8.若狼
夢主名前設定
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斎藤は夢主が想いを全て吐き出すまで静かに待ち、己に向けられる言葉に耳を傾けた。
怒りも悔しさも全て吐き出せばいいと、ただ待っていた。
「……気は済んだか」
やがて夢主が静まると落ち着いた調子で訊き、顔を下げて苦しむ姿を見つめた。
「……すまんな」
「どうして斎藤さんが謝るの……」
夢主の感情的な主張に、斎藤はただ謝った。
睨むように僅かに顔を上げる夢主、堪えられない怒りと女としての悲しさが涙となり浮かんでいた。
涙を流さぬよう必死に堪えているのが見て取れる。
「お前のいた世と大分違うのだろう。力になれず……すまなかった。だが沖田君みたいに誠実な男もいる。原田さんも女好きだが、女に誠意を示すお方だ。色香に惑う者もいれば、男にも色々いるさ」
夢主は黙っている。
ここに来てからの出来事を思い返して悔しさと恐怖がよぎり、肩が俄かに震え始めた。
「安心しろ、お前が嫌がることはしない」
斎藤はフッと表情を和らげて告げた。
すると、そのたった一言で夢主の震えは治まった。体の力が抜けたように、顔からも怒りや恐れが消えていく。
「……どうしてお前は、そんなに……俺を信用する」
夢主はそっと顔を上げた。
「俺の気のせいか。お前、俺にやけに気を許していまいか。俺はあまり第一印象の良い男ではないぞ」
理由など無かった。
「だって……斎藤さんだから……」
突拍子も無い返事に斎藤は苦笑した。
「フッ、そいつは思いもしない答えだな。何を見聞きしたかは知らんが俺はそんな出来た男ではない。江戸で旗本を切って逃げてきた男だ。恩赦をいい事に浪士組に入り、思う存分人が斬れると喜んでいるような男だぜ」
にやりと顔を歪めて語った。
だが夢主は気の抜けた呆けた目で斎藤を見上げている。
「それでも……斎藤さんだから……」
斎藤は夢主の様子を見て、畏まる必要が無くなったと姿勢を崩した。
胡坐で乱れても裾から足を覗かせないのが斎藤らしい。
「まぁ、慕ってくれて悪い気はしないがな。その調子で変な男にほいほいついて行くなよ。色々と知っているのかも知れんが、お前の想像と違う奴もいるだろうよ。悪いがいちいち助けてはやれんぞ」
「はぃ」
そこは素直に返事をする。
斎藤は真っ直ぐに己の正義を貫く男だと、夢主は信じていた。
だから信じているとは、上手く言葉に出来なかった。
「お前は我慢するのは上手いが、吐き出すのは苦手のようだ。溜め込むなよ、壊れてしまっては元も子もない」
黙って頷いた。
何かを諭される幼子のように大人しく座っている。
「斎藤さん……」
夢主はここに来てから、誰かにずっと伝えたい事があった。
斎藤の言葉に促されるように、抱えていたものを話し始めた。
「前に……私の言葉や行動一つで歴史が変わってしまうかもしれないって……言いましたよね……」
「あぁ」
「私、先の世の事を聞かれても、話しちゃいけないって思ってたんです。土方さんは情報を欲しがるかもしれないけど、何もお話しするつもりはありません」
「そうか」
斎藤はたいして大事ではないといった返事をした。
確かに土方は情報を欲しがるのだろうが。
「それでも私……どうしても、変えたい未来があって……」
その事を考えると胸が、目頭が熱くなってくる。
「今……どなたも周りにいませんか」
「……大丈夫だ」
誰かに聞かれては困る。辺りに気配が無いか確認したかった。
夢主の様子がおかしい。斎藤も気を探って慎重に答えた。
「……沖田さんの事なんです」
下を向いて小さく呟いた。
とても暗い声、斎藤は緊張して目を細めた。
怒りも悔しさも全て吐き出せばいいと、ただ待っていた。
「……気は済んだか」
やがて夢主が静まると落ち着いた調子で訊き、顔を下げて苦しむ姿を見つめた。
「……すまんな」
「どうして斎藤さんが謝るの……」
夢主の感情的な主張に、斎藤はただ謝った。
睨むように僅かに顔を上げる夢主、堪えられない怒りと女としての悲しさが涙となり浮かんでいた。
涙を流さぬよう必死に堪えているのが見て取れる。
「お前のいた世と大分違うのだろう。力になれず……すまなかった。だが沖田君みたいに誠実な男もいる。原田さんも女好きだが、女に誠意を示すお方だ。色香に惑う者もいれば、男にも色々いるさ」
夢主は黙っている。
ここに来てからの出来事を思い返して悔しさと恐怖がよぎり、肩が俄かに震え始めた。
「安心しろ、お前が嫌がることはしない」
斎藤はフッと表情を和らげて告げた。
すると、そのたった一言で夢主の震えは治まった。体の力が抜けたように、顔からも怒りや恐れが消えていく。
「……どうしてお前は、そんなに……俺を信用する」
夢主はそっと顔を上げた。
「俺の気のせいか。お前、俺にやけに気を許していまいか。俺はあまり第一印象の良い男ではないぞ」
理由など無かった。
「だって……斎藤さんだから……」
突拍子も無い返事に斎藤は苦笑した。
「フッ、そいつは思いもしない答えだな。何を見聞きしたかは知らんが俺はそんな出来た男ではない。江戸で旗本を切って逃げてきた男だ。恩赦をいい事に浪士組に入り、思う存分人が斬れると喜んでいるような男だぜ」
にやりと顔を歪めて語った。
だが夢主は気の抜けた呆けた目で斎藤を見上げている。
「それでも……斎藤さんだから……」
斎藤は夢主の様子を見て、畏まる必要が無くなったと姿勢を崩した。
胡坐で乱れても裾から足を覗かせないのが斎藤らしい。
「まぁ、慕ってくれて悪い気はしないがな。その調子で変な男にほいほいついて行くなよ。色々と知っているのかも知れんが、お前の想像と違う奴もいるだろうよ。悪いがいちいち助けてはやれんぞ」
「はぃ」
そこは素直に返事をする。
斎藤は真っ直ぐに己の正義を貫く男だと、夢主は信じていた。
だから信じているとは、上手く言葉に出来なかった。
「お前は我慢するのは上手いが、吐き出すのは苦手のようだ。溜め込むなよ、壊れてしまっては元も子もない」
黙って頷いた。
何かを諭される幼子のように大人しく座っている。
「斎藤さん……」
夢主はここに来てから、誰かにずっと伝えたい事があった。
斎藤の言葉に促されるように、抱えていたものを話し始めた。
「前に……私の言葉や行動一つで歴史が変わってしまうかもしれないって……言いましたよね……」
「あぁ」
「私、先の世の事を聞かれても、話しちゃいけないって思ってたんです。土方さんは情報を欲しがるかもしれないけど、何もお話しするつもりはありません」
「そうか」
斎藤はたいして大事ではないといった返事をした。
確かに土方は情報を欲しがるのだろうが。
「それでも私……どうしても、変えたい未来があって……」
その事を考えると胸が、目頭が熱くなってくる。
「今……どなたも周りにいませんか」
「……大丈夫だ」
誰かに聞かれては困る。辺りに気配が無いか確認したかった。
夢主の様子がおかしい。斎藤も気を探って慎重に答えた。
「……沖田さんの事なんです」
下を向いて小さく呟いた。
とても暗い声、斎藤は緊張して目を細めた。