72.重ねる望み
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部屋に戻ると、残された酒はすっかり冷えていた。
「籤」
「えっ」
「籤など引かずとも今年も面白い年に決まっている」
「……」
自信たっぷりに述べる斎藤に、夢主はぽかんと口を開けた。
「……ふふっ、斎藤さんてば」
「何だ、そうだろう」
「そうですね、斎藤さんはいつだって面白く生きられるお人なんです」
「お前は違うのか」
さぁ……夢主は大きく首を傾げておどけて見せた。
自分でも想像がつかないのだから仕方が無い。
ただ、この屯所で皆と過ごす時はとても楽しいものに違いなかった。
「お酒……冷えて丁度いいですね。呑んじゃいましょう」
「あぁ」
銚子に当てられた手拭いを外すと、手に陶器の冷たさが伝わって来る。
出て行く前のあの熱さが嘘のようだ。
「本当はお祝いの品を何か用意出来たらなって思ったんです」
夢主は猪口に目を落とし斎藤に酒を注いだ。
「そんなもの」
「ふふっ、そう仰ると思いました。お花も考えたんですけど……またおにぎり作ろうかなって思ったんです」
「握り飯か。いいな、腹も減ってきた」
「今から作ってきましょうか」
「うむ…………一緒に行くか」
考えるように一呼吸置き、ニッとして手にある酒を一気に流し込んだ。
「お前も祝われる立場だ、互いに作るってのでどうだ」
「わぁ……是非っ」
自らの提案に花笑みを見せる夢主に、斎藤も満足げにフフンと笑んだ。
「丁度いい、酒の追加も持って戻るぞ」
「ふふっ、そうですね」
久しぶりに斎藤と二人で勝手場に入るのが嬉しく、夢主はいそいそと部屋の障子戸を開けた。
勝手場に入って飯釜の蓋を開け、早速二人でそれぞれのおにぎりを握り始めると、斎藤は手の上で小さめの白飯の塊を動かしながら口を開いた。
「贈り物などいらんが、一つ願いを聞いてくれると言うなら伝えておこうか」
「えっ……願い事、斎藤さんが」
斎藤が望みを口にするなど初めてではないか。
思いもかけぬ言葉に夢主が顔を上げると、横目で見る斎藤と一瞬だけ目が合った。
相変わらず手を動かす斎藤は一つ目のおにぎりを完成させ、二つ目に取り掛かっていた。
「前にも伝えたが改めてだ。覚えているか、お前に一つだけ望むことだ」
「私に……なんですか、何でも……言ってください」
斎藤が以前にも望んだこと……思い出せずに緊張が高まる。
夢主は手を止めて続く言葉を待った。胸の鼓動が速まっていく。反して斎藤の手は次第にゆっくりと動きを遅めていった。
「俺の与り知らぬ所で、死ぬな」
「えっ」
斎藤は視線を落としたまま僅かに手を動かしている。
「それだけだ、死ぬな。生きてさえいれば必ず見つけ出す、そう伝えたことがあったな」
「は……はぃ」
以前、必ず見つけ出すからどこにいても、何が起ころうが生きて待っていろと、斎藤に告げられた言葉をはっきりと思い出した。
「籤」
「えっ」
「籤など引かずとも今年も面白い年に決まっている」
「……」
自信たっぷりに述べる斎藤に、夢主はぽかんと口を開けた。
「……ふふっ、斎藤さんてば」
「何だ、そうだろう」
「そうですね、斎藤さんはいつだって面白く生きられるお人なんです」
「お前は違うのか」
さぁ……夢主は大きく首を傾げておどけて見せた。
自分でも想像がつかないのだから仕方が無い。
ただ、この屯所で皆と過ごす時はとても楽しいものに違いなかった。
「お酒……冷えて丁度いいですね。呑んじゃいましょう」
「あぁ」
銚子に当てられた手拭いを外すと、手に陶器の冷たさが伝わって来る。
出て行く前のあの熱さが嘘のようだ。
「本当はお祝いの品を何か用意出来たらなって思ったんです」
夢主は猪口に目を落とし斎藤に酒を注いだ。
「そんなもの」
「ふふっ、そう仰ると思いました。お花も考えたんですけど……またおにぎり作ろうかなって思ったんです」
「握り飯か。いいな、腹も減ってきた」
「今から作ってきましょうか」
「うむ…………一緒に行くか」
考えるように一呼吸置き、ニッとして手にある酒を一気に流し込んだ。
「お前も祝われる立場だ、互いに作るってのでどうだ」
「わぁ……是非っ」
自らの提案に花笑みを見せる夢主に、斎藤も満足げにフフンと笑んだ。
「丁度いい、酒の追加も持って戻るぞ」
「ふふっ、そうですね」
久しぶりに斎藤と二人で勝手場に入るのが嬉しく、夢主はいそいそと部屋の障子戸を開けた。
勝手場に入って飯釜の蓋を開け、早速二人でそれぞれのおにぎりを握り始めると、斎藤は手の上で小さめの白飯の塊を動かしながら口を開いた。
「贈り物などいらんが、一つ願いを聞いてくれると言うなら伝えておこうか」
「えっ……願い事、斎藤さんが」
斎藤が望みを口にするなど初めてではないか。
思いもかけぬ言葉に夢主が顔を上げると、横目で見る斎藤と一瞬だけ目が合った。
相変わらず手を動かす斎藤は一つ目のおにぎりを完成させ、二つ目に取り掛かっていた。
「前にも伝えたが改めてだ。覚えているか、お前に一つだけ望むことだ」
「私に……なんですか、何でも……言ってください」
斎藤が以前にも望んだこと……思い出せずに緊張が高まる。
夢主は手を止めて続く言葉を待った。胸の鼓動が速まっていく。反して斎藤の手は次第にゆっくりと動きを遅めていった。
「俺の与り知らぬ所で、死ぬな」
「えっ」
斎藤は視線を落としたまま僅かに手を動かしている。
「それだけだ、死ぬな。生きてさえいれば必ず見つけ出す、そう伝えたことがあったな」
「は……はぃ」
以前、必ず見つけ出すからどこにいても、何が起ころうが生きて待っていろと、斎藤に告げられた言葉をはっきりと思い出した。