72.重ねる望み
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれは……」
飯を握る手を止めて斎藤は夢主を見た。
真剣な眼差しに呼吸が止まりそう、夢主は息を呑んで見つめ返した。
「今も変わらん」
「斎藤さん……」
「戦乱が訪れればどこへ向かうが分からんが、生きていろ。それだけだ」
頼むから生きることだけは諦めるな。
何があろうとも、どこにいようとも、見つけ出してやるから生きていろ。
斎藤の強い意志を感じた。
「はぃ……」
夢主が小さく返事を返すと、斎藤は頷いて自らの手に乗る小さな飯の塊を見た。
大きな手の平に隠れてしまいそうな握り飯。
「小さ過ぎたか」
話しているうちに加減を間違えたのか、握りかけのおにぎりの小ささに気付き、思わず呟いた。
飯釜から一つまみの飯を取ると、手の上の飯の塊に加えた。
夢主の腹の大きさを想像して握っている。
大きな体に似合わない細かな手の動きをしており、繊細な気遣いを見せた。
……何があってもきっと生き延びます……
おにぎりひとつに心砕く斎藤の姿を見て、夢主は得も言われぬ愛おしさを感じた。
「私にも力があれば……」
自分の身を守る力があれば斎藤さんも安心できるのにと、夢主は非力な自分のこれまでを思い、顔を曇らせた。
「お前は強い。夢主、弱くなど無い……辛い思いをして死ぬのは簡単だ。逃げるのも簡単だ。お前はここに来て何度も辛い目に遭いながら、自らの定めから逃げなかった」
「斎藤さん……」
「誰かを斬り、何かを打ち倒す力は俺達が持てば良い力。お前はお前の強さを、俺達には無い力を持っているんだよ」
「斎藤さん達とは違う力……」
斎藤は大きく強く頷くと、再び飯を握る手を動かし始めた。
「お前は強い女だ」
二人のそばでは、飯釜から白い蒸気が立ち昇っていた。
部屋に戻っておにぎりを食べ終えると、残りの酒を静かに呑み、追加の酒も加えて夢主が眠りに落ちるまで、二人の酒は進んだ。
「お前にしては呑んだな……」
すやすやと落ち着いた寝息を立てる夢主を布団に運び、寒くないよう丹前を重ね、寝かせた拍子に乱れた髪を整えてやった。
斎藤は先ほどの勝手場での会話を思い出していた。
お前は強いと告げた時の顔、何かを射抜かれたように目を開いた。
瞳が涙で濡れないよう隠したのには、気付いたぞ。
……お前の望みはないのか……
……私の望み……ですか……でしたら、私をっ……私に……会いにきてください!もし離れ離れになっても、会いに来て下さい。絶対ですよ……
今しがた整えてやったばかりの髪を、指先でさらりとすくった。
艶やかな夢主の髪は斎藤の指からすぐに零れてしまう。
「迎えに来てくれと言いたかったんだろう、我慢しやがって」
……その時たとえ斎藤さんに待つ人がいたとしても……会いに来て下さいねっ!その時は私、きっとおめでとうってお伝えしますから……
耳に残る夢主の言葉。
斎藤は吐息を漏らすように「阿呆……」と呟いた。
眠る夢主の頬を軽く撫でる。酒の火照りが残っているのか、珍しく温かい。
「穏やかな寝顔だな……これからも穏やかに笑え」
寝顔に話しかけ、斎藤はまた一人呑み耽った。
飯を握る手を止めて斎藤は夢主を見た。
真剣な眼差しに呼吸が止まりそう、夢主は息を呑んで見つめ返した。
「今も変わらん」
「斎藤さん……」
「戦乱が訪れればどこへ向かうが分からんが、生きていろ。それだけだ」
頼むから生きることだけは諦めるな。
何があろうとも、どこにいようとも、見つけ出してやるから生きていろ。
斎藤の強い意志を感じた。
「はぃ……」
夢主が小さく返事を返すと、斎藤は頷いて自らの手に乗る小さな飯の塊を見た。
大きな手の平に隠れてしまいそうな握り飯。
「小さ過ぎたか」
話しているうちに加減を間違えたのか、握りかけのおにぎりの小ささに気付き、思わず呟いた。
飯釜から一つまみの飯を取ると、手の上の飯の塊に加えた。
夢主の腹の大きさを想像して握っている。
大きな体に似合わない細かな手の動きをしており、繊細な気遣いを見せた。
……何があってもきっと生き延びます……
おにぎりひとつに心砕く斎藤の姿を見て、夢主は得も言われぬ愛おしさを感じた。
「私にも力があれば……」
自分の身を守る力があれば斎藤さんも安心できるのにと、夢主は非力な自分のこれまでを思い、顔を曇らせた。
「お前は強い。夢主、弱くなど無い……辛い思いをして死ぬのは簡単だ。逃げるのも簡単だ。お前はここに来て何度も辛い目に遭いながら、自らの定めから逃げなかった」
「斎藤さん……」
「誰かを斬り、何かを打ち倒す力は俺達が持てば良い力。お前はお前の強さを、俺達には無い力を持っているんだよ」
「斎藤さん達とは違う力……」
斎藤は大きく強く頷くと、再び飯を握る手を動かし始めた。
「お前は強い女だ」
二人のそばでは、飯釜から白い蒸気が立ち昇っていた。
部屋に戻っておにぎりを食べ終えると、残りの酒を静かに呑み、追加の酒も加えて夢主が眠りに落ちるまで、二人の酒は進んだ。
「お前にしては呑んだな……」
すやすやと落ち着いた寝息を立てる夢主を布団に運び、寒くないよう丹前を重ね、寝かせた拍子に乱れた髪を整えてやった。
斎藤は先ほどの勝手場での会話を思い出していた。
お前は強いと告げた時の顔、何かを射抜かれたように目を開いた。
瞳が涙で濡れないよう隠したのには、気付いたぞ。
……お前の望みはないのか……
……私の望み……ですか……でしたら、私をっ……私に……会いにきてください!もし離れ離れになっても、会いに来て下さい。絶対ですよ……
今しがた整えてやったばかりの髪を、指先でさらりとすくった。
艶やかな夢主の髪は斎藤の指からすぐに零れてしまう。
「迎えに来てくれと言いたかったんだろう、我慢しやがって」
……その時たとえ斎藤さんに待つ人がいたとしても……会いに来て下さいねっ!その時は私、きっとおめでとうってお伝えしますから……
耳に残る夢主の言葉。
斎藤は吐息を漏らすように「阿呆……」と呟いた。
眠る夢主の頬を軽く撫でる。酒の火照りが残っているのか、珍しく温かい。
「穏やかな寝顔だな……これからも穏やかに笑え」
寝顔に話しかけ、斎藤はまた一人呑み耽った。