75.灯火
夢主名前設定
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夢主が目を覚ますと、部屋には誰もいなかった。
斎藤はどうしたのだろうか……
そう思って身を起こすと、ふと部屋の中に立ち込める臭いに気が付いた。
「血の臭い……」
今日、悲しい血が流れるとしても、まだ早過ぎる。
辺りの様子が気になる。沖田が山南を連れ戻ったのか、屯所の中が騒がしい。
どうすべきか迷う夢主だが、着替えを終えるといつも通り一旦部屋の外へ出て、勝手元を目指した。
その途中、井戸のそばに放置された洗い桶が目に留まった。
「着物が入れっぱなし……」
庭下駄に足を入れて傍へ寄ると、色味のない生地に目立たぬ織り模様、それが斎藤の着物だとすぐに分かった。
「血の臭いの原因ってこれ……」
簡単に血抜きをして、そのまま浸け置かれて放置され、水を吸って重くなった着物。
持ち上げると、水が落ちて染みが浮き上がる。まだ血の跡が残っていた。
夢主は急いで部屋に戻ると襷掛けをして、再び井戸に戻って斎藤の着物を洗い始めた。
「こんなに血に染めて……斎藤さん何したんだろう、女の人は……買わなかったのかな……」
声を潜めぼやいていると、水の音に誘われたのか着物の主が姿を現した。
「お前が洗っているのか」
「斎藤さん……」
縁側に立つ斎藤を見上げると、急な仕草に眩暈を感じた。
鋭い目つき、だが顔付きは普段と変わらぬものに戻っている。
「すまない、若い隊士にさせるつもりだったんだが」
「いえ、私に出来ることですから……」
出来ないことも沢山あるが、血塗れた着物を洗うくらいなら出来ると、桶に視線を戻して手を動かした。
斎藤が庭に降りて寄ってくるのが分かる。
意識せずとも体が緊張してしまう。夢主の肩は縮まっていた。
「夢主……」
名を呼ばれビクリと反応する自分に驚いた。
いつも親身になってくれる斎藤を、昨夜一つの過ちだけで拒絶してしまうなんて。申し訳なさすら感じた。
「すまない、昨晩は怖い思いをさせてしまったな。お前の言う通り、自分を見失っていた」
水桶から目を離さない夢主の横顔に、斎藤は語りかけた。
「……私も……」
ぽつりと呟くとようやく斎藤の顔を見ることが出来た。
「叩いて……ごめんなさい」
思わぬ謝罪が返ってきて、斎藤は目を丸くし続いて笑い始めた。
「ハハッ、そうか、お前が謝るか。いや、お前が謝ることはない。悪いのは俺だ。あの平手も悪く無かったぞ」
揶揄われているのかと夢主はムッとしたが、斎藤の心が晴れた様子に笑みを滲ませた。
「ふふっ、叩かれて喜ぶなんて、斎藤さん変なの」
「あぁ、俺は少しイカれているようだ。昨夜俺は思い知ったよ。抜刀斎と剣を交えたのが嬉しくてな、そして足りなかったんだよ。あの野郎さっさと逃げやがって」
「斎藤さん……ふふっ、抜刀斎が恋しいのですか」
「なっ」
夢主に妙な言葉をぶつけられ眉間に皺を寄せるが、やがて嘲るように頷いた。
「フフッ、あぁ恋しいな、あいつを殺るのは俺だ」
ニイッと正直に歪んだ顔を見せる斎藤に、夢主は真っ直ぐ頷いた。
「それでこそ、斎藤さんですっ」
「フンッ」
たおやかに笑う夢主から斎藤は顔を逸らした。
見惚れるものかという意地と、酷い仕打ちを水に流してしまう夢主の懐深さに甘えてはいけないと己を否定する為、優しい顔から目を背けた。
そして伝えるべき大事な用件を思い出した。
斎藤はどうしたのだろうか……
そう思って身を起こすと、ふと部屋の中に立ち込める臭いに気が付いた。
「血の臭い……」
今日、悲しい血が流れるとしても、まだ早過ぎる。
辺りの様子が気になる。沖田が山南を連れ戻ったのか、屯所の中が騒がしい。
どうすべきか迷う夢主だが、着替えを終えるといつも通り一旦部屋の外へ出て、勝手元を目指した。
その途中、井戸のそばに放置された洗い桶が目に留まった。
「着物が入れっぱなし……」
庭下駄に足を入れて傍へ寄ると、色味のない生地に目立たぬ織り模様、それが斎藤の着物だとすぐに分かった。
「血の臭いの原因ってこれ……」
簡単に血抜きをして、そのまま浸け置かれて放置され、水を吸って重くなった着物。
持ち上げると、水が落ちて染みが浮き上がる。まだ血の跡が残っていた。
夢主は急いで部屋に戻ると襷掛けをして、再び井戸に戻って斎藤の着物を洗い始めた。
「こんなに血に染めて……斎藤さん何したんだろう、女の人は……買わなかったのかな……」
声を潜めぼやいていると、水の音に誘われたのか着物の主が姿を現した。
「お前が洗っているのか」
「斎藤さん……」
縁側に立つ斎藤を見上げると、急な仕草に眩暈を感じた。
鋭い目つき、だが顔付きは普段と変わらぬものに戻っている。
「すまない、若い隊士にさせるつもりだったんだが」
「いえ、私に出来ることですから……」
出来ないことも沢山あるが、血塗れた着物を洗うくらいなら出来ると、桶に視線を戻して手を動かした。
斎藤が庭に降りて寄ってくるのが分かる。
意識せずとも体が緊張してしまう。夢主の肩は縮まっていた。
「夢主……」
名を呼ばれビクリと反応する自分に驚いた。
いつも親身になってくれる斎藤を、昨夜一つの過ちだけで拒絶してしまうなんて。申し訳なさすら感じた。
「すまない、昨晩は怖い思いをさせてしまったな。お前の言う通り、自分を見失っていた」
水桶から目を離さない夢主の横顔に、斎藤は語りかけた。
「……私も……」
ぽつりと呟くとようやく斎藤の顔を見ることが出来た。
「叩いて……ごめんなさい」
思わぬ謝罪が返ってきて、斎藤は目を丸くし続いて笑い始めた。
「ハハッ、そうか、お前が謝るか。いや、お前が謝ることはない。悪いのは俺だ。あの平手も悪く無かったぞ」
揶揄われているのかと夢主はムッとしたが、斎藤の心が晴れた様子に笑みを滲ませた。
「ふふっ、叩かれて喜ぶなんて、斎藤さん変なの」
「あぁ、俺は少しイカれているようだ。昨夜俺は思い知ったよ。抜刀斎と剣を交えたのが嬉しくてな、そして足りなかったんだよ。あの野郎さっさと逃げやがって」
「斎藤さん……ふふっ、抜刀斎が恋しいのですか」
「なっ」
夢主に妙な言葉をぶつけられ眉間に皺を寄せるが、やがて嘲るように頷いた。
「フフッ、あぁ恋しいな、あいつを殺るのは俺だ」
ニイッと正直に歪んだ顔を見せる斎藤に、夢主は真っ直ぐ頷いた。
「それでこそ、斎藤さんですっ」
「フンッ」
たおやかに笑う夢主から斎藤は顔を逸らした。
見惚れるものかという意地と、酷い仕打ちを水に流してしまう夢主の懐深さに甘えてはいけないと己を否定する為、優しい顔から目を背けた。
そして伝えるべき大事な用件を思い出した。