78.貴方様
夢主名前設定
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「花はお前のものだ、好きにしろ」
一度は花を奪おうと手を伸ばした斎藤だが冷静に告げた。
自室に半身を入れ、襖に手を掛けて静かに振り返った。
「その男はお前に気があるようだな、枕元に置くとはずいぶんと大胆だ」
「そんなっ……彼はきっと京を離れて江戸城に入るはずです」
「ほぉ」
「いつかは……わかりませんが、数年以内には……」
「フン、ならばまだ数年の猶予があると言うことか」
苦々しく呟くと斎藤は襖を閉めて着替えを始めた。
「斎藤さん……」
不機嫌に出て行った斎藤の後姿を哀しく思う夢主だが、それもやきもち故なのかと思えば、不意に笑いが込み上げてきた。
「ふふっ」
「夢主ちゃん?」
「いえっ、すみません沖田さん、私も着替えますね」
「あっ、ごめんなさいっ!朝稽古行ってきます!」
慌てて部屋を飛び出した沖田に再び笑い声を上げた。
「ふふふっ。……それにしても蒼紫様……本当に見守ってくれてるのかな」
まさか寝ている間に訪れているとは思わず、久しく見ていない蒼紫の顔を思い浮かべた。
関わるのは怖いけれど、美しい蒼紫の姿と仕草、その声はしっかりと夢主の心に余韻を残していた。
夢主は着替え終えて、斎藤の部屋との境を取り払おうと声を掛けた。
「あの、開けてもいいですか」
「あぁ」
短い返事の後、そっと部屋境の襖を全開にした。部屋が繋がり広い空間を作り、斎藤の部屋へ足を踏み入れる。
すると斎藤は座ったまま夢主に訊ねた。
「ひとつ質問だ」
「はいっ」
改めて訊ねられるとは何事か、夢主は立ったまま背筋を伸ばした。
「あの忍だが」
「……蒼紫様のことでしょうか」
夢主の一言に斎藤は露骨に顔を歪めた。その顔の変化にドキリとし、慌てて斎藤の前に座った。
「それだ、お前は何故その男を様と呼ぶ」
「えっ」
「蒼紫様……様とは、何だ」
「何……ってその……」
夢主は自然のうちに蒼紫を様付けで呼んでしまう理由を考えた。
……操ちゃんがずっと蒼紫様、蒼紫様って呼んでたのが染み付いちゃっただけなんだけど……
如何とも説明しがたい理由だ。
夢主は小さく唸って言葉を探した。
「そんなに深い理由なのか」
「いえっ、ただ……移っちゃっただけなんです。周りの人達がそう呼んでいたのが伝わっていて……私もその呼び名で知ったもので、つい……」
斎藤は夢主の声色から真実か推し量っていた。
嘘は吐いていないようだと、フンと鼻をならし、小さく口元を動かした。
「フッ、そうか、嘘ではないようだな。あいつは周囲も者に様と呼ばれ名を残すほどの男になるのか」
夢主から顔を逸らし、腕組みをしてどこか遠くに視線を移した。
度々夢主を密かに訪ねている見知らぬ男がそれ程までに育つのかと、思い馳せている。
「まぁいい、分かった。……ククッ」
……俺が様で呼ばれたら堪らんからな……
我ながら仕様もないことを考えたものだと失笑した斎藤を、夢主は不思議そうに見つめた。
一度は花を奪おうと手を伸ばした斎藤だが冷静に告げた。
自室に半身を入れ、襖に手を掛けて静かに振り返った。
「その男はお前に気があるようだな、枕元に置くとはずいぶんと大胆だ」
「そんなっ……彼はきっと京を離れて江戸城に入るはずです」
「ほぉ」
「いつかは……わかりませんが、数年以内には……」
「フン、ならばまだ数年の猶予があると言うことか」
苦々しく呟くと斎藤は襖を閉めて着替えを始めた。
「斎藤さん……」
不機嫌に出て行った斎藤の後姿を哀しく思う夢主だが、それもやきもち故なのかと思えば、不意に笑いが込み上げてきた。
「ふふっ」
「夢主ちゃん?」
「いえっ、すみません沖田さん、私も着替えますね」
「あっ、ごめんなさいっ!朝稽古行ってきます!」
慌てて部屋を飛び出した沖田に再び笑い声を上げた。
「ふふふっ。……それにしても蒼紫様……本当に見守ってくれてるのかな」
まさか寝ている間に訪れているとは思わず、久しく見ていない蒼紫の顔を思い浮かべた。
関わるのは怖いけれど、美しい蒼紫の姿と仕草、その声はしっかりと夢主の心に余韻を残していた。
夢主は着替え終えて、斎藤の部屋との境を取り払おうと声を掛けた。
「あの、開けてもいいですか」
「あぁ」
短い返事の後、そっと部屋境の襖を全開にした。部屋が繋がり広い空間を作り、斎藤の部屋へ足を踏み入れる。
すると斎藤は座ったまま夢主に訊ねた。
「ひとつ質問だ」
「はいっ」
改めて訊ねられるとは何事か、夢主は立ったまま背筋を伸ばした。
「あの忍だが」
「……蒼紫様のことでしょうか」
夢主の一言に斎藤は露骨に顔を歪めた。その顔の変化にドキリとし、慌てて斎藤の前に座った。
「それだ、お前は何故その男を様と呼ぶ」
「えっ」
「蒼紫様……様とは、何だ」
「何……ってその……」
夢主は自然のうちに蒼紫を様付けで呼んでしまう理由を考えた。
……操ちゃんがずっと蒼紫様、蒼紫様って呼んでたのが染み付いちゃっただけなんだけど……
如何とも説明しがたい理由だ。
夢主は小さく唸って言葉を探した。
「そんなに深い理由なのか」
「いえっ、ただ……移っちゃっただけなんです。周りの人達がそう呼んでいたのが伝わっていて……私もその呼び名で知ったもので、つい……」
斎藤は夢主の声色から真実か推し量っていた。
嘘は吐いていないようだと、フンと鼻をならし、小さく口元を動かした。
「フッ、そうか、嘘ではないようだな。あいつは周囲も者に様と呼ばれ名を残すほどの男になるのか」
夢主から顔を逸らし、腕組みをしてどこか遠くに視線を移した。
度々夢主を密かに訪ねている見知らぬ男がそれ程までに育つのかと、思い馳せている。
「まぁいい、分かった。……ククッ」
……俺が様で呼ばれたら堪らんからな……
我ながら仕様もないことを考えたものだと失笑した斎藤を、夢主は不思議そうに見つめた。