77.俺の初めてをくれてやる
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はっ」
「い……」
……いたっ!!!……
暖簾をくぐった二人の目に、大きな白い背中が飛び込んできた。
束ねられた黒く長い艶髪が印象的な男。
夢主は咄嗟に心の中で叫び、同じく驚いた様子でこちらを見る沖田の顔を確認した。
二人目を合わせ大きく頷く。
ここからは夢主の出番であると、沖田は暖簾をくぐったその場で立ち止まった。
比古清十郎は大きな白い酒瓶を手にした所のようだ。
朝日山、万寿……見覚えのある銘柄がはっきりと記されていた。
……間違いない……比古師匠だ……
夢主は一歩近付き、本人だと確認すると緊張して、思わず立ち止まってしまった。
比古もおかしな気配を感じ、ゆっくりと振り返った。
目の前に改めて立たれると体がとても大きく、圧倒的な存在感だ。
比古は訝しげに顔をしかめている。
目の前の小さな女が何の用かと、夢主のその姿を足先から順に確認していった。
「あの……」
戸惑っていると、見据えられ強張った夢主を見下ろす比古が表情を変えないままに口を開いた。
「何だ、俺に惚れたのか。悪いが俺はそういうのはもう興味が無いんだよ」
「え……ぇえっ?!いえっ、その……そうではなくて、も、もしかして貴方は陶芸家の先生ではありませんかっ……」
「陶芸っ」
自信家の比古から飛び出した思わぬ言葉に、夢主はすっとんきょうな声を出してしまった。
この機会を逃してはならないと落ち着きを取り戻し、当たり障りが無く今の比古の状況を確認出来る一言を選んで訊ねた。
「陶芸などはしていないが、うむ。悪くないな」
「えっ」
陶芸家かと問われ表情で一度は否定した比古だが、顎に指をかけると納得したように唸った。
「いや、ちょうど世間から離れ暮らそうと思ったものの、その為には何かしなければならないと考えていたんだが。成る程、陶芸とはいい案だな。他人と関わらずに生活の糧が手に入る。おい、女、なぜ俺が陶芸家だと思ったんだ」
「えっ、それは……その……手が!鍛えられた手ですし、人並み外れて大きくて、分厚くて……ろくろを回して形作るのに向いている手なのでもしかしてと、思ったからです……」
しどろもどろに答えるが、比古は己の手を見て成る程と頷いた。
「確かに俺の手は常人とは比べられない手だ。いい考えだ!女、感謝するぞ」
「は……はいっ……陶芸を……始めるのですか」
「あぁ、今決めた」
ニッと満足げに笑んで見せると一歩夢主に近付いた。
「女、名は」
「あっ……夢主と、申します……」
「夢主か、いい名だ」
フッと笑うと比古はそのまま夢主の横を抜けて店の出口へ向かった。
通り過ぎる際、触れそうなほどに目の前で白い外套が翻った。
「あ、あのっ!!お名前をっ」
比古清十郎の名を未だ本人から聞いていない。
本人に堂々と呼びかけられるよう名前をと咄嗟に訊ねた。
「名か。そうだな……新津覚之進、とでも名乗っておこうか」
新津覚之進、その名に夢主の顔が晴れていった。
陶芸家、新津覚之進の誕生の瞬間である。
「い……」
……いたっ!!!……
暖簾をくぐった二人の目に、大きな白い背中が飛び込んできた。
束ねられた黒く長い艶髪が印象的な男。
夢主は咄嗟に心の中で叫び、同じく驚いた様子でこちらを見る沖田の顔を確認した。
二人目を合わせ大きく頷く。
ここからは夢主の出番であると、沖田は暖簾をくぐったその場で立ち止まった。
比古清十郎は大きな白い酒瓶を手にした所のようだ。
朝日山、万寿……見覚えのある銘柄がはっきりと記されていた。
……間違いない……比古師匠だ……
夢主は一歩近付き、本人だと確認すると緊張して、思わず立ち止まってしまった。
比古もおかしな気配を感じ、ゆっくりと振り返った。
目の前に改めて立たれると体がとても大きく、圧倒的な存在感だ。
比古は訝しげに顔をしかめている。
目の前の小さな女が何の用かと、夢主のその姿を足先から順に確認していった。
「あの……」
戸惑っていると、見据えられ強張った夢主を見下ろす比古が表情を変えないままに口を開いた。
「何だ、俺に惚れたのか。悪いが俺はそういうのはもう興味が無いんだよ」
「え……ぇえっ?!いえっ、その……そうではなくて、も、もしかして貴方は陶芸家の先生ではありませんかっ……」
「陶芸っ」
自信家の比古から飛び出した思わぬ言葉に、夢主はすっとんきょうな声を出してしまった。
この機会を逃してはならないと落ち着きを取り戻し、当たり障りが無く今の比古の状況を確認出来る一言を選んで訊ねた。
「陶芸などはしていないが、うむ。悪くないな」
「えっ」
陶芸家かと問われ表情で一度は否定した比古だが、顎に指をかけると納得したように唸った。
「いや、ちょうど世間から離れ暮らそうと思ったものの、その為には何かしなければならないと考えていたんだが。成る程、陶芸とはいい案だな。他人と関わらずに生活の糧が手に入る。おい、女、なぜ俺が陶芸家だと思ったんだ」
「えっ、それは……その……手が!鍛えられた手ですし、人並み外れて大きくて、分厚くて……ろくろを回して形作るのに向いている手なのでもしかしてと、思ったからです……」
しどろもどろに答えるが、比古は己の手を見て成る程と頷いた。
「確かに俺の手は常人とは比べられない手だ。いい考えだ!女、感謝するぞ」
「は……はいっ……陶芸を……始めるのですか」
「あぁ、今決めた」
ニッと満足げに笑んで見せると一歩夢主に近付いた。
「女、名は」
「あっ……夢主と、申します……」
「夢主か、いい名だ」
フッと笑うと比古はそのまま夢主の横を抜けて店の出口へ向かった。
通り過ぎる際、触れそうなほどに目の前で白い外套が翻った。
「あ、あのっ!!お名前をっ」
比古清十郎の名を未だ本人から聞いていない。
本人に堂々と呼びかけられるよう名前をと咄嗟に訊ねた。
「名か。そうだな……新津覚之進、とでも名乗っておこうか」
新津覚之進、その名に夢主の顔が晴れていった。
陶芸家、新津覚之進の誕生の瞬間である。