75.灯火
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
全てが終わった薄明の中、斎藤は部屋へ戻ってきた。
他の隊士達は普段通り夕餉の時間を迎えている。
衝立のこちらに座り書物を目にしていた夢主は、切なげながら、しっかり気持ちを保っていた。
「終わった」
どう告げるか迷った斎藤だか隠さず伝えた。
「そうですか……」
夢主は本を閉じると斎藤に向かい座り直した。
失われずともよい命が奪われてしまった。消えずともよい美しい命の灯火が一つ、消えてしまった。
そんな辛さも、ここに身を置く者として受け入れなければならなかった。
「沖田さんは大丈夫ですか」
きっと一番辛い想いをした彼、夢主はその姿を暫く目にしていなかった。
山南を追って出て行く時も気配を察しただけだ。
一体どのような気持ちで沖田は過ごしているのだろうか。
思索の苦手な彼が懸命に救う手立てを考え説得をし、女を乗せて馬を走らせることさえした。
大事な人を失い、介錯まで務め、一度に与えられた多くの望まぬ経験に苦しんでいる姿が脳裏に浮かぶと、居ても立ってもいられなくなった。
「待て」
立ち上がった夢主のその先の行動を察した斎藤が一言、止めた。
「そっとしておけ」
「でも……」
独り苦しんでいる沖田を放っておけない。
またあの幼子のような悲しい顔でうずくまっているのではないか。
「彼は新選組一番隊組長、そして試衛館塾頭……沖田総司。彼には彼の、立場ってもんがあるんだよ」
「沖田さんの……」
「あぁ。お前がほいほい出て行き、こんな時に部屋にあがり込めば周りの平隊士達への示しがつかん。脱走者の始末くらいで心が揺れていると、知られてはいけないんだよ」
「そぅ……そうなんですね……」
一人で耐えなければならないのだ。
手を伸ばしてはいけない辛さが夢主には苦しかった。
「彼は強い、信じて待ってやれ」
「はぃ……」
今日はきっと自分の部屋から出てこないだろう。
沖田の部屋からは気配すら感じられなかった。
全ての存在を消しているような静けさだけが漂っている。
だが日が暮れると明りが灯った。
沖田の息づかいが感じられるようで、夢主は少しだけほっと息を吐いた。
沖田はいつもと変わらず振舞おうと、日暮れと共に行灯を燈したのだ。
部屋の中で介錯に振るった刀を抱え、ただ行灯の火の揺らめきを眺めていた。
時折、行灯の芯がチリッと鳴らす小さな音が、やけに耳に付いた。
他の隊士達は普段通り夕餉の時間を迎えている。
衝立のこちらに座り書物を目にしていた夢主は、切なげながら、しっかり気持ちを保っていた。
「終わった」
どう告げるか迷った斎藤だか隠さず伝えた。
「そうですか……」
夢主は本を閉じると斎藤に向かい座り直した。
失われずともよい命が奪われてしまった。消えずともよい美しい命の灯火が一つ、消えてしまった。
そんな辛さも、ここに身を置く者として受け入れなければならなかった。
「沖田さんは大丈夫ですか」
きっと一番辛い想いをした彼、夢主はその姿を暫く目にしていなかった。
山南を追って出て行く時も気配を察しただけだ。
一体どのような気持ちで沖田は過ごしているのだろうか。
思索の苦手な彼が懸命に救う手立てを考え説得をし、女を乗せて馬を走らせることさえした。
大事な人を失い、介錯まで務め、一度に与えられた多くの望まぬ経験に苦しんでいる姿が脳裏に浮かぶと、居ても立ってもいられなくなった。
「待て」
立ち上がった夢主のその先の行動を察した斎藤が一言、止めた。
「そっとしておけ」
「でも……」
独り苦しんでいる沖田を放っておけない。
またあの幼子のような悲しい顔でうずくまっているのではないか。
「彼は新選組一番隊組長、そして試衛館塾頭……沖田総司。彼には彼の、立場ってもんがあるんだよ」
「沖田さんの……」
「あぁ。お前がほいほい出て行き、こんな時に部屋にあがり込めば周りの平隊士達への示しがつかん。脱走者の始末くらいで心が揺れていると、知られてはいけないんだよ」
「そぅ……そうなんですね……」
一人で耐えなければならないのだ。
手を伸ばしてはいけない辛さが夢主には苦しかった。
「彼は強い、信じて待ってやれ」
「はぃ……」
今日はきっと自分の部屋から出てこないだろう。
沖田の部屋からは気配すら感じられなかった。
全ての存在を消しているような静けさだけが漂っている。
だが日が暮れると明りが灯った。
沖田の息づかいが感じられるようで、夢主は少しだけほっと息を吐いた。
沖田はいつもと変わらず振舞おうと、日暮れと共に行灯を燈したのだ。
部屋の中で介錯に振るった刀を抱え、ただ行灯の火の揺らめきを眺めていた。
時折、行灯の芯がチリッと鳴らす小さな音が、やけに耳に付いた。