79.剣戟、そして江戸へ
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「ふふっ、斎藤さん、どうやら殺り合ったようですね。でもここからは……僕が相手です、緋村さん」
「沖田総司……やれやれ、今夜はついてない」
緋村は沖田の殺気に対応しながら横目で斎藤を見た。
戦意を抑え込み「がっかりだ」と沖田に目をやる様子が確認出来る。
互いの戦いの邪魔をしないと交わした二人の約束、無論緋村は知らないが、沖田が剣を下げない限り斎藤は向かってこないと判断した。
剣を交える相手が変わったと認識し、納刀しながら今度は沖田だけに剣気をぶつける。
その殺気混じりの剣気に沖田は嬉しそうに微笑んだ。
「ついてないだなんて、そんなこと言わないで下さいよ。僕はずっと貴方にお会いしたかったんです」
笑顔で正眼に構える沖田を睨みながら、緋村は再び鞘に手を掛けた。
左足を下げ体を落とし、抜刀の体勢を整える。
「そういえば、貴方なんですよね、夢主ちゃんを助けてくれたの」
沖田の声に緋村がぴくりと反応した。
「何の話だ。俺には関係ない」
右手を柄に近付けながら緋村は言った。
「そうですか、なら良かった!!だって夢主ちゃんの命の恩人なら斬っちゃうの心苦しいですものっ、あははは!!」
キッと表情を締めると沖田は声を沈めた。
「心置きなく殺せます」
向かい合う二人のそばで、斎藤は大きな溜息を吐いて懐から懐紙を取り出した。
「いい所だったんだがな」
刀に残った血脂を拭き取るとフンと鼻をならし、懐紙を放り投げた。
半分に折られて血を吸った懐紙は漂うことなく重そうに地面へストンと落ちる。
「黙って見ていてください。全部持って行こうだなんて斎藤さんは人が悪い。緋村さんは……僕に譲ってくれないと」
「何のことだ」
斎藤は月明かりに刀をかざし、刃の輝きを確認してからゆっくりと鞘に刀を納める。
鞘が刃を全て飲み込み、鐔がキンと鳴らした音を合図に、沖田と緋村が飛び込んだ。
「うぉおおおおっ!」
「はぁああああっ!!」
雄叫びと共に目の前で繰り出された緋村の抜刀を、沖田は体勢を崩して交わした。
初めて体感する疾さに体の芯がじわりと熱くなる。
――これが噂された飛天御剣流の疾さ!
避けた際に刃に触れた沖田の髪が数本、はらりと舞った。
「疾いっ!!でもっ」
足を踏ん張り直し、そのまま腰を落として構えを直すと、今度は沖田が緋村を試すような突きを放つ。
三撃同時に感じられる沖田の三段突き、緋村は咄嗟に飛び退いた。
「疾い……」
互いの疾さに驚き、改めて顔を見合わせる。
どちらも疾さに自信を持つ剣客だ。
緋村は久しぶりに感じる疾さに、沖田は初めて体感する疾さに肌が粟立った。
ゆっくりと其々体を起こして体勢を立て直す。
「俺は早く行かねばならんというのに」
「もう少し付き合ってくださいよ」
沖田を倒しても更に斎藤が控えている……
緋村は斎藤が左手を鞘に添えたまま二人の対峙を眺めるさまを一瞥し、息を詰めた。
「分が悪い」
「えっ」
ぼそり呟いた緋村は、刀を向けて沖田に体ごとぶつける勢いで突進した。
望むところと待ち構える沖田だが、斎藤が咄嗟に抜刀し叫んだ。
「逃げるぞ、沖田!!!」
「何っ」
斎藤の叫びで沖田は瞬時に体重を移動させるが、その反応より速く、目の前で緋村は両足で強く地面を蹴って宙に舞い上がった。
その跳躍の凄まじさに、斎藤も沖田も思わず見上げる。
まるで大きな満月の中に緋村が浮いているようだ。
「逃がさんっ!!」
斎藤、沖田と続いて跳躍し町屋の屋根に跳び上がるが、緋村は颯爽と棟の上を走っており、その姿を小さくしていった。
「チッ、また逃げたか」
「長州の人と言うのはみんなあんなに足が疾いのでしょうか」
沖田は違った意味で足の速さが有名な桂を思い浮かべ、半ば感心するように呟いた。
「フン、あいつは特別だろう。面白いじゃないか、緋村抜刀斎」
「次の機会になっちゃいましたね」
屋根の上に立ち、より届くようになった月明かりを横顔に受けながら、今宵はここまでだと潔く認めた二人。
してやられたなと目を合わせてニッと笑い、甲高い瓦の音を立てて屋根から飛び降りた。
「沖田総司……やれやれ、今夜はついてない」
緋村は沖田の殺気に対応しながら横目で斎藤を見た。
戦意を抑え込み「がっかりだ」と沖田に目をやる様子が確認出来る。
互いの戦いの邪魔をしないと交わした二人の約束、無論緋村は知らないが、沖田が剣を下げない限り斎藤は向かってこないと判断した。
剣を交える相手が変わったと認識し、納刀しながら今度は沖田だけに剣気をぶつける。
その殺気混じりの剣気に沖田は嬉しそうに微笑んだ。
「ついてないだなんて、そんなこと言わないで下さいよ。僕はずっと貴方にお会いしたかったんです」
笑顔で正眼に構える沖田を睨みながら、緋村は再び鞘に手を掛けた。
左足を下げ体を落とし、抜刀の体勢を整える。
「そういえば、貴方なんですよね、夢主ちゃんを助けてくれたの」
沖田の声に緋村がぴくりと反応した。
「何の話だ。俺には関係ない」
右手を柄に近付けながら緋村は言った。
「そうですか、なら良かった!!だって夢主ちゃんの命の恩人なら斬っちゃうの心苦しいですものっ、あははは!!」
キッと表情を締めると沖田は声を沈めた。
「心置きなく殺せます」
向かい合う二人のそばで、斎藤は大きな溜息を吐いて懐から懐紙を取り出した。
「いい所だったんだがな」
刀に残った血脂を拭き取るとフンと鼻をならし、懐紙を放り投げた。
半分に折られて血を吸った懐紙は漂うことなく重そうに地面へストンと落ちる。
「黙って見ていてください。全部持って行こうだなんて斎藤さんは人が悪い。緋村さんは……僕に譲ってくれないと」
「何のことだ」
斎藤は月明かりに刀をかざし、刃の輝きを確認してからゆっくりと鞘に刀を納める。
鞘が刃を全て飲み込み、鐔がキンと鳴らした音を合図に、沖田と緋村が飛び込んだ。
「うぉおおおおっ!」
「はぁああああっ!!」
雄叫びと共に目の前で繰り出された緋村の抜刀を、沖田は体勢を崩して交わした。
初めて体感する疾さに体の芯がじわりと熱くなる。
――これが噂された飛天御剣流の疾さ!
避けた際に刃に触れた沖田の髪が数本、はらりと舞った。
「疾いっ!!でもっ」
足を踏ん張り直し、そのまま腰を落として構えを直すと、今度は沖田が緋村を試すような突きを放つ。
三撃同時に感じられる沖田の三段突き、緋村は咄嗟に飛び退いた。
「疾い……」
互いの疾さに驚き、改めて顔を見合わせる。
どちらも疾さに自信を持つ剣客だ。
緋村は久しぶりに感じる疾さに、沖田は初めて体感する疾さに肌が粟立った。
ゆっくりと其々体を起こして体勢を立て直す。
「俺は早く行かねばならんというのに」
「もう少し付き合ってくださいよ」
沖田を倒しても更に斎藤が控えている……
緋村は斎藤が左手を鞘に添えたまま二人の対峙を眺めるさまを一瞥し、息を詰めた。
「分が悪い」
「えっ」
ぼそり呟いた緋村は、刀を向けて沖田に体ごとぶつける勢いで突進した。
望むところと待ち構える沖田だが、斎藤が咄嗟に抜刀し叫んだ。
「逃げるぞ、沖田!!!」
「何っ」
斎藤の叫びで沖田は瞬時に体重を移動させるが、その反応より速く、目の前で緋村は両足で強く地面を蹴って宙に舞い上がった。
その跳躍の凄まじさに、斎藤も沖田も思わず見上げる。
まるで大きな満月の中に緋村が浮いているようだ。
「逃がさんっ!!」
斎藤、沖田と続いて跳躍し町屋の屋根に跳び上がるが、緋村は颯爽と棟の上を走っており、その姿を小さくしていった。
「チッ、また逃げたか」
「長州の人と言うのはみんなあんなに足が疾いのでしょうか」
沖田は違った意味で足の速さが有名な桂を思い浮かべ、半ば感心するように呟いた。
「フン、あいつは特別だろう。面白いじゃないか、緋村抜刀斎」
「次の機会になっちゃいましたね」
屋根の上に立ち、より届くようになった月明かりを横顔に受けながら、今宵はここまでだと潔く認めた二人。
してやられたなと目を合わせてニッと笑い、甲高い瓦の音を立てて屋根から飛び降りた。