布団を広げた。
昨夜も使わせてもらった布団。斎藤は傍で刀を抱え、座って眠ったのだろう。
「一人で寝るの……もしかして初めて……」
複雑な気分で寝支度を進めた。
ここへ来て初めて、一人静かに何の不安も無く眠れる。嬉しいはずだった。
「そういえば今朝、斎藤さん、起きるの待っててくれたのかな……」
この世界に来てからの朝は目覚めると一人だったが、今朝は斎藤がいてくれた。
その姿を見て、悪夢から心が連れ戻されたのを思い出した。
布団に入ると微かに何かが香る。
「斎藤さんの匂い……そういえば何度も……」
何度も斎藤の胸に甘えた。優しくない素振りで、でもいつも優しく見守ってくれた。
その時に感じた香りだと思い出し、甘い気持ちになった。
「斎藤さん……みんな、頑張って……」
無事に帰る斎藤と皆の姿を思い浮かべながら、夢主は静寂の中で眠りに就いた。
翌朝、鳥達がさえずり始める頃に、夢主はすっきりした気分で目が覚めた。
心も体も軽い初めての朝だ。
斎藤がいないのは淋しいが、務めを果たしている姿を思えば活力が湧いてくる。
用意してもらった食事を終え、斎藤の袴に取り掛かろうと裁縫箱を支度していると、女の甲高い京言葉が聞こえてきた。
「芹沢はん、芹沢はぁ~ん、どこでっしゃろ~……」
淋しさを含む声、だが人を探すにしてはどこか他人事のような響きにも感じられる。
やがてハタハタと駆ける音が聞こえてきた。
「……いややわぁ、誰もいーひんのぉ」
異様に静まり返った屯所の中で芹沢を探して走り回っているようだ。
夢主は興味本位からつい顔を出してしまった。部屋を出て声の元を辿っていた。
「あら・・・誰でっしゃろ」
とても艶やかな、どこか切なげな、そして愛嬌たっぷりの笑顔で美しい女が立っていた。
「もしかして、お梅さん……」
お梅は呉服商の菱屋から借金取りに来ていた女である。
それを芹沢が無理やり手籠めにし、そのまま自らの妾にしてしまったのだ。
最も、呉服商においても妾という存在であったのだから、悲しい女である。
板挟みにあって、それでもどこか心の病んだ様相の芹沢に執心していった。
「どなたはんどすぇ。うちのこと知ってはるん?」
「あ、あの……ちょっと人に聞いて……」
しまったと気付いた時には遅かった。
関わってはいけない人と出会ってしまった。
「こんなとこで何してはるん?」
「ちょ、ちょっとお手伝いに……」
「へぇ……なぁ、なんで誰もいぃひんのやろか」
「はぁ、その、なんだかお勤めで総出みたいで……」
お梅をちらちらと観察しつつ差し触り無い言葉で皆の留守を告げた。
「ふぅん……ねぇ、あんさん一緒に来ぃひん?」
「へ……えぇええ、いぇ、それは!あぁああの、言い付かっているお仕事がありまして!終わらせないと首が飛んでしまいます!!」
絶対にいけない。後で大きな後悔になると、必死に誘いを否定して夢主はその場から逃げ出した。
「ぁあ……はぁ……ビックリしたぁ……。あれがお梅さんかぁ。隊士のみんなが噂するのも分かるな、物凄くお綺麗な方……」
……優しそうで、少し淋しそうな瞳の女性……
お梅のその後を知る夢主は、立ち止まって涙してしまった。
昨夜も使わせてもらった布団。斎藤は傍で刀を抱え、座って眠ったのだろう。
「一人で寝るの……もしかして初めて……」
複雑な気分で寝支度を進めた。
ここへ来て初めて、一人静かに何の不安も無く眠れる。嬉しいはずだった。
「そういえば今朝、斎藤さん、起きるの待っててくれたのかな……」
この世界に来てからの朝は目覚めると一人だったが、今朝は斎藤がいてくれた。
その姿を見て、悪夢から心が連れ戻されたのを思い出した。
布団に入ると微かに何かが香る。
「斎藤さんの匂い……そういえば何度も……」
何度も斎藤の胸に甘えた。優しくない素振りで、でもいつも優しく見守ってくれた。
その時に感じた香りだと思い出し、甘い気持ちになった。
「斎藤さん……みんな、頑張って……」
無事に帰る斎藤と皆の姿を思い浮かべながら、夢主は静寂の中で眠りに就いた。
翌朝、鳥達がさえずり始める頃に、夢主はすっきりした気分で目が覚めた。
心も体も軽い初めての朝だ。
斎藤がいないのは淋しいが、務めを果たしている姿を思えば活力が湧いてくる。
用意してもらった食事を終え、斎藤の袴に取り掛かろうと裁縫箱を支度していると、女の甲高い京言葉が聞こえてきた。
「芹沢はん、芹沢はぁ~ん、どこでっしゃろ~……」
淋しさを含む声、だが人を探すにしてはどこか他人事のような響きにも感じられる。
やがてハタハタと駆ける音が聞こえてきた。
「……いややわぁ、誰もいーひんのぉ」
異様に静まり返った屯所の中で芹沢を探して走り回っているようだ。
夢主は興味本位からつい顔を出してしまった。部屋を出て声の元を辿っていた。
「あら・・・誰でっしゃろ」
とても艶やかな、どこか切なげな、そして愛嬌たっぷりの笑顔で美しい女が立っていた。
「もしかして、お梅さん……」
お梅は呉服商の菱屋から借金取りに来ていた女である。
それを芹沢が無理やり手籠めにし、そのまま自らの妾にしてしまったのだ。
最も、呉服商においても妾という存在であったのだから、悲しい女である。
板挟みにあって、それでもどこか心の病んだ様相の芹沢に執心していった。
「どなたはんどすぇ。うちのこと知ってはるん?」
「あ、あの……ちょっと人に聞いて……」
しまったと気付いた時には遅かった。
関わってはいけない人と出会ってしまった。
「こんなとこで何してはるん?」
「ちょ、ちょっとお手伝いに……」
「へぇ……なぁ、なんで誰もいぃひんのやろか」
「はぁ、その、なんだかお勤めで総出みたいで……」
お梅をちらちらと観察しつつ差し触り無い言葉で皆の留守を告げた。
「ふぅん……ねぇ、あんさん一緒に来ぃひん?」
「へ……えぇええ、いぇ、それは!あぁああの、言い付かっているお仕事がありまして!終わらせないと首が飛んでしまいます!!」
絶対にいけない。後で大きな後悔になると、必死に誘いを否定して夢主はその場から逃げ出した。
「ぁあ……はぁ……ビックリしたぁ……。あれがお梅さんかぁ。隊士のみんなが噂するのも分かるな、物凄くお綺麗な方……」
……優しそうで、少し淋しそうな瞳の女性……
お梅のその後を知る夢主は、立ち止まって涙してしまった。