72.重ねる望み
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その頃、山南の部屋ではもう一つの酒席が設けられていた。
伊東が訪れて今後の行く道を話し合っている。
「どうしても目が離せないのが長州と、何より薩摩でしょう」
「薩摩。……確かに薩摩は私も気になる所です」
伊東の潜めた声に山南が頷いた。
山南は白い着物に綿入りの上着を羽織って座っていた。
すっかり色白くなった顔が、本当の病の様に見せている。
「薩摩も今はまだ舵取りを変えたりはしないはずよ。それでも、このまま終わるつもりが無いのも確か」
伊東は自分の考えを述べて、山南の存意を引き出そうとしていた。
「確かに……実権を手にしたがっている、そんな噂を聞きますね。あれ程の力と政治力のある藩です、確かに、この動乱の時代に黙っているはずがないでしょう」
「えぇ、今はあの西郷の力でどうにか纏っているようだけれども、逆に言ってしまえば彼の旗振り次第でどう転ぶかは分からないわ」
山南はまたも静かに頷いた。
「薩摩を今すぐどうこうは出来ないけれど、私は薩摩に近付いてみるつもりよ」
「伊東さん……それは本気ですか」
伊東が隠さす本心を告げると、山南は驚いて目を見開いた。
「えぇ、私は本気よ。今こんな話を出来るのは絶対の信頼が置けるあなただけなのよ」
「伊東さん……」
「だから、貴方にも是非協力してもらいたいのよ。私はまだここに入って間もないから、隊の設立の時より頭に立つ貴方の信用が必要なのよ」
「頭だなんて……局長は近藤さん、そしてその実権は今や副長の土方さんが一人で握っています」
そう言うと山南は正座する膝の上に置かれた両拳に目を落とした。
この手に掴んでいる力など何も無いと、そう思っていた。
「嫌だわ、貴方だって列記とした新選組の幹部なのよ。自信を持って。薩摩は私が少しずつ働きかけるから、貴方にして欲しいのは他のことよ」
「他のこと……ですか」
「えぇ」
ニヤリと薄く口を開くと、伊東は扇子を口元に当てて山南に近付き、耳打ちをした。
「長州っ!」
「しぃっ……山南さん、お声が大きいですわ」
耳打ちに対して声を荒げた山南を伊東がたしなめた。
「長州は今や過激派の好き放題……ですけど、その長州を立て直し、あの爆発的な力を纏められるのが、桂小五郎よ」
「桂さん……確かにあのお方だけは過激派浪士達と一線を置いているようですね」
「そうよ、その通りなの。だから隊を代表してあの人と接触して欲しいの」
「私が……ですか」
「えぇ。情報収集はもちろん私が引き受けるわ。あと薩摩の対応もね。山南さん、貴方には是非長州を……桂さんをお頼みしたいわ」
「桂さんを……」
山南は桂という人物を思い返した。
情報は多くないが、情を重んじ乱暴は好まぬと聞いている。頭脳明晰、機転も利くため時に卑怯と後ろ指をさされる行動をも取ると聞く。
「土方さんにそんな柔軟さは見受けられないし、局長はあちらこちらへ顔見せに忙しいのでしょうけど、屯所に戻る素振りも無いじゃない。貴方にしか出来ないのよ、山南さん」
「桂小五郎……確かにあの方とは一度お話する必要があるかもしれません」
「そうよ、山南さん、お任せしたわ」
伊東が微笑むと、山南はゆっくりと頷いた。
心なしか、面立ちに力が戻って見えた。
伊東が訪れて今後の行く道を話し合っている。
「どうしても目が離せないのが長州と、何より薩摩でしょう」
「薩摩。……確かに薩摩は私も気になる所です」
伊東の潜めた声に山南が頷いた。
山南は白い着物に綿入りの上着を羽織って座っていた。
すっかり色白くなった顔が、本当の病の様に見せている。
「薩摩も今はまだ舵取りを変えたりはしないはずよ。それでも、このまま終わるつもりが無いのも確か」
伊東は自分の考えを述べて、山南の存意を引き出そうとしていた。
「確かに……実権を手にしたがっている、そんな噂を聞きますね。あれ程の力と政治力のある藩です、確かに、この動乱の時代に黙っているはずがないでしょう」
「えぇ、今はあの西郷の力でどうにか纏っているようだけれども、逆に言ってしまえば彼の旗振り次第でどう転ぶかは分からないわ」
山南はまたも静かに頷いた。
「薩摩を今すぐどうこうは出来ないけれど、私は薩摩に近付いてみるつもりよ」
「伊東さん……それは本気ですか」
伊東が隠さす本心を告げると、山南は驚いて目を見開いた。
「えぇ、私は本気よ。今こんな話を出来るのは絶対の信頼が置けるあなただけなのよ」
「伊東さん……」
「だから、貴方にも是非協力してもらいたいのよ。私はまだここに入って間もないから、隊の設立の時より頭に立つ貴方の信用が必要なのよ」
「頭だなんて……局長は近藤さん、そしてその実権は今や副長の土方さんが一人で握っています」
そう言うと山南は正座する膝の上に置かれた両拳に目を落とした。
この手に掴んでいる力など何も無いと、そう思っていた。
「嫌だわ、貴方だって列記とした新選組の幹部なのよ。自信を持って。薩摩は私が少しずつ働きかけるから、貴方にして欲しいのは他のことよ」
「他のこと……ですか」
「えぇ」
ニヤリと薄く口を開くと、伊東は扇子を口元に当てて山南に近付き、耳打ちをした。
「長州っ!」
「しぃっ……山南さん、お声が大きいですわ」
耳打ちに対して声を荒げた山南を伊東がたしなめた。
「長州は今や過激派の好き放題……ですけど、その長州を立て直し、あの爆発的な力を纏められるのが、桂小五郎よ」
「桂さん……確かにあのお方だけは過激派浪士達と一線を置いているようですね」
「そうよ、その通りなの。だから隊を代表してあの人と接触して欲しいの」
「私が……ですか」
「えぇ。情報収集はもちろん私が引き受けるわ。あと薩摩の対応もね。山南さん、貴方には是非長州を……桂さんをお頼みしたいわ」
「桂さんを……」
山南は桂という人物を思い返した。
情報は多くないが、情を重んじ乱暴は好まぬと聞いている。頭脳明晰、機転も利くため時に卑怯と後ろ指をさされる行動をも取ると聞く。
「土方さんにそんな柔軟さは見受けられないし、局長はあちらこちらへ顔見せに忙しいのでしょうけど、屯所に戻る素振りも無いじゃない。貴方にしか出来ないのよ、山南さん」
「桂小五郎……確かにあの方とは一度お話する必要があるかもしれません」
「そうよ、山南さん、お任せしたわ」
伊東が微笑むと、山南はゆっくりと頷いた。
心なしか、面立ちに力が戻って見えた。