76.露見
夢主名前設定
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「あらまぁ……ふっ」
鋭かった目つきを和らげ、伊東は夢主を見て小さく笑い始めた。
決して狭くはない伊東の肩が小刻みに揺れている。
「どうしてっ……伊東さん……野心はあっても、本当はお優しい人だと思っていましたっ……なのにっ!!」
「ふふっ、貴女色々な事柄を知っているようだけど、私の思った通りのようね」
「何を……」
「貴女、私のことはたいして知らないのでしょう」
「はっ……」
夢主の心臓がドクンと跳ねた。知らないことは決して悪いわけではない、当たり前のことなのだから。
しかし先手を打てない自分の手の内の無さを悟られたような恐ろしさを感じた。
「図星のようね……ふふっ、いいわ。私が教えてあげるわよ、私のことだもの」
伊東はそっと近づくと頬に伝った涙の筋を細い指先で拭いとった。
夢主は睨み付けながら逃げるよう退き、伊東の手が取り残される。
「私は貴女のことも使いたいのよ。一緒になりたいわ」
「使うって……」
「そう、使いたいのよ。貴女は文句の付けようが無いわ。その知識は大いに役立つし、何と言っても美しい……私を充分に慰めてくれる」
「だって、伊東さん江戸に奥様がいらっしゃるのでは……」
「おほほほほっ、驚いた。それは知っているのね!確かにいたわよ、でもね、江戸を出る時にしっかり別れてきたわ。だってあの女、私の政治の何の役にも立ちやしない。いらないのよ、使えない者は」
「そんな……酷い……」
更に顔を寄せ、嫌がる夢主に近付いた。
「それに……こんなに麗しいのだから、抱えておいて損は無いでしょう。二の足を踏む馬鹿共に差し出せばころっと態度を変えて動いてくれるでしょう」
「そんなこと……出来るわけが……」
「意外と上に立つ連中って言うのは馬鹿なのよ。女一人差し出せば態度を覆すなんて、無いと思うでしょう。でもね、自分を妻を差し出すなんて最高のおもてなしになるのよ。お偉いさん、何かを征服した気分で首を縦に振るのよ。とっても便利な方法なのよ」
「そんな……そんなことっ……通じるわけが……みなさんを馬鹿にしすぎですっ」
「ふふっ……そんなこと、無いなんて誰にも言えないわ」
「ひ……酷い……酷いです!!山南さんにしたことも全部!!酷すぎます!!」
夢主の怒鳴り声が響き、廊下の奥の部屋から男が顔を覗かせた。
「大丈夫ですか、伊東さん」
「篠原さん、えぇ大丈夫よ」
……あの人が篠原さん、大柄で強そうな人……
太く低い声に夢主も顔を向けた。
屈強そうな男が伊東の部屋からこちらを見ている。
「ただの痴話喧嘩よ、ねぇ」
「っくっ……」
わざとらしい色目を向けてくる伊東を夢主は唇を噛み締めて睨みつけた。
「いやぁね、そんなに怒らないでちょうだい。冗談よ、冗談」
にやりと卑しい笑みを向けられた夢主、顔を歪めて伊東の言葉を繰り返した。
「冗談……」
「ほほほほっ、冗談に決まっているでしょう、ほほっ……夢主さん……本当に素直で可愛い方、綺麗なお人……。全て冗談だから安心してちょうだい」
そう言い残すと伊東は自室へ戻っていった。
「伊東さん……どこまでが本当なの……」
伊東の部屋では篠原が「大丈夫ですか」と確認していた。
「えぇ、いいのよ。あの子はこちら側に来てもらわないといけない子だから……ふふっ」
「しかし伊東さん、あんたは物知りで頭もいいのになんでそんな不器用なんだい」
部屋に戻り腰を下ろす伊東の姿を眺めながら篠原は呟いた。
「何がよっ」
「あんな言い方、無いじゃないですかぃ」
「聞いてたの」
「聞こえちまぃますよ。いいんですか、あの子、あんたをますます嫌っちまうんじゃありませんかぃ。御新造さんの事ことだって……活動に専念したいから、それに争いに巻き込みたくないから置いてきたんでしょう」
「いいのよ、全てが嘘じゃないわ、あの子を利用しようってのは本心よ。山南さんを仕向けたのも本当……戻って……来ると思っていたけれど……」
少しの間、伊東は何かを思うように天井を見つめていた。
長年煤に炙られて真っ黒な天井だ。
「それに誰かを憎めたほうがあの子も気が楽ってものでしょう」
「全く伊東さんは不器用だね」
「フン、放っておきなさい」
それから伊東の部屋ではこれからの動きを決める議論が始まった。
夢主は再び一人、部屋で斎藤が戻るのを待つ長い時間を過ごした。
鋭かった目つきを和らげ、伊東は夢主を見て小さく笑い始めた。
決して狭くはない伊東の肩が小刻みに揺れている。
「どうしてっ……伊東さん……野心はあっても、本当はお優しい人だと思っていましたっ……なのにっ!!」
「ふふっ、貴女色々な事柄を知っているようだけど、私の思った通りのようね」
「何を……」
「貴女、私のことはたいして知らないのでしょう」
「はっ……」
夢主の心臓がドクンと跳ねた。知らないことは決して悪いわけではない、当たり前のことなのだから。
しかし先手を打てない自分の手の内の無さを悟られたような恐ろしさを感じた。
「図星のようね……ふふっ、いいわ。私が教えてあげるわよ、私のことだもの」
伊東はそっと近づくと頬に伝った涙の筋を細い指先で拭いとった。
夢主は睨み付けながら逃げるよう退き、伊東の手が取り残される。
「私は貴女のことも使いたいのよ。一緒になりたいわ」
「使うって……」
「そう、使いたいのよ。貴女は文句の付けようが無いわ。その知識は大いに役立つし、何と言っても美しい……私を充分に慰めてくれる」
「だって、伊東さん江戸に奥様がいらっしゃるのでは……」
「おほほほほっ、驚いた。それは知っているのね!確かにいたわよ、でもね、江戸を出る時にしっかり別れてきたわ。だってあの女、私の政治の何の役にも立ちやしない。いらないのよ、使えない者は」
「そんな……酷い……」
更に顔を寄せ、嫌がる夢主に近付いた。
「それに……こんなに麗しいのだから、抱えておいて損は無いでしょう。二の足を踏む馬鹿共に差し出せばころっと態度を変えて動いてくれるでしょう」
「そんなこと……出来るわけが……」
「意外と上に立つ連中って言うのは馬鹿なのよ。女一人差し出せば態度を覆すなんて、無いと思うでしょう。でもね、自分を妻を差し出すなんて最高のおもてなしになるのよ。お偉いさん、何かを征服した気分で首を縦に振るのよ。とっても便利な方法なのよ」
「そんな……そんなことっ……通じるわけが……みなさんを馬鹿にしすぎですっ」
「ふふっ……そんなこと、無いなんて誰にも言えないわ」
「ひ……酷い……酷いです!!山南さんにしたことも全部!!酷すぎます!!」
夢主の怒鳴り声が響き、廊下の奥の部屋から男が顔を覗かせた。
「大丈夫ですか、伊東さん」
「篠原さん、えぇ大丈夫よ」
……あの人が篠原さん、大柄で強そうな人……
太く低い声に夢主も顔を向けた。
屈強そうな男が伊東の部屋からこちらを見ている。
「ただの痴話喧嘩よ、ねぇ」
「っくっ……」
わざとらしい色目を向けてくる伊東を夢主は唇を噛み締めて睨みつけた。
「いやぁね、そんなに怒らないでちょうだい。冗談よ、冗談」
にやりと卑しい笑みを向けられた夢主、顔を歪めて伊東の言葉を繰り返した。
「冗談……」
「ほほほほっ、冗談に決まっているでしょう、ほほっ……夢主さん……本当に素直で可愛い方、綺麗なお人……。全て冗談だから安心してちょうだい」
そう言い残すと伊東は自室へ戻っていった。
「伊東さん……どこまでが本当なの……」
伊東の部屋では篠原が「大丈夫ですか」と確認していた。
「えぇ、いいのよ。あの子はこちら側に来てもらわないといけない子だから……ふふっ」
「しかし伊東さん、あんたは物知りで頭もいいのになんでそんな不器用なんだい」
部屋に戻り腰を下ろす伊東の姿を眺めながら篠原は呟いた。
「何がよっ」
「あんな言い方、無いじゃないですかぃ」
「聞いてたの」
「聞こえちまぃますよ。いいんですか、あの子、あんたをますます嫌っちまうんじゃありませんかぃ。御新造さんの事ことだって……活動に専念したいから、それに争いに巻き込みたくないから置いてきたんでしょう」
「いいのよ、全てが嘘じゃないわ、あの子を利用しようってのは本心よ。山南さんを仕向けたのも本当……戻って……来ると思っていたけれど……」
少しの間、伊東は何かを思うように天井を見つめていた。
長年煤に炙られて真っ黒な天井だ。
「それに誰かを憎めたほうがあの子も気が楽ってものでしょう」
「全く伊東さんは不器用だね」
「フン、放っておきなさい」
それから伊東の部屋ではこれからの動きを決める議論が始まった。
夢主は再び一人、部屋で斎藤が戻るのを待つ長い時間を過ごした。