83.背中越し
夢主名前設定
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「斎藤さんこそ強がってばかりで素直じゃないんですから」
「やめんかっ」
肩に触れようとした夢主の手を斎藤は咄嗟に掴んで止めた。
「ほらっ、斎藤さん痛いから止めたんです。痛くないなら触れても平気です……」
「傷に触れる馬鹿がいるか、このド阿呆!治りが悪くなるだろう、俺はさっさと傷を治して夜の町に出たいんだよ」
「それは……わかりますけど、でも本当は痛いんです……斎藤さん無理してるんです……」
夢主は斎藤に手を掴まれたまま俯き、消えそうな声で訴えた。
無理をしては傷が治るどころか悪化してしまう。
それに無理をすれば、また斬り合いになった時、古傷が影響して危機を招いてしまわないのか。
「武士は、男は痛いと言わないもんだ。お前でも知らんのか」
斎藤を見ると、首筋の嫌な汗は引いていた。
本当にもう痛くないのかな……
夢主は首の後を覗くように背伸びをした。
その仕草に、斎藤からフッと笑みが漏れる。
顔が近過ぎることに気付ぬ無防備さが愛おしい。僅かに顔を動かせば、唇が触れると言うのに。
目を合わせず己の体を確認する夢主。
そんなに信頼していいのか、それともそんな恐れを抱かぬほど、お前は隙だらけなのか。
微かに首を動かし、斎藤は夢主の首筋を目に入れた。
「フッ、大丈夫さ、そこまで心配するな。傷なんてもんは初めてじゃない。痛みにも慣れているさ」
「痛みに……」
「あぁ」
……痛みに慣れているなんて……
不安を和らげようと斎藤が掛けた言葉に、夢主は哀しさとも淋しさともつかない感情を覚えた。
「慣れても、痛くはありませんか……痛みを言葉には出来なくても……手が欲しい時は声を掛けてくださいね」
首を傾げた夢主の慈しむような微笑みに、斎藤は息を呑んだ。
邪な考えを巡らせていた己に対する、無垢な微笑み。
不意を突かれ、斎藤は反射的に掴んだままでいた手を強く握ってしまった。細い骨が縮む感触がした。
「痛っ……」
夢主も反射的に声を上げた。
「すまんっ、大丈夫か」
斎藤はすぐ我に返り、捕らえたままだった手を離した。
掴んだままでは小さな手が壊れてしまいそうだった。
「大丈夫です、私もすみません、つい痛いなんて……」
「反射的に強く握ったんだ、痛くないわけないだろう、見せてみろ」
「大丈夫です……これくらい平気です」
「ちっ、お前だって強がるじゃねぇか」
「ほらっ!今、斎藤さん強がってたって認めましたね」
「俺は強がってなどいない」
「私だってそうですっ」
夢主が自分の手をかばうように斎藤から遠ざけて言い返し、斎藤が眉をしかめて舌打をして更に言葉を重ねようとした時、夢主の部屋を通り越した沖田の部屋に続く襖がすっと開いた。
「あのぉ~、止めるのも馬鹿らしくて放って置いたんですけど……大丈夫ですかぁ~。僕、これから隊務が待っていますので、知りませんからねぇー」
姿を見せ、冷たい視線を送ってこの先の展開を案じた沖田は、既に巡察に出る仕度を済ませていた。
まるで恋仲の二人がじゃれあっているような空気。
やきもちを通り越して、呆れていた。
「誰かさんは留守番をよろしくお願いしますよ~」
手負いで巡察に出られない斎藤に皮肉を言う沖田に斎藤もぴくりと反応した。
「フン、俺がいなくてせいせいするだろう、今のうちに抜刀斎を獲って来いよ」
「ははっ、斎藤さんてば無傷で抜刀斎を逃したんですか」
「馬鹿馬鹿しい。そんな訳あるまい、相当な傷を負わせたさ、俺と同じくらい、いやそれ以上の手負いのはずだ」
「だったら貴方と一緒で暫くは出てこないでしょう、あぁ~~つまんないの」
すっかり緋村を夜の巡察の愉しみにしている二人は、出てこないと分かるだけで気が萎えてしまう。
沖田は大袈裟に肩を落とした。
「やめんかっ」
肩に触れようとした夢主の手を斎藤は咄嗟に掴んで止めた。
「ほらっ、斎藤さん痛いから止めたんです。痛くないなら触れても平気です……」
「傷に触れる馬鹿がいるか、このド阿呆!治りが悪くなるだろう、俺はさっさと傷を治して夜の町に出たいんだよ」
「それは……わかりますけど、でも本当は痛いんです……斎藤さん無理してるんです……」
夢主は斎藤に手を掴まれたまま俯き、消えそうな声で訴えた。
無理をしては傷が治るどころか悪化してしまう。
それに無理をすれば、また斬り合いになった時、古傷が影響して危機を招いてしまわないのか。
「武士は、男は痛いと言わないもんだ。お前でも知らんのか」
斎藤を見ると、首筋の嫌な汗は引いていた。
本当にもう痛くないのかな……
夢主は首の後を覗くように背伸びをした。
その仕草に、斎藤からフッと笑みが漏れる。
顔が近過ぎることに気付ぬ無防備さが愛おしい。僅かに顔を動かせば、唇が触れると言うのに。
目を合わせず己の体を確認する夢主。
そんなに信頼していいのか、それともそんな恐れを抱かぬほど、お前は隙だらけなのか。
微かに首を動かし、斎藤は夢主の首筋を目に入れた。
「フッ、大丈夫さ、そこまで心配するな。傷なんてもんは初めてじゃない。痛みにも慣れているさ」
「痛みに……」
「あぁ」
……痛みに慣れているなんて……
不安を和らげようと斎藤が掛けた言葉に、夢主は哀しさとも淋しさともつかない感情を覚えた。
「慣れても、痛くはありませんか……痛みを言葉には出来なくても……手が欲しい時は声を掛けてくださいね」
首を傾げた夢主の慈しむような微笑みに、斎藤は息を呑んだ。
邪な考えを巡らせていた己に対する、無垢な微笑み。
不意を突かれ、斎藤は反射的に掴んだままでいた手を強く握ってしまった。細い骨が縮む感触がした。
「痛っ……」
夢主も反射的に声を上げた。
「すまんっ、大丈夫か」
斎藤はすぐ我に返り、捕らえたままだった手を離した。
掴んだままでは小さな手が壊れてしまいそうだった。
「大丈夫です、私もすみません、つい痛いなんて……」
「反射的に強く握ったんだ、痛くないわけないだろう、見せてみろ」
「大丈夫です……これくらい平気です」
「ちっ、お前だって強がるじゃねぇか」
「ほらっ!今、斎藤さん強がってたって認めましたね」
「俺は強がってなどいない」
「私だってそうですっ」
夢主が自分の手をかばうように斎藤から遠ざけて言い返し、斎藤が眉をしかめて舌打をして更に言葉を重ねようとした時、夢主の部屋を通り越した沖田の部屋に続く襖がすっと開いた。
「あのぉ~、止めるのも馬鹿らしくて放って置いたんですけど……大丈夫ですかぁ~。僕、これから隊務が待っていますので、知りませんからねぇー」
姿を見せ、冷たい視線を送ってこの先の展開を案じた沖田は、既に巡察に出る仕度を済ませていた。
まるで恋仲の二人がじゃれあっているような空気。
やきもちを通り越して、呆れていた。
「誰かさんは留守番をよろしくお願いしますよ~」
手負いで巡察に出られない斎藤に皮肉を言う沖田に斎藤もぴくりと反応した。
「フン、俺がいなくてせいせいするだろう、今のうちに抜刀斎を獲って来いよ」
「ははっ、斎藤さんてば無傷で抜刀斎を逃したんですか」
「馬鹿馬鹿しい。そんな訳あるまい、相当な傷を負わせたさ、俺と同じくらい、いやそれ以上の手負いのはずだ」
「だったら貴方と一緒で暫くは出てこないでしょう、あぁ~~つまんないの」
すっかり緋村を夜の巡察の愉しみにしている二人は、出てこないと分かるだけで気が萎えてしまう。
沖田は大袈裟に肩を落とした。