79.剣戟、そして江戸へ
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沖田は見送りもそこそこに道場での稽古に励んでいた。
「斎藤さんがいない間に緋村さんを仕留めて見せます」
斎藤を送り出す際に沖田が笑顔で贈った言葉だ。
「私を連れて行こうだなんて魂胆が見え見えよ」
江戸を目指す東海道では、伊東が自分を夢主から引き離し、藤堂の説得にもあたらせようとする土方の考えに苦言を呈していた。
「うるさい、何なら先に江戸に向かっても構いませんよ伊東さん、それとも後からゆっくり歩くか、江戸で会わなけりゃ見つけ出して士道不覚悟で斬り捨ててやる」
「ちょっと土方さん、それはあんまりでしょう、せっかく道中一緒なんですから仲良く歩きましょう」
斎藤は一番後から、親しげに寄る伊東に対し、渋い顔をする土方を笑いながら歩いた。
面白いことに伊東は土方の存在と疎みながらも、接する様子は心から土方を気に入り親しんで見えたのだ。
道場には立たないが指示を受ければ探索にも加わるし、浪士の捕縛にも協力的。隊務には忠実に見えた。
やがて伊東から距離を取る為、しんがりの斎藤のもとへやって来た土方は他愛のない話を始めた。
「最初はよ、夢主のやつを連れて行こうかと思ったんだぜ」
「夢主を江戸にですか」
「あぁ。江戸に興味持っていただろう、旅籠だってある、歩けなくなったら乗せてやればいい」
「ですが道中は長いし危険もあります」
「あぁ、だから今回は誘わなかったよ。またいつか連れて行ってやれたらいいな」
「そうですね」
悪巧みを打ち明けるガキ大将のように、楽しそうに斎藤に本音を打ち明ける。
その胸の内では夢主の気持ちを実によく考えていた。
「それによぉ、日野の景色を見せてやりてぇって思ったんだ。あいつ、ここに来てからそんな景色見てねぇだろう」
「……そうでしたね」
土方の言葉で、斎藤はかつて自分が江戸から京まで歩いて眺めた景色を思い返した。
花や空の好きなあいつはきっと楽しんで旅をするだろうと考えながら。
「まぁしかし、彦五郎さんにその女どうしたって揶揄われるのが落ちだからな。また孕ませたのかとか、あること、ないこと責められるのが目に見えるぜ」
懐かしい顔と声を思い浮かべ嬉しそうに推測する土方に、斎藤がチクリと言葉を掛けた。
「ま、心当たりが無いわけではないだけに苦しい言い訳になりますね」
「おいっ!回りくどい言い方すんなよ」
「フッ、誤解しないで下さいよ、俺はそれほど小さい男じゃない」
「ちっ……」
土方はばつが悪そうに斎藤から顔を逸らすが、横目で見ると目が合った。
「過去には捕らわれません」
斎藤の言葉に気まずく頷くと、土方はその日の宿場に辿り着くまで黙って歩いた。
……斎藤、藤堂を連れ戻しに行くが一つ仕事を伝えておく。いざという時、お前は抜き打ちに人を斬れる男だ。分かるな……
斎藤は前夜、屯所で土方に告げられた言葉を反芻しながら前を行く伊東の姿を眺めていた。
その伊東は土方に江戸行きを告げられた時、すぐには了承しなかった。
「私を置いていくと私の思う壺……といった所でしょうか」
「勘違いしないで下さい伊東さん。守り手は総司だけじゃない。守りたがっている男はあそこには山ほどいるんだぜ」
夢主を守り、屯所を、新選組を望んで守る。
伊東を江戸に連れて行く理由は夢主から離す為ではない、例え伊東が一人京へ残ろうが大丈夫だと、土方は残る仲間への信頼を示した。
「そう、それは頼もしいわね。それでしたら私も気兼ねなく江戸に同行できますわ。藤堂君を危険な狼から守りませんと」
「フン」
伊東は話がこじれて同門の藤堂が江戸で密かに斬られてしまう事態を避ける為に、江戸行きを了承した。
可能ならば、新しい隊士との繋がりも早いうちから作っておきたかった。
伊東にとっても江戸行きは利のある行動だった。
夢主は斎藤達が戻るまでの一月以上を、祈る思いで過ごした。
「斎藤さんがいない間に緋村さんを仕留めて見せます」
斎藤を送り出す際に沖田が笑顔で贈った言葉だ。
「私を連れて行こうだなんて魂胆が見え見えよ」
江戸を目指す東海道では、伊東が自分を夢主から引き離し、藤堂の説得にもあたらせようとする土方の考えに苦言を呈していた。
「うるさい、何なら先に江戸に向かっても構いませんよ伊東さん、それとも後からゆっくり歩くか、江戸で会わなけりゃ見つけ出して士道不覚悟で斬り捨ててやる」
「ちょっと土方さん、それはあんまりでしょう、せっかく道中一緒なんですから仲良く歩きましょう」
斎藤は一番後から、親しげに寄る伊東に対し、渋い顔をする土方を笑いながら歩いた。
面白いことに伊東は土方の存在と疎みながらも、接する様子は心から土方を気に入り親しんで見えたのだ。
道場には立たないが指示を受ければ探索にも加わるし、浪士の捕縛にも協力的。隊務には忠実に見えた。
やがて伊東から距離を取る為、しんがりの斎藤のもとへやって来た土方は他愛のない話を始めた。
「最初はよ、夢主のやつを連れて行こうかと思ったんだぜ」
「夢主を江戸にですか」
「あぁ。江戸に興味持っていただろう、旅籠だってある、歩けなくなったら乗せてやればいい」
「ですが道中は長いし危険もあります」
「あぁ、だから今回は誘わなかったよ。またいつか連れて行ってやれたらいいな」
「そうですね」
悪巧みを打ち明けるガキ大将のように、楽しそうに斎藤に本音を打ち明ける。
その胸の内では夢主の気持ちを実によく考えていた。
「それによぉ、日野の景色を見せてやりてぇって思ったんだ。あいつ、ここに来てからそんな景色見てねぇだろう」
「……そうでしたね」
土方の言葉で、斎藤はかつて自分が江戸から京まで歩いて眺めた景色を思い返した。
花や空の好きなあいつはきっと楽しんで旅をするだろうと考えながら。
「まぁしかし、彦五郎さんにその女どうしたって揶揄われるのが落ちだからな。また孕ませたのかとか、あること、ないこと責められるのが目に見えるぜ」
懐かしい顔と声を思い浮かべ嬉しそうに推測する土方に、斎藤がチクリと言葉を掛けた。
「ま、心当たりが無いわけではないだけに苦しい言い訳になりますね」
「おいっ!回りくどい言い方すんなよ」
「フッ、誤解しないで下さいよ、俺はそれほど小さい男じゃない」
「ちっ……」
土方はばつが悪そうに斎藤から顔を逸らすが、横目で見ると目が合った。
「過去には捕らわれません」
斎藤の言葉に気まずく頷くと、土方はその日の宿場に辿り着くまで黙って歩いた。
……斎藤、藤堂を連れ戻しに行くが一つ仕事を伝えておく。いざという時、お前は抜き打ちに人を斬れる男だ。分かるな……
斎藤は前夜、屯所で土方に告げられた言葉を反芻しながら前を行く伊東の姿を眺めていた。
その伊東は土方に江戸行きを告げられた時、すぐには了承しなかった。
「私を置いていくと私の思う壺……といった所でしょうか」
「勘違いしないで下さい伊東さん。守り手は総司だけじゃない。守りたがっている男はあそこには山ほどいるんだぜ」
夢主を守り、屯所を、新選組を望んで守る。
伊東を江戸に連れて行く理由は夢主から離す為ではない、例え伊東が一人京へ残ろうが大丈夫だと、土方は残る仲間への信頼を示した。
「そう、それは頼もしいわね。それでしたら私も気兼ねなく江戸に同行できますわ。藤堂君を危険な狼から守りませんと」
「フン」
伊東は話がこじれて同門の藤堂が江戸で密かに斬られてしまう事態を避ける為に、江戸行きを了承した。
可能ならば、新しい隊士との繋がりも早いうちから作っておきたかった。
伊東にとっても江戸行きは利のある行動だった。
夢主は斎藤達が戻るまでの一月以上を、祈る思いで過ごした。