72.重ねる望み
夢主名前設定
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「理由があって待ってくれているのは、お前なんだろう」
真っ直ぐ前を向いたまま斎藤が訊いた。
空は真っ暗だが、境内には幾つも灯りが並ぶ。
人混みに隙間が出来ると光が洩れて、夢主達のもとへ眩しく届いた。
斎藤の顔は時折、そんな楽しげな灯りに照らされた。
赤い提灯を通した優しい灯りが、顔も体も染めている。
「いつかはわからんが、その時が来るのを……お前は待っているんだな」
肩越しに夢主を見ると、ニッと口角を上げて見せた。
「待つのはお互い様だな」
フッと悪ぶって笑い、斎藤は再び人々を眺めた。
佇む背中を夢主は黙って見つめていた。
……斎藤さんは……本当に私を大切にしてくれているんだ……斎藤さん、ありがとう……
静かに斎藤の背に近付くと、大きな背中に両手を添え、おでこをそっと背中につけた。
夢主も……女も愛しい者に触れたいものだ。
そして触れて欲しいと望んでしまう。
それでも今そうしてしまえば、きっと後戻りは出来ない。
そうなってしまえば、斎藤を失い生きることなど考えられなくなってしまう。
背に寄り添い離れない夢主に驚いた斎藤は、少しだけ首を動かして夢主をたしなめた。
「おいっ、何してる」
「大丈夫です……私小さいから、みなさんからは……見えません……」
小さな声でふふっと笑うと、斎藤の背中に隠れるように寄り添った。
斎藤も引き離すのを諦め、小さなぬくもりを背中に受けて人混みを眺めた。
楽しそうにはしゃぐ沢山の笑い声が、二人の前を通り過ぎていく。
もし斎藤が彼の地で出会う人を選ぶのならば……その時、自分はどうすれば良いのか。
結ばれてしまってからではとても考えられない。
それに……まるで先回りをして、大事な人を奪ってしまうような罪悪感。言われ無き後ろめたさを感じていた。
……もし本当に……斎藤さんが私を選んでくれたなら……
夢主は薄っすらと目を開き、辺りに届く明りを感じていた。
二人から少し離れた所。
京住まいの浪人風の男……浪人にしては小綺麗な男が、壬生寺の雑踏の中をゆっくり歩いていた。
「なんだ……今度の仕事が始まったら奴等とやりあうのは先輩だって聞いたから、今のうちにどんな奴らか拝みに来たら。どいつもこいつも浮かれた腑抜け野郎ばかりじゃねぇか。とんだ見込み違いだぜ」
男にしては白く美しい肌で、背は斎藤よりも低い。
顔を動かさずに周辺視野を使い、辺りを探りながら歩いていた。
周囲にいる男達を馬鹿にしている様子が口元に表れている。薄らとニヤリ歪んだ笑みを浮かべていた。
「大幹部様に至っては女といい感じかよ……たいしたコトねぇな新選組も……」
斎藤とその後に隠れて甘える夢主の姿もしっかりと捉えていた。
目を合わさぬよう顔を前に向けて、そばを通り抜ける。
斎藤は場に浮いた、落ち着いた一人歩きの若い浪人に目を留めたが、通り過ぎた為、黙ってやり過ごした。
若いその男は満足したのか、やがて壬生界隈から姿を消した。
間もなく緋村剣心から裏の人斬り、暗殺家業を引き継ぐ男・志々雄真実。
除夜の鐘の鳴り渡る中、志々雄は一人帰路についた。
真っ直ぐ前を向いたまま斎藤が訊いた。
空は真っ暗だが、境内には幾つも灯りが並ぶ。
人混みに隙間が出来ると光が洩れて、夢主達のもとへ眩しく届いた。
斎藤の顔は時折、そんな楽しげな灯りに照らされた。
赤い提灯を通した優しい灯りが、顔も体も染めている。
「いつかはわからんが、その時が来るのを……お前は待っているんだな」
肩越しに夢主を見ると、ニッと口角を上げて見せた。
「待つのはお互い様だな」
フッと悪ぶって笑い、斎藤は再び人々を眺めた。
佇む背中を夢主は黙って見つめていた。
……斎藤さんは……本当に私を大切にしてくれているんだ……斎藤さん、ありがとう……
静かに斎藤の背に近付くと、大きな背中に両手を添え、おでこをそっと背中につけた。
夢主も……女も愛しい者に触れたいものだ。
そして触れて欲しいと望んでしまう。
それでも今そうしてしまえば、きっと後戻りは出来ない。
そうなってしまえば、斎藤を失い生きることなど考えられなくなってしまう。
背に寄り添い離れない夢主に驚いた斎藤は、少しだけ首を動かして夢主をたしなめた。
「おいっ、何してる」
「大丈夫です……私小さいから、みなさんからは……見えません……」
小さな声でふふっと笑うと、斎藤の背中に隠れるように寄り添った。
斎藤も引き離すのを諦め、小さなぬくもりを背中に受けて人混みを眺めた。
楽しそうにはしゃぐ沢山の笑い声が、二人の前を通り過ぎていく。
もし斎藤が彼の地で出会う人を選ぶのならば……その時、自分はどうすれば良いのか。
結ばれてしまってからではとても考えられない。
それに……まるで先回りをして、大事な人を奪ってしまうような罪悪感。言われ無き後ろめたさを感じていた。
……もし本当に……斎藤さんが私を選んでくれたなら……
夢主は薄っすらと目を開き、辺りに届く明りを感じていた。
二人から少し離れた所。
京住まいの浪人風の男……浪人にしては小綺麗な男が、壬生寺の雑踏の中をゆっくり歩いていた。
「なんだ……今度の仕事が始まったら奴等とやりあうのは先輩だって聞いたから、今のうちにどんな奴らか拝みに来たら。どいつもこいつも浮かれた腑抜け野郎ばかりじゃねぇか。とんだ見込み違いだぜ」
男にしては白く美しい肌で、背は斎藤よりも低い。
顔を動かさずに周辺視野を使い、辺りを探りながら歩いていた。
周囲にいる男達を馬鹿にしている様子が口元に表れている。薄らとニヤリ歪んだ笑みを浮かべていた。
「大幹部様に至っては女といい感じかよ……たいしたコトねぇな新選組も……」
斎藤とその後に隠れて甘える夢主の姿もしっかりと捉えていた。
目を合わさぬよう顔を前に向けて、そばを通り抜ける。
斎藤は場に浮いた、落ち着いた一人歩きの若い浪人に目を留めたが、通り過ぎた為、黙ってやり過ごした。
若いその男は満足したのか、やがて壬生界隈から姿を消した。
間もなく緋村剣心から裏の人斬り、暗殺家業を引き継ぐ男・志々雄真実。
除夜の鐘の鳴り渡る中、志々雄は一人帰路についた。