74.其々の退けぬ夜
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やがて夕餉を終え、布団を広げ着替えも済ませた。
あとは灯りを消して眠るばかりの時。
灯りを消したくない沖田は布団に足だけを入れ、冷えた指先を温めている。
「沖田君……貴方は今、何の為に生きていますか」
灯りを消したくないのは山南も同じで、流れる時を惜しむように口を開いた。
沖田に伝えておきたいことがあった。
「それは近藤さんや土方さんの力になりたくて……」
「確かにそれも剣を振るう理由の一つでしょう。でも、それは今でも本心ですか、全てなのでしょうか」
山南は考える時間を与えるように、間を取った。
沖田は口を開けたまま顔を下げ、想いを巡らせている。
「何かを見つけたのではありませんか。生きたい理由を」
「僕の……生きたい理由……」
沖田が顔を上げると山南は微笑んで頷いた。
「そう貴方は、もう誰かの後を追いかけるだけの子供ではない筈です」
「確かに僕はずっと近藤さんや土方さんの後を追いかけてきました。でも大人になって、今は自分の意思で力になろうと……」
「お優しいですね、沖田君は」
ふふっと笑みを漏らすと続けて太い息を吐いた。
「好きな人達の力になろうと無心に、ひたすらに……私には出来ない生き方です」
「山南さん……」
「私は新選組が好きでした。皆さんのことも。もうお役に立てないというのなら、最期くらいは何らかの役に立ちましょう」
「役に……」
言葉の真意を掴めず眉を寄せる沖田に、山南は頷いて見せた。
「新選組の糧となりましょう」
「糧っ」
ますます掴めない意図に困惑の声をあげた。
「何を言ってるんですか、糧だなんて、山南さんにはまだ新選組で出来ることが、すべきことが沢山あるでしょう!!」
「いいんです、もう。終わらせてください。私に出来ることはもうありません。生きたい理由も……もうないんです」
穏やかな顔立ちで見つめているが、揺るがない強い意思を持った瞳をしている。
疲れ果ててしまった山南の悲しい決意が籠っていた。
「僕……確かに生きたい理由が……夢が出来たんです……」
「夢……」
山南の聞き返しに、悲しげな笑顔で頷く沖田。
生きる道を選んでくれない山南に、自らの夢を語り始めた。
「誰にも、土方さんにも、夢主ちゃんにも話していない夢なんです。一つはもちろん、夢主ちゃんの傍にずっといること、それからもう一つは…………」
沖田は俯き、ゆっくりと穏やかに、密かに温めている夢について語った。
いつ思い付いたのか、実現する為にこっそり頑張っていること、夢が叶った時に知らせた皆の驚く顔を想像する楽しさ。
沖田は暫し哀しみを忘れ熱く語った。
話を聞き終えると、山南は驚きで目を開き、しかし満面の笑みを見せた。
「素晴らしい夢ですね。優しいあなたにぴったりの夢だ」
「ありがとうございます」
大好きな山南に褒めてもらい、嬉しくて堪らない。沖田の顔がにやけている。
「ただその実現には少し……屯所での鬼の沖田は静めなくてはならないでしょうね」
「ははっ、鬼と呼ばれないよう努めます」
沖田は照れくさそうに頭を掻いた。
「貴方の夢が叶う頃にはきっと時代が変わり、求められるものも変わっている筈です」
「そうですね……きっと、叶えてみせます!」
優しい笑顔で頷いてくれる山南を見て、その新しい時代に生きることを何故拒絶するのか、沖田は哀しみを思い出した。
「だから……その時に山南さんにもいて欲しいんだ……」
「沖田君……」
「僕は貴方のことが……大好きです……大好きだ……大好きだ!!山南さん、僕は貴方が大好きだっ!!死んじゃ駄目です!!」
それから大好きだと繰り返し続け、山南にしがみついて心変わりを願い泣き崩れた。
「沖田君……ありがとう」
山南は泣き崩れる沖田の背に、ただ一言応えた。
このまま、大津の夜は更けていった。
行灯の油が尽きるまで火は燃え、ようやく部屋の明かりは消えた。
あとは灯りを消して眠るばかりの時。
灯りを消したくない沖田は布団に足だけを入れ、冷えた指先を温めている。
「沖田君……貴方は今、何の為に生きていますか」
灯りを消したくないのは山南も同じで、流れる時を惜しむように口を開いた。
沖田に伝えておきたいことがあった。
「それは近藤さんや土方さんの力になりたくて……」
「確かにそれも剣を振るう理由の一つでしょう。でも、それは今でも本心ですか、全てなのでしょうか」
山南は考える時間を与えるように、間を取った。
沖田は口を開けたまま顔を下げ、想いを巡らせている。
「何かを見つけたのではありませんか。生きたい理由を」
「僕の……生きたい理由……」
沖田が顔を上げると山南は微笑んで頷いた。
「そう貴方は、もう誰かの後を追いかけるだけの子供ではない筈です」
「確かに僕はずっと近藤さんや土方さんの後を追いかけてきました。でも大人になって、今は自分の意思で力になろうと……」
「お優しいですね、沖田君は」
ふふっと笑みを漏らすと続けて太い息を吐いた。
「好きな人達の力になろうと無心に、ひたすらに……私には出来ない生き方です」
「山南さん……」
「私は新選組が好きでした。皆さんのことも。もうお役に立てないというのなら、最期くらいは何らかの役に立ちましょう」
「役に……」
言葉の真意を掴めず眉を寄せる沖田に、山南は頷いて見せた。
「新選組の糧となりましょう」
「糧っ」
ますます掴めない意図に困惑の声をあげた。
「何を言ってるんですか、糧だなんて、山南さんにはまだ新選組で出来ることが、すべきことが沢山あるでしょう!!」
「いいんです、もう。終わらせてください。私に出来ることはもうありません。生きたい理由も……もうないんです」
穏やかな顔立ちで見つめているが、揺るがない強い意思を持った瞳をしている。
疲れ果ててしまった山南の悲しい決意が籠っていた。
「僕……確かに生きたい理由が……夢が出来たんです……」
「夢……」
山南の聞き返しに、悲しげな笑顔で頷く沖田。
生きる道を選んでくれない山南に、自らの夢を語り始めた。
「誰にも、土方さんにも、夢主ちゃんにも話していない夢なんです。一つはもちろん、夢主ちゃんの傍にずっといること、それからもう一つは…………」
沖田は俯き、ゆっくりと穏やかに、密かに温めている夢について語った。
いつ思い付いたのか、実現する為にこっそり頑張っていること、夢が叶った時に知らせた皆の驚く顔を想像する楽しさ。
沖田は暫し哀しみを忘れ熱く語った。
話を聞き終えると、山南は驚きで目を開き、しかし満面の笑みを見せた。
「素晴らしい夢ですね。優しいあなたにぴったりの夢だ」
「ありがとうございます」
大好きな山南に褒めてもらい、嬉しくて堪らない。沖田の顔がにやけている。
「ただその実現には少し……屯所での鬼の沖田は静めなくてはならないでしょうね」
「ははっ、鬼と呼ばれないよう努めます」
沖田は照れくさそうに頭を掻いた。
「貴方の夢が叶う頃にはきっと時代が変わり、求められるものも変わっている筈です」
「そうですね……きっと、叶えてみせます!」
優しい笑顔で頷いてくれる山南を見て、その新しい時代に生きることを何故拒絶するのか、沖田は哀しみを思い出した。
「だから……その時に山南さんにもいて欲しいんだ……」
「沖田君……」
「僕は貴方のことが……大好きです……大好きだ……大好きだ!!山南さん、僕は貴方が大好きだっ!!死んじゃ駄目です!!」
それから大好きだと繰り返し続け、山南にしがみついて心変わりを願い泣き崩れた。
「沖田君……ありがとう」
山南は泣き崩れる沖田の背に、ただ一言応えた。
このまま、大津の夜は更けていった。
行灯の油が尽きるまで火は燃え、ようやく部屋の明かりは消えた。