77.俺の初めてをくれてやる

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主人公の女の子

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主人公の女の子

「帰ったら斎藤さんに伝えようと思うんですけど、新津さんが沖田さんに好戦的だったのは、内緒にしちゃ駄目でしょうか……斎藤さんその気になってしまったら困るので……斎藤さんはあの方に出来る限り関わってほしくないんです」

「あははっ、好戦的ってそんなものではなかったと思いますよ。ただあのお方は本当に争いたくないのでしょうね、必死に斬り合っている僕等がどうしようもなく愚かに見えるんだと思います。だからあんな視線を」

軽蔑の視線、きっとそんな冷たい蔑みの意図があったのだ。

「分からなくはありません……力を以ってして何かを変えるなんて認められない、そんな人もいると思います。山南さんもそうでした。とてつもない力を秘めていそうな新津さんが、というのも不思議ですけど」

「きっと力があり過ぎるが故に……なんだと思います。決してどこにも与しないお方です」

どんなに否定されようが今は京の町を守ることに命を掛けている。
夢主は少しでも心が軽くなればと、比古の心境を伝えた。

「そうですか」

爽やかな笑顔を保って沖田は応えた。

「手土産も出来ましたし、新しい屯所に行きましょう」

「はい」

比古との繋がり、そして酒瓶二つ。
充分な手土産と共に、二人は西本願寺への道を急いだ。


西本願寺では土方が部屋の割り振りを発表し、隊の武器や荷物をそれぞれの新しい置き場へ運ばせている。

「斎藤、お前はここだ」

土方の案内で新しい部屋に立ち入った斎藤。
平隊士が斎藤に見守られながら葛篭や着物を掛ける衣桁等を運んできた。

「少し狭くはありませんか」

中に入り部屋を見回した斎藤が呟いた。
不満ではないが以前より明らかに狭く、夢主と過ごすには互いの生活がぶつかってしまう。

「大丈夫だ、抜かりは無いって言っただろう。まぁとりあえず荷物を片付けておけ、総司達が戻ったら説明してやる」

「分かりました」

土方が言うのだからこの狭さにも理由があるのだろう。
斎藤は納得して荷物の整理を始めた。

夢主の僅かな荷物を斎藤の物と分けて部屋の隅に置く。
着替えが幾らか、あとは前川家の女将がくれたお古の小さな鏡台、その中には斎藤が買い与えた櫛と沖田が与えた紅が入っている。
他には深い藍色の纏と落ち着いた桃色の丹前。全て数えてもこれくらいだ。
荷物の少なさが存在の儚さを表しているようで、斎藤は何とも言えぬ気持ちで部屋の片隅を見つめた。

「これもか」

ふと気付き取り出した小さな箱には、縫い針や小さな鋏が入っている。裁縫道具だ。
こちらも前川家に眠っていたのを土方が借り出した物で、すっかり使いこなしている夢主に譲ってくれたのだ。

「これで全て。少ないな」

譲られた裁縫箱を大切に抱えて喜んでいた姿を思い出す。
一つ一つの品を大切にするのは、自分の物が少ないせいもあるだろう。
掛け替えのない、自分の所在を示すものでもある。

「ほんの僅かな物、か」

部屋はすぐに片付き、することが無くなった斎藤は部屋の外を覗いた。
大方の予想通り様子見に来ている僧侶や小坊主達の姿が確認できる。

「ちっ……」

気に食わない視線に斎藤が怒気を含ませ睨みを利かせると、小坊主は怯えるように慌てて僧侶達の後ろに回り、僧侶達は熟視を止めて小坊主を連れおずおずと立ち去って行った。

「やれやれ、夢主ももう戻ってもいい頃だが」

邪魔者がいなくなった、砂利が敷き詰められた広い空間を眺めた。
土方は寺と新選組の屯所部分を矢竹や柵で仕切ると話していた。
仕事の早い副長だ、明日明後日には何とかしてしまうに違いないと、今は繋がる敷地を見ては寺部分を観察した。
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