76.露見
夢主名前設定
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斎藤達が戻ったのは夢主が夕餉を終えた後だった。
「戻ったぞ」
「遅くなりました」
「斎藤さん、沖田さんっ!!遅いですっ!!」
相当待ち侘びた様子で出迎えた夢主に、斎藤と沖田は顔を見合わせた。
今日は巡察も無く土方も近藤も屯所に控えている。隊士達も悪さは出来ないはずだ。
だが確かに辛い出来事があった翌日、葬儀の最中に置き去りにしたのは考えが及ばなかったか、二人は悪いことをしたと思い至った。
「ごめんなさい、大変な時にひとりにしてしまって……」
「本当ですよっ!大変だったんですから……」
二人を責める勢いの夢主に、斎藤も沖田もゆっくり腰を下ろした。
「何かあったのか」
「何かって……伊東さんが」
「伊東さんっ?こんな日に何かしでかしたんですかっ」
沖田は勢いあまり夢主の手を取り、体を確かめるように視線を侍らせ、最後に顔を見つめた。
「だ、大丈夫です……そういうのでは……」
夢主はするりと沖田の手から逃れ、溜息を吐いて話し始めた。
「こんな所で話して良いか……でもお伝えしないと……伊東さん、山南さんのことを知ってたみたいなんです……」
「えっ」
「大津に向かうよう……伊東さんが仕向けたんです」
「何っ」
「そんな……まさかっ」
立ち上がろうとする沖田を斎藤が咄嗟に抑えた。
「待て、怒る気持ちは分かるが堪えろ。話を続けろ夢主」
折角けじめをつけた気持ちを乱され沖田は憤ったが、自らを抑えて静かに座り直した。
その姿を確認して夢主も話を続けた。
「はぃ……大津に桂さんがいるって情報を山南さんに渡したそうです……」
「山南さんに、けしかけたのか」
「それで山南さんが……大津なんかに」
沖田の膝に乗る拳に力が入った。
震える拳では太い血管が筋になって浮き出ている。
「あいつはいつか斬られるだろうな……それまでは、堪えろ」
「分かっています……」
「私……伊東さんのこと許せません……どんな手使ったって……」
「おいおぃ、お前が言うんじゃあないよ」
斎藤が冗談だろうと喉を鳴らして笑い、夢主を見た。
「だって……取り入ったって、なんだって、私だって出来ますっ」
「無理だ、お前はすぐ顔に出る」
「でも……」
斎藤に窘められ頬を膨らます夢主を沖田も笑っている。
気持ちは分かるが、自分以上に策を講じることに向いていないのだ。素直過ぎる夢主を愛おしく思い、笑った。
「私本気ですよっ、手玉に取ってやるんです。私を利用するって言ってるんですから、私だって!ひ、土方さんに仕返しするって言ったのも私忘れていませんよ!密かに企んでいるんですからっ」
「ほぉ、そいつは意外だな」
二人に馬鹿にされたと感じた夢主はムキになり話を進めた。
「伊東さんも土方さんも、今に見ていてくださいっ」
「面白い」
「一度決めたことはしてみせますっ……土方さん、もう布石は打ってあるんですから……」
「布石?」
「それは……内緒です……」
勢いのまま話そうとした夢主だが、ちらりと沖田の顔を見て話すのをやめてしまった。
斎藤は土方と湯屋の帰りに交わした秘密の約束を受け流すことが出来るだろうが、沖田は気にしてしまうだろう。
兄弟の様に仲良い二人を気にして口をつぐんだ。
しかし斎藤も愉快な企みを聞いてみたかったらしく、沖田が着替えに戻った隙に訊ねてきた。
「で、布石とやらは」
「えっ、気になるんですか」
「あぁ話せ。話せぬことか」
「いえ……でも、怒らないで下さいよ……実は……」
夕陽に染まった土方の横顔、日が暮れて陰った切なげな横顔……不意に思い出し夢主は思わず頬を染めた。
その表情の変化に斎藤の眉が僅かに動く。
「土方さんと内緒の約束をしたんです。その……新時代のお約束です」
「新時代」
「はぃ……もし生きて新時代を迎えることが出来たら……その、お相手を……いたしますと……」
「ほぉお……そいつは、面白いな。約束か」
ニヤリ、斎藤はわざと卑しく顔を歪めて見せた。
「戻ったぞ」
「遅くなりました」
「斎藤さん、沖田さんっ!!遅いですっ!!」
相当待ち侘びた様子で出迎えた夢主に、斎藤と沖田は顔を見合わせた。
今日は巡察も無く土方も近藤も屯所に控えている。隊士達も悪さは出来ないはずだ。
だが確かに辛い出来事があった翌日、葬儀の最中に置き去りにしたのは考えが及ばなかったか、二人は悪いことをしたと思い至った。
「ごめんなさい、大変な時にひとりにしてしまって……」
「本当ですよっ!大変だったんですから……」
二人を責める勢いの夢主に、斎藤も沖田もゆっくり腰を下ろした。
「何かあったのか」
「何かって……伊東さんが」
「伊東さんっ?こんな日に何かしでかしたんですかっ」
沖田は勢いあまり夢主の手を取り、体を確かめるように視線を侍らせ、最後に顔を見つめた。
「だ、大丈夫です……そういうのでは……」
夢主はするりと沖田の手から逃れ、溜息を吐いて話し始めた。
「こんな所で話して良いか……でもお伝えしないと……伊東さん、山南さんのことを知ってたみたいなんです……」
「えっ」
「大津に向かうよう……伊東さんが仕向けたんです」
「何っ」
「そんな……まさかっ」
立ち上がろうとする沖田を斎藤が咄嗟に抑えた。
「待て、怒る気持ちは分かるが堪えろ。話を続けろ夢主」
折角けじめをつけた気持ちを乱され沖田は憤ったが、自らを抑えて静かに座り直した。
その姿を確認して夢主も話を続けた。
「はぃ……大津に桂さんがいるって情報を山南さんに渡したそうです……」
「山南さんに、けしかけたのか」
「それで山南さんが……大津なんかに」
沖田の膝に乗る拳に力が入った。
震える拳では太い血管が筋になって浮き出ている。
「あいつはいつか斬られるだろうな……それまでは、堪えろ」
「分かっています……」
「私……伊東さんのこと許せません……どんな手使ったって……」
「おいおぃ、お前が言うんじゃあないよ」
斎藤が冗談だろうと喉を鳴らして笑い、夢主を見た。
「だって……取り入ったって、なんだって、私だって出来ますっ」
「無理だ、お前はすぐ顔に出る」
「でも……」
斎藤に窘められ頬を膨らます夢主を沖田も笑っている。
気持ちは分かるが、自分以上に策を講じることに向いていないのだ。素直過ぎる夢主を愛おしく思い、笑った。
「私本気ですよっ、手玉に取ってやるんです。私を利用するって言ってるんですから、私だって!ひ、土方さんに仕返しするって言ったのも私忘れていませんよ!密かに企んでいるんですからっ」
「ほぉ、そいつは意外だな」
二人に馬鹿にされたと感じた夢主はムキになり話を進めた。
「伊東さんも土方さんも、今に見ていてくださいっ」
「面白い」
「一度決めたことはしてみせますっ……土方さん、もう布石は打ってあるんですから……」
「布石?」
「それは……内緒です……」
勢いのまま話そうとした夢主だが、ちらりと沖田の顔を見て話すのをやめてしまった。
斎藤は土方と湯屋の帰りに交わした秘密の約束を受け流すことが出来るだろうが、沖田は気にしてしまうだろう。
兄弟の様に仲良い二人を気にして口をつぐんだ。
しかし斎藤も愉快な企みを聞いてみたかったらしく、沖田が着替えに戻った隙に訊ねてきた。
「で、布石とやらは」
「えっ、気になるんですか」
「あぁ話せ。話せぬことか」
「いえ……でも、怒らないで下さいよ……実は……」
夕陽に染まった土方の横顔、日が暮れて陰った切なげな横顔……不意に思い出し夢主は思わず頬を染めた。
その表情の変化に斎藤の眉が僅かに動く。
「土方さんと内緒の約束をしたんです。その……新時代のお約束です」
「新時代」
「はぃ……もし生きて新時代を迎えることが出来たら……その、お相手を……いたしますと……」
「ほぉお……そいつは、面白いな。約束か」
ニヤリ、斎藤はわざと卑しく顔を歪めて見せた。