74.其々の退けぬ夜
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京の町では日が暮れて、斎藤が巡察に向かう時が訪れた。
しゅっと短い音を立てて勢いよく総髪を解いて、きつく結び直した。
斎藤の鋭い顔立ちが、より吊り上がって見える。
いつもの大小の刀を腰に力強く差すと少しの間、そのまま視線を動かさなかった。
斎藤であっても思うことはあるのだろう。
「行ってくる……寝ていろよ」
「はい……お気をつけて……」
静かに応えて夢主は斎藤を見送った。
いつもと違う緊張感を帯びた夜。
山南のことだけではない、この夜は何か予感があったのかもしれない。
どこまでも晴れ渡った空に、大きな満月が浮かぶこの夜。
斎藤に待ちに待った時が訪れようとしていた。
この夜の巡察で、京に潜む不貞浪士達の発見に至った。
浅葱色の羽織を見て逃げ出した不貞浪士達を、新選組隊士達は懸命に追いかけた。
誠の隊旗を手に浪士達を追い詰めていく隊士達。
踏み入ろうとした路地の中から、彼らの前にある男が姿を現した。
ずっと話に聞くばかりで誰もその姿を目にしていなかった男、斎藤だけが池田屋帰り視界に入れた男。
喊声を上げて浪士達を追っていた、だんだら羽織の男達の足が一斉に止まった。
風を受けて広がっていた浅黄色の隊服が一斉に萎んでいく。
男は路地の暗がりから出て月明かりにその姿を全て晒すと、隊士達を見据え口を開いた。
「……退け、退けば命は助ける」
「あ……赤い髪に左頬の十字傷!!まさか……」
……人斬り抜刀斎!!!……
足を止めた全ての隊士達が心中でそう叫んでいた。
目の前に現れた男を抜刀斎だとは認めたくなかった。何故なら、それは己の死を意味するからだ。
正体不明、迅速かつ確実に人を斬る男、人斬り抜刀斎。
敵前逃亡は士道不覚悟、だがその抜刀斎を前に隊士達は動けなくなった。
「退かねば……」
抜刀斎こと緋村は、既に左手を鍔にかけ、得意の抜刀術をいつでも発動できるよう体勢を整えている。
それでも退けと促すのは、そう……巴との一件があってから殺めずにすむ命は出来れば奪いたくない……そんな想いが生まれたから。
手向かえば斬らざるを得ない。
出来れば退いてくれと、叶うはずのない望みを込めて、相対する敵に話し掛けていた。
そんな緋村の願いを余所に、怯む平隊士達の後ろから長身の男が、愉しげに刀を抜きながら姿を現した。
隊士達を分けて進み現れたのは、緋村も顔の認識がある新選組幹部、三番隊組長、斎藤一。
満月の光を受け黄金色に輝く瞳で緋村をしっかり捉えている。
「只者じゃないと睨んではいたが……やはりな……」
……この時を、待っていたぞ……
そう語るように口元を歪める斎藤、この瞬間、頭の中から目の前の抜刀斎以外の全ての事象が消え失せた。
斎藤が抜刀斎に切っ先を向け牙突の構えを見せると、抜刀斎は左手で鯉口を切り、斎藤が突進を開始した刹那に抜刀した。
斎藤一と緋村抜刀斎が初めて剣を交えた夜になった。
しゅっと短い音を立てて勢いよく総髪を解いて、きつく結び直した。
斎藤の鋭い顔立ちが、より吊り上がって見える。
いつもの大小の刀を腰に力強く差すと少しの間、そのまま視線を動かさなかった。
斎藤であっても思うことはあるのだろう。
「行ってくる……寝ていろよ」
「はい……お気をつけて……」
静かに応えて夢主は斎藤を見送った。
いつもと違う緊張感を帯びた夜。
山南のことだけではない、この夜は何か予感があったのかもしれない。
どこまでも晴れ渡った空に、大きな満月が浮かぶこの夜。
斎藤に待ちに待った時が訪れようとしていた。
この夜の巡察で、京に潜む不貞浪士達の発見に至った。
浅葱色の羽織を見て逃げ出した不貞浪士達を、新選組隊士達は懸命に追いかけた。
誠の隊旗を手に浪士達を追い詰めていく隊士達。
踏み入ろうとした路地の中から、彼らの前にある男が姿を現した。
ずっと話に聞くばかりで誰もその姿を目にしていなかった男、斎藤だけが池田屋帰り視界に入れた男。
喊声を上げて浪士達を追っていた、だんだら羽織の男達の足が一斉に止まった。
風を受けて広がっていた浅黄色の隊服が一斉に萎んでいく。
男は路地の暗がりから出て月明かりにその姿を全て晒すと、隊士達を見据え口を開いた。
「……退け、退けば命は助ける」
「あ……赤い髪に左頬の十字傷!!まさか……」
……人斬り抜刀斎!!!……
足を止めた全ての隊士達が心中でそう叫んでいた。
目の前に現れた男を抜刀斎だとは認めたくなかった。何故なら、それは己の死を意味するからだ。
正体不明、迅速かつ確実に人を斬る男、人斬り抜刀斎。
敵前逃亡は士道不覚悟、だがその抜刀斎を前に隊士達は動けなくなった。
「退かねば……」
抜刀斎こと緋村は、既に左手を鍔にかけ、得意の抜刀術をいつでも発動できるよう体勢を整えている。
それでも退けと促すのは、そう……巴との一件があってから殺めずにすむ命は出来れば奪いたくない……そんな想いが生まれたから。
手向かえば斬らざるを得ない。
出来れば退いてくれと、叶うはずのない望みを込めて、相対する敵に話し掛けていた。
そんな緋村の願いを余所に、怯む平隊士達の後ろから長身の男が、愉しげに刀を抜きながら姿を現した。
隊士達を分けて進み現れたのは、緋村も顔の認識がある新選組幹部、三番隊組長、斎藤一。
満月の光を受け黄金色に輝く瞳で緋村をしっかり捉えている。
「只者じゃないと睨んではいたが……やはりな……」
……この時を、待っていたぞ……
そう語るように口元を歪める斎藤、この瞬間、頭の中から目の前の抜刀斎以外の全ての事象が消え失せた。
斎藤が抜刀斎に切っ先を向け牙突の構えを見せると、抜刀斎は左手で鯉口を切り、斎藤が突進を開始した刹那に抜刀した。
斎藤一と緋村抜刀斎が初めて剣を交えた夜になった。