74.其々の退けぬ夜
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「今宵は一番欲しかったものが手に入った。いや、まだ手に入っちゃあいないが……一番の望みが叶ったには違いない。抜刀斎、あれはいいな、最高だぜ」
「抜刀斎……じゃぁ剣心と……」
斎藤はついに剣心と京の闇の中で遭遇したのだ。
夢主はそれで斎藤の様子がおかしいのだと理解した。
異様に昂ぶり熱い瞳を抱えているのは、長く待ち望んだ対戦が叶ったから。激しい剣戟に心の底から震えたに違いない。体中の血が滾ったのだろう。
そしてまだ、満足していないのだ。
決着はつかないまま明治を迎えるのだから……
夢主は平時とは違う斎藤の顔つきを眺めながら考えていた。
……剣心、だと……
斎藤は夢主のたった一言が引っかかっていた。
剣心とは緋村抜刀斎のことか……
眉をひそめて夢主に近付いていく。
「望みが叶ったんだ。このまま……もうひとつ、欲しい物も手に入れてやろうか……」
そう言うと斎藤は何かを捜す獣の様な瞳で、苛立ちとも怒りとも言える感情を抱き、ゆっくりと夢主の上に覆いかぶさった。
「ゃ……斎藤さん……」
夢主の両手を抑える斎藤だが、すぐに左手を離すと夢主の衿に手を掛けた。
着物を緩めようというのだ。
「やっ!」
…………パン!!
乾いた音が響いた。
夢主が開放された手で斎藤の頬を叩いたのだ。
突然だった。
斎藤が夢主に馬乗りになったのも、夢主が斎藤を叩いたことも、突然だった。
叩かれた反動のままに顔を背けた斎藤だが、赤らんだ場所に手を添えると静かに、怖ろしいまでにゆっくりと顔を戻した。夢主を目で捉える。
この時代、女が男を叩くというのはどれ程のことなのか。
それもただの女が士の……新選組幹部の男を……斎藤を……叩いた手は微かに震えていた。
それでも夢主は怯まなかった。
「い、池田屋の時もそうですっ!斎藤さん、すぐ血の匂いに引きずられてっ!!ご自分を見失わないでください!新選組の……三番隊の組長ともあろうお方がっ」
「ククッ……幹部としての働きは存分に果たしていると思うんだがな、女に関しては不貞でも犯さぬ限りどうこう言われはせんさ」
さぁ、どうしてやろうか、とばかりに陰惨な笑みを故意に向けると、夢主は恥ずかしそうに困った様子で、それでも怯まない。
夢主の視線に斎藤はフッと鼻をならした。
その音に反応するように小さな体がビクリと跳ねた。
「まぁいい、悪いが出てくるぜ」
「ぇっ……」
ふぅっと一息吐くと斎藤は上体を起こした。
「沖田君がいないのは幸いだったな、いたら俺は殺されていたかもしれんな、フンッ」
お前を押し倒して……な、と眉を動かして笑うと斎藤はやおら立ち上がった。
斎藤が女の人を求めに行ってしまうのか……
夢主は斎藤の着物を掴みたかったが、伸ばした手は何も出来なかった。
自分には斎藤の昂ぶりを抑えられないのだから、いつかみたいに、耐えるしかない。
斎藤は後ろ髪を惹かれるように振り返るが、部屋を後にした。
障子戸が閉まり見えなくなるまで、流し目に夢主を捉えて離さなかった。
斎藤が去って初めて、夢主は自分の中に熱く疼くものがあると気が付いた。
あの僅かな一時に斎藤を感じてしまったのか、何かを期待してしまったのか。思うと自分が恥ずかしく、顔が火照ってしまう。
斎藤の表情や言葉を思い出して布団の上に呆然と座っていると、誰かがやって来る物音がして、それは部屋の前で止まった。
「抜刀斎……じゃぁ剣心と……」
斎藤はついに剣心と京の闇の中で遭遇したのだ。
夢主はそれで斎藤の様子がおかしいのだと理解した。
異様に昂ぶり熱い瞳を抱えているのは、長く待ち望んだ対戦が叶ったから。激しい剣戟に心の底から震えたに違いない。体中の血が滾ったのだろう。
そしてまだ、満足していないのだ。
決着はつかないまま明治を迎えるのだから……
夢主は平時とは違う斎藤の顔つきを眺めながら考えていた。
……剣心、だと……
斎藤は夢主のたった一言が引っかかっていた。
剣心とは緋村抜刀斎のことか……
眉をひそめて夢主に近付いていく。
「望みが叶ったんだ。このまま……もうひとつ、欲しい物も手に入れてやろうか……」
そう言うと斎藤は何かを捜す獣の様な瞳で、苛立ちとも怒りとも言える感情を抱き、ゆっくりと夢主の上に覆いかぶさった。
「ゃ……斎藤さん……」
夢主の両手を抑える斎藤だが、すぐに左手を離すと夢主の衿に手を掛けた。
着物を緩めようというのだ。
「やっ!」
…………パン!!
乾いた音が響いた。
夢主が開放された手で斎藤の頬を叩いたのだ。
突然だった。
斎藤が夢主に馬乗りになったのも、夢主が斎藤を叩いたことも、突然だった。
叩かれた反動のままに顔を背けた斎藤だが、赤らんだ場所に手を添えると静かに、怖ろしいまでにゆっくりと顔を戻した。夢主を目で捉える。
この時代、女が男を叩くというのはどれ程のことなのか。
それもただの女が士の……新選組幹部の男を……斎藤を……叩いた手は微かに震えていた。
それでも夢主は怯まなかった。
「い、池田屋の時もそうですっ!斎藤さん、すぐ血の匂いに引きずられてっ!!ご自分を見失わないでください!新選組の……三番隊の組長ともあろうお方がっ」
「ククッ……幹部としての働きは存分に果たしていると思うんだがな、女に関しては不貞でも犯さぬ限りどうこう言われはせんさ」
さぁ、どうしてやろうか、とばかりに陰惨な笑みを故意に向けると、夢主は恥ずかしそうに困った様子で、それでも怯まない。
夢主の視線に斎藤はフッと鼻をならした。
その音に反応するように小さな体がビクリと跳ねた。
「まぁいい、悪いが出てくるぜ」
「ぇっ……」
ふぅっと一息吐くと斎藤は上体を起こした。
「沖田君がいないのは幸いだったな、いたら俺は殺されていたかもしれんな、フンッ」
お前を押し倒して……な、と眉を動かして笑うと斎藤はやおら立ち上がった。
斎藤が女の人を求めに行ってしまうのか……
夢主は斎藤の着物を掴みたかったが、伸ばした手は何も出来なかった。
自分には斎藤の昂ぶりを抑えられないのだから、いつかみたいに、耐えるしかない。
斎藤は後ろ髪を惹かれるように振り返るが、部屋を後にした。
障子戸が閉まり見えなくなるまで、流し目に夢主を捉えて離さなかった。
斎藤が去って初めて、夢主は自分の中に熱く疼くものがあると気が付いた。
あの僅かな一時に斎藤を感じてしまったのか、何かを期待してしまったのか。思うと自分が恥ずかしく、顔が火照ってしまう。
斎藤の表情や言葉を思い出して布団の上に呆然と座っていると、誰かがやって来る物音がして、それは部屋の前で止まった。