74.其々の退けぬ夜
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「戻ったぞ」
障子に隙間を作って外を覗いていた夢主の狭い視界に、斎藤が現れた。
中に入れるよう慌てて大きく開き、斎藤が腰を下ろすまで見届けて障子を閉めた。
「沖田さんが出て行かれましたね……」
「あぁ」
「みなさん、わかっているんですよね……きっと……」
「そうだな」
「山南さん……」
「お前も分かっているんだろう、変えられないと」
夢主は少しの間、斎藤を見つめていたが、顔を伏せて沖田が山南について話す時の笑顔を思い出した。
心から慕い、気に掛けていた。
土方が口煩い兄貴なら山南は優しい兄さん……安らかな笑顔で語っていた。
「斎藤さん……どうして沖田さんなんでしょう……どうして……一番慕っていた沖田さんなんでしょう、可愛がってもらっていた……」
「だからだろう、土方さんのせめてもの配慮さ」
「そぅ……なのでしょうか」
「あぁ、そうなんだよ、あの人なりのな」
夢主には分からないが、斎藤達が納得している男達の筋道。
憂えげな面持ちで頷いた。
「今夜、俺はいつも通り巡察に出るが大丈夫か、沖田君もいないからな、不用意に出歩くなよ」
「はい」
もう直ぐ西の空が赤く染まり出す。
沖田は山南を追い東海道を下り、斎藤は闇夜の巡察へ。それぞれの任務を果たすのだ。
勢い勇んで飛び出した沖田だが、馬を走らせるうち、皆と同じ考えが頭をよぎった。
「僕はどうすれば……」
それでも真面目に馬を走らせ、夕山風に背を押されるように一つ目の宿場町、大津宿に辿り着いた。
宿場の通りには今夜の宿を探す人々が行き交っている。
これ以上馬でも街道を進んでも途中で日が暮れてしまう。沖田は馬を止めた。
「こんな近くにいるはずは……僕がここで宿を取れば山南さんは……」
「やぁ、沖田君」
「っ?!」
沖田が馬を降りて、馬を労い太く長い首筋をぽんぽん叩き始めた時、不意に名を呼ばれた。
そこには慕い親しんだ優しい笑顔の山南が座っていた。
まるで京の茶屋で偶然出くわした……それ位の感覚で、微笑んでいた。
「山……南さん……どうしてっ」
「ふふっ、この辺りではないかと思ったんですよ」
「何がですかっ!!どうしてもっと先にっ」
「沖田君、顔の知れた貴方がそう怒鳴るものではありませんよ。大津には京の噂もそれなりに届いているでしょう」
「でもっ!!」
「ここで一晩、宿を頂きましょう。貴方もそのつもりだったのでしょう、沖田君」
山南はすっ、と立ち上がると宿の中へ入って行ってしまった。
沖田は慌てて手綱の始末を考えるが、予め聞かされていたかのように中から宿の者が出て来きて、馬を預かった。
中に入ると山南が足を綺麗に拭きながら、こちらを見ている。
自らの足を清め終えると、笑顔で沖田が足の汚れを落とすのを待った。
沖田は理不尽な怒りと悲しみで足を拭く手がぎこちないが、どれだけ手間取っても山南はただ優しく見守っていた。
障子に隙間を作って外を覗いていた夢主の狭い視界に、斎藤が現れた。
中に入れるよう慌てて大きく開き、斎藤が腰を下ろすまで見届けて障子を閉めた。
「沖田さんが出て行かれましたね……」
「あぁ」
「みなさん、わかっているんですよね……きっと……」
「そうだな」
「山南さん……」
「お前も分かっているんだろう、変えられないと」
夢主は少しの間、斎藤を見つめていたが、顔を伏せて沖田が山南について話す時の笑顔を思い出した。
心から慕い、気に掛けていた。
土方が口煩い兄貴なら山南は優しい兄さん……安らかな笑顔で語っていた。
「斎藤さん……どうして沖田さんなんでしょう……どうして……一番慕っていた沖田さんなんでしょう、可愛がってもらっていた……」
「だからだろう、土方さんのせめてもの配慮さ」
「そぅ……なのでしょうか」
「あぁ、そうなんだよ、あの人なりのな」
夢主には分からないが、斎藤達が納得している男達の筋道。
憂えげな面持ちで頷いた。
「今夜、俺はいつも通り巡察に出るが大丈夫か、沖田君もいないからな、不用意に出歩くなよ」
「はい」
もう直ぐ西の空が赤く染まり出す。
沖田は山南を追い東海道を下り、斎藤は闇夜の巡察へ。それぞれの任務を果たすのだ。
勢い勇んで飛び出した沖田だが、馬を走らせるうち、皆と同じ考えが頭をよぎった。
「僕はどうすれば……」
それでも真面目に馬を走らせ、夕山風に背を押されるように一つ目の宿場町、大津宿に辿り着いた。
宿場の通りには今夜の宿を探す人々が行き交っている。
これ以上馬でも街道を進んでも途中で日が暮れてしまう。沖田は馬を止めた。
「こんな近くにいるはずは……僕がここで宿を取れば山南さんは……」
「やぁ、沖田君」
「っ?!」
沖田が馬を降りて、馬を労い太く長い首筋をぽんぽん叩き始めた時、不意に名を呼ばれた。
そこには慕い親しんだ優しい笑顔の山南が座っていた。
まるで京の茶屋で偶然出くわした……それ位の感覚で、微笑んでいた。
「山……南さん……どうしてっ」
「ふふっ、この辺りではないかと思ったんですよ」
「何がですかっ!!どうしてもっと先にっ」
「沖田君、顔の知れた貴方がそう怒鳴るものではありませんよ。大津には京の噂もそれなりに届いているでしょう」
「でもっ!!」
「ここで一晩、宿を頂きましょう。貴方もそのつもりだったのでしょう、沖田君」
山南はすっ、と立ち上がると宿の中へ入って行ってしまった。
沖田は慌てて手綱の始末を考えるが、予め聞かされていたかのように中から宿の者が出て来きて、馬を預かった。
中に入ると山南が足を綺麗に拭きながら、こちらを見ている。
自らの足を清め終えると、笑顔で沖田が足の汚れを落とすのを待った。
沖田は理不尽な怒りと悲しみで足を拭く手がぎこちないが、どれだけ手間取っても山南はただ優しく見守っていた。