73.籤吉凶

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主人公の女の子

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主人公の女の子

夢主が新しい寝巻に着替え終わると、すぐに鉄之助は戻ってきた。
熱々の湯気が立ちのぼる粥の乗った膳を手にしている。

「えっ、随分早いですね」

「それが……」

鉄之助の頬が少し赤い。
夢主は自分の熱がうつったのではないかと気になった。

「顔が赤いよ……鉄之助君」

「あぁっ、いえこれは……あの、」

何かに戸惑っている鉄之助。
目の前に膳が置かれ、夢主が驚きの声をあげた。

「これはっ……」

「はい、斎藤先生……だと思うんですけれど。勝手元に行ったら頼まれたからと粥が既に用意されていました。それでこれも……」

「斎藤さん……」

鉄之助の顔が赤かったのは、斎藤の気遣いにまたもや頬を染めていたからだ。

「はい。それで弱った体には梅がいいだろうと梅粥に……」

「それで……梅の花……」

「ええっ、斎藤先生だと思いますよ私は」

「そうですね……斎藤さん、意外と素敵なことをなさるから……ふふっ、綺麗なお花……」

微笑んだ夢主が、梅干の入った粥のそばに添えられた梅の花を手に取った。
鉄之助の頬は更に赤く染まる。

……なんて、お二人なんだろう……

斎藤を想い、花に微笑みかける姿。鉄之助は目を逸らした。
あまりに清廉な微笑みに緊張してしまう。夢主と斎藤の関係を想像し、顔が熱くなっていく。
さりげなく顔を逸らして食事を見守った。

斎藤が用意させた粥は梅の酸味が優しく広がり、熱で体力を失った体にじんわり元気と温かさを与えるものだった。

「美味しかった……ありがとうございます。鉄之助君も……お世話してくれて」

「いえ、私は寝ているそばで見ていただけで……一日で熱が引いて良かったです」

そう言って膳を片付けに出ようとする鉄之助に夢主は頼みごとを伝えた。

「分かりました、待っていてくださいね」

「はい、お願いします」

それから暫くの後、またも斎藤が様子を訊ねに沖田の部屋の前までやって来た。
廊下で落ち着かない鉄之助の姿が目に入る。もじもじと外を眺めたり足元に目を落としたりしている。

「おい、どうした」

「斎藤先生!」

姿勢を正して顔を上げる鉄之助、入り口を塞いで立った。

「今、汗を掻かれたからと体を……清められています。斎藤先生でも入ってはいけませんよっ」

話しながら鉄之助の顔がどんどんと赤くなっていた。
斎藤先生ならば入っても構わないのだろうか……
二人のそんな関係を思い描き、顔が熱くなっていったのだ。

「フッ、そうか。終わったら俺を呼びに来い。たらいはそのまま俺に渡せ」

「はい……分かりました……」

たらいを受け取って何をするのか。訝しむが了承した。

夢主の身の清めが終わるのはそう遅くなく、鉄之助は言われた通り斎藤を訪ね、たらいを渡した。

「すまんな」

そう一言礼を述べてたらい受け取り、斎藤は立ち上がると庭に出て新しい水を汲んだ。

夢主の所に行くがお前も来るか。まぁ土方さんの言いつけだ、いなきゃいかんのだろうな」

「えっ」

新しい水を汲み夢主の所に戻るとは、斎藤は何をする気なのか。
鉄之助の心はざわついた。

……一体……何をなさる気なのだろう……私も一緒とは……いいのだろうか……

すっかり赤い顔の鉄之助を横目で笑うと、斎藤は歩き出した。
そしていつもと変わらぬ口調で声を掛けた。

「入るぞ」

「斎藤さん……」
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