82.左の男
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――俺の父はな、紛い物であろうが二本差の身分だったんだ。
体良く言えば一応の武士、侍だ。
その息子である俺は、他の刀を継ぐ子供達と同様、物心付いた頃から剣の稽古をしていた。
最初は小さな木刀を手に、その辺で素振りを繰り返し、相手する大人の振り下ろす木刀をコンコンと受けるような手ほどきだった。
そして少し成長すると、俺はそれなりの道場に入れられた。
俺には兄がいてな、兄と同じ道場に入門したのさ。
もちろん構えはみなと同じ右手の構えだ。初めて木刀を手にした時からそれは変わらない。
普段の生活でも俺は箸を右に直されたり、様々矯正されていたのでたいして気には留めなかった。
師範代や兄弟子達に教わるままに木刀を握り、振り、幼い俺は懸命に稽古した。
しかし歳が上で体が大きく、稽古の年季も違う。
いくら稽古しても兄弟子連中に打ち勝つことは出来なかった。悔しかったさ……
教えられた通りひたすら右で稽古していたが、ある時ふと思い立ってな、元来得意な左で握り直してみたのさ。
俺は稽古の後に一人残り左手を上に持ち替えて木刀を振ってみた。
するとどうだ、今まで思うように出来なかったことが、何も考えずとも出来たのさ。
まるで木刀が手に吸い付くようだったぜ。
それから俺は右で稽古を受け、皆が帰った後に密かに左の稽古を続けた。
そしてある時、試合形式の稽古で、つい試合中に持ち替えちまったんだ。
打ち込んでくる兄弟子にカッとなり、こんな奴に負けるわけが無いと思ってしまってな。
体が勝手に動き、使い勝手のよい左に持ち替えていた。
当然師匠や兄弟子達は左構えなどと俺を罵り叱り、ついには破門……
そういうわけで俺はそれからひたすら独り、両の手の稽古を続けた。
右もやめなかったのは分からんが、その時の俺は両方使えたら便利だとでも思ったのか。
おかげで今は他の連中と同じ差し方で右で抜刀し左で攻撃する、そんな奇襲のような攻撃が出来るんだ、ありがたく思ってるぜ。
それからある日、俺は試衛館という変わった道場があると噂を聞いてな、練習相手が欲しかった俺は冗談半分に覗きに行ったんだ。
そして居合わせた連中を揶揄うつもりで左で構えてやった。
だが、誰も何も言わぬままに試合は始まった……
相手は確か藤堂君だったか……俺はもちろん勝ったさ。
次に永倉さん、最後に沖田君と試合をした。
沖田君とは引き分けたな。破門されてから初めての勝負付かずに、俺も相当衝撃を受けたもんだ。
なんせあの容姿だからな。
そして黙って見ていた近藤さんが俺に近寄り、ようやく怒鳴られるのかと思ったら、咎めるどころか左構えは武器になると言ってくれたんだ。
嬉しかったというより正直驚いた。
その後の土方さんに出会った時なんか「お前が左の男だろ!俺と勝負しろ!!」と随分騒がしかったぜ。
フッ……懐かしい話をしたもんだ――
斎藤はどこか憂いの表情を浮かべながら、それでも時折楽しそうに目を細め、頬を緩ませて語った。
昔に思いを馳せるそんな様子に、夢主の顔も自然と綻んでいた。
体良く言えば一応の武士、侍だ。
その息子である俺は、他の刀を継ぐ子供達と同様、物心付いた頃から剣の稽古をしていた。
最初は小さな木刀を手に、その辺で素振りを繰り返し、相手する大人の振り下ろす木刀をコンコンと受けるような手ほどきだった。
そして少し成長すると、俺はそれなりの道場に入れられた。
俺には兄がいてな、兄と同じ道場に入門したのさ。
もちろん構えはみなと同じ右手の構えだ。初めて木刀を手にした時からそれは変わらない。
普段の生活でも俺は箸を右に直されたり、様々矯正されていたのでたいして気には留めなかった。
師範代や兄弟子達に教わるままに木刀を握り、振り、幼い俺は懸命に稽古した。
しかし歳が上で体が大きく、稽古の年季も違う。
いくら稽古しても兄弟子連中に打ち勝つことは出来なかった。悔しかったさ……
教えられた通りひたすら右で稽古していたが、ある時ふと思い立ってな、元来得意な左で握り直してみたのさ。
俺は稽古の後に一人残り左手を上に持ち替えて木刀を振ってみた。
するとどうだ、今まで思うように出来なかったことが、何も考えずとも出来たのさ。
まるで木刀が手に吸い付くようだったぜ。
それから俺は右で稽古を受け、皆が帰った後に密かに左の稽古を続けた。
そしてある時、試合形式の稽古で、つい試合中に持ち替えちまったんだ。
打ち込んでくる兄弟子にカッとなり、こんな奴に負けるわけが無いと思ってしまってな。
体が勝手に動き、使い勝手のよい左に持ち替えていた。
当然師匠や兄弟子達は左構えなどと俺を罵り叱り、ついには破門……
そういうわけで俺はそれからひたすら独り、両の手の稽古を続けた。
右もやめなかったのは分からんが、その時の俺は両方使えたら便利だとでも思ったのか。
おかげで今は他の連中と同じ差し方で右で抜刀し左で攻撃する、そんな奇襲のような攻撃が出来るんだ、ありがたく思ってるぜ。
それからある日、俺は試衛館という変わった道場があると噂を聞いてな、練習相手が欲しかった俺は冗談半分に覗きに行ったんだ。
そして居合わせた連中を揶揄うつもりで左で構えてやった。
だが、誰も何も言わぬままに試合は始まった……
相手は確か藤堂君だったか……俺はもちろん勝ったさ。
次に永倉さん、最後に沖田君と試合をした。
沖田君とは引き分けたな。破門されてから初めての勝負付かずに、俺も相当衝撃を受けたもんだ。
なんせあの容姿だからな。
そして黙って見ていた近藤さんが俺に近寄り、ようやく怒鳴られるのかと思ったら、咎めるどころか左構えは武器になると言ってくれたんだ。
嬉しかったというより正直驚いた。
その後の土方さんに出会った時なんか「お前が左の男だろ!俺と勝負しろ!!」と随分騒がしかったぜ。
フッ……懐かしい話をしたもんだ――
斎藤はどこか憂いの表情を浮かべながら、それでも時折楽しそうに目を細め、頬を緩ませて語った。
昔に思いを馳せるそんな様子に、夢主の顔も自然と綻んでいた。