83.背中越し
夢主名前設定
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比古は大きく口角を上げ、満足そうに笑んでいる。
「貴様は賢いな」
「どうも、そんなこと言ってくれるのは貴方が初めてですよ」
「ははっ、そいつは皆の見る目が無いときた」
にやりと見下ろす比古に向かい、沖田は両肩を上げて滑稽に振る舞っている。
「僕はあそこではいつまでも子供ですからね、それより今日お声を掛けたのはですね」
「分かっているさ、例の陶芸の品だろう、あいつはそんなに心待ちにしているのか」
いささか驚いたなと比古は目を開いた。
作品をくれてやると告げた時、嬉々として自分を見上げた夢主を思い出すと、その心待ちにしている心境に納得した。
「えぇ、夢主ちゃんはとても楽しみにしているようですね」
「そうか。土を弄るのはなかなか面白いもんだな、実はもう仕上げに入っている」
「本当ですかっ、それは凄いですね!」
「あぁ、俺は何でもこなせるし、動けば疾い男だからな」
「はははっ、それは本当に頼もしい限りです!」
「来週だ、来週あの酒屋に届けてやる。悪いが俺は壬生狼どもに関わりたくは無いんでな」
「分かりました。ちなみに僕達、今は壬生ではなく西本願寺にいるんです」
「知っているさ、だが壬生狼はどこまで行っても壬生狼だ」
「そうですか、ははっ、貴方に言われると反論出来る気がしません」
比古は自分の言葉を素直に受け入れた沖田に気を良くし、優しい眼差しを向けた。
そこで何か思いついたように表情を元に戻した。
「折角だ、夫婦茶碗でも持ってきてやろうか。腕がいいから何でも作れちまう。色々と試すのに釜に入れたものがあってな」
「えっ、夫婦……」
「あの夢主って女とそういう関係じゃねぇのか」
比古は初めて姿を見た酒屋で、声を掛けてきた女の後ろでにこやかに見守る沖田の姿をしっかりと覚えていた。
京で暴れまわる男達とは誰であっても関わりたくないと思っていた比古だが、優しげな温かい沖田の眼差しに免じて、その場から去らずに夢主の話を聞いてやったのだ。
「あぁ……そうなりたいとは願っているのですが残念ながら……夢主ちゃんには他に想っている人がいるので……今はただそばで守ってあげられたらと」
沖田が隠さず飾らずに本音を語る言葉に比古は驚き、次に眉をひそめると最後にはふっと息を吐いて柔らかい顔に戻った。
「愚直な男だな、沖田総司」
「愚直ですか、構いませんよ」
「しょうがねぇなぁ、だったら湯呑みか。女の一つ、男物二つ、それで渡してやるよ。それで何とかしろよ」
「三つもよろしいんですか」
「あぁ、構わんさ。使ってみてまたどうだったか伝えてくれ。あいつは俺も気に入っているからな。素直で誠実そうな女だ」
比古が気に入っていると口にすると、沖田は無意識にぴくりと顔を反応させた。
全く気にかけていないと思い込んでいた自分が間違っていた。
「おい、勘違いするなよ、そういう気に入ったじゃねぇよ。俺はもう女はいい」
「そうですか……」
「あぁ。いい女に……お前もいい男だろう、頑張れよ」
比古に励まされ表情を明るく変えると沖田は照れながら頷いた。
人にこれほど夢主との仲を応援されるとは思わなかったからだ。
「そろそろ戻らなくていいのか、お前の部下が全員どこかでくたばってても俺を恨むなよ」
「あっ!そろそろ参りますっ。新津さん、ありがとうございました。また酒屋に伺います!」
自らの立場を思い出すと途端に駆け出し、再び思い出したように振り返って大きくお辞儀をして、薄暗い路地から明るく照らされた通りへと駆け戻って行った。
「やれやれ、面白い男だ。京にもいい男がいるじゃねぇか」
比古は沖田が走り去った先を見つめて嬉しそうに笑うと、白く大きな外套を翻し月明かりの中に消え去った。
「貴様は賢いな」
「どうも、そんなこと言ってくれるのは貴方が初めてですよ」
「ははっ、そいつは皆の見る目が無いときた」
にやりと見下ろす比古に向かい、沖田は両肩を上げて滑稽に振る舞っている。
「僕はあそこではいつまでも子供ですからね、それより今日お声を掛けたのはですね」
「分かっているさ、例の陶芸の品だろう、あいつはそんなに心待ちにしているのか」
いささか驚いたなと比古は目を開いた。
作品をくれてやると告げた時、嬉々として自分を見上げた夢主を思い出すと、その心待ちにしている心境に納得した。
「えぇ、夢主ちゃんはとても楽しみにしているようですね」
「そうか。土を弄るのはなかなか面白いもんだな、実はもう仕上げに入っている」
「本当ですかっ、それは凄いですね!」
「あぁ、俺は何でもこなせるし、動けば疾い男だからな」
「はははっ、それは本当に頼もしい限りです!」
「来週だ、来週あの酒屋に届けてやる。悪いが俺は壬生狼どもに関わりたくは無いんでな」
「分かりました。ちなみに僕達、今は壬生ではなく西本願寺にいるんです」
「知っているさ、だが壬生狼はどこまで行っても壬生狼だ」
「そうですか、ははっ、貴方に言われると反論出来る気がしません」
比古は自分の言葉を素直に受け入れた沖田に気を良くし、優しい眼差しを向けた。
そこで何か思いついたように表情を元に戻した。
「折角だ、夫婦茶碗でも持ってきてやろうか。腕がいいから何でも作れちまう。色々と試すのに釜に入れたものがあってな」
「えっ、夫婦……」
「あの夢主って女とそういう関係じゃねぇのか」
比古は初めて姿を見た酒屋で、声を掛けてきた女の後ろでにこやかに見守る沖田の姿をしっかりと覚えていた。
京で暴れまわる男達とは誰であっても関わりたくないと思っていた比古だが、優しげな温かい沖田の眼差しに免じて、その場から去らずに夢主の話を聞いてやったのだ。
「あぁ……そうなりたいとは願っているのですが残念ながら……夢主ちゃんには他に想っている人がいるので……今はただそばで守ってあげられたらと」
沖田が隠さず飾らずに本音を語る言葉に比古は驚き、次に眉をひそめると最後にはふっと息を吐いて柔らかい顔に戻った。
「愚直な男だな、沖田総司」
「愚直ですか、構いませんよ」
「しょうがねぇなぁ、だったら湯呑みか。女の一つ、男物二つ、それで渡してやるよ。それで何とかしろよ」
「三つもよろしいんですか」
「あぁ、構わんさ。使ってみてまたどうだったか伝えてくれ。あいつは俺も気に入っているからな。素直で誠実そうな女だ」
比古が気に入っていると口にすると、沖田は無意識にぴくりと顔を反応させた。
全く気にかけていないと思い込んでいた自分が間違っていた。
「おい、勘違いするなよ、そういう気に入ったじゃねぇよ。俺はもう女はいい」
「そうですか……」
「あぁ。いい女に……お前もいい男だろう、頑張れよ」
比古に励まされ表情を明るく変えると沖田は照れながら頷いた。
人にこれほど夢主との仲を応援されるとは思わなかったからだ。
「そろそろ戻らなくていいのか、お前の部下が全員どこかでくたばってても俺を恨むなよ」
「あっ!そろそろ参りますっ。新津さん、ありがとうございました。また酒屋に伺います!」
自らの立場を思い出すと途端に駆け出し、再び思い出したように振り返って大きくお辞儀をして、薄暗い路地から明るく照らされた通りへと駆け戻って行った。
「やれやれ、面白い男だ。京にもいい男がいるじゃねぇか」
比古は沖田が走り去った先を見つめて嬉しそうに笑うと、白く大きな外套を翻し月明かりの中に消え去った。