76.露見

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主人公の女の子

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主人公の女の子

「抜刀斎と遭遇した夜だ。すぐに逃げやがるから俺は物足りなかったんだ。それで」

「それで」

「帰ったらあいつは起きていた。……心配だったんだろう」

ふっと沖田と目を合わせた。
山南と追いかけていった自分を気に掛けて夢主は眠れなかったのだろうと、沖田自身にも察しが付いた。

「寝ていろと言い聞かせていたのに起きていたから俺はつい、かっとなった」

沖田は不安げに話を聞いている。
酒を運ぶ手を止めて斎藤から目を逸らさず見つめていた。

「襲っちまったんだ」

「っ……」

よりによってあんな夜に、沖田は瞳孔の開いた目で斎藤を睨んだ。

「安心しろ、ただ馬乗りになって……何もしていない。叩かれた……それで目が覚めた……」

「…………ただ、馬乗りに」

沖田は静かに斎藤から顔を逸らし、言葉を繰り返した。

「すまん……」

さすがにばつが悪そうに斎藤は声を潜めた。

「そうですか……僕がそばにいないんじゃ止められませんからね……よく自制出来ましたね、凄いじゃないですか。それに良く話してくれましたね、勇気があります」

皮肉を込めた沖田の言葉に斎藤は黙るしかなく、ただその通りだと首を動かした。

夢主ちゃんは大丈夫なのですか……夕べ部屋に来てくれましたけど、あの時は落ち着いてましたよ……本当にありがたかったんです」

「あぁ、あの時はもう……落ち着いていた」

「強い人ですね……」

「すまない事をした。夢主にも、君にも……」

「もういいです、何もなくて良かった。夢主ちゃんの心が良いというまで、斎藤さんであっても駄目ですよ」

駄目といわれ斎藤は詰まるように頷いた。

「やっぱり夢主ちゃんも連れ来てあげれば良かったな……。土方さんが引越しの準備しろって言ってましたね、もうすぐなんですね……本当に引っ越しちゃうんだ」

屯所でどんな気持ちで一人でいるのかと夢主に思いを馳せ切なくなった沖田は、気まずい話題を変えてしまおうと屯所の話を持ち出した。

「そうだな」

「壬生寺で遊ぶの好きだったな~」

「近いんだからまた来ればいいだろう」

「そっか!来ちゃえばいいですね!!みんなが島原に行く時に僕は壬生寺にくればいいんだ、あはははっ!!これはいい!!」

「フッ、じじぃみたいだな」

「落ち着いてると言ってください、あぁやっぱり夢主ちゃんに会いたくなっちゃった……斎藤さん呼んできてくださいよ~」

「君が行けばいいだろう」

「うぅん……屯所に……戻りますか……」

「俺はまだ戻らん」

挨拶回りに、後片付け……頭に浮かぶ厄介な仕事に二人揃って首を振った。
沖田はけじめをつけたつもりの山南のそばに、今は戻りたくなかった。

「まぁ今戻っても色々面倒でしょうね……僕ももう少しここにいようかな」

実のない会話で進む酒。
二人が壬生の屯所へ戻るまで今暫くかかりそうな気だるい空気が流れていた。
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