71.想いはまだ
夢主名前設定
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慣れた手つきで灯をともす斎藤。
ちりっ……
小さな音を立てて火が点ると、長年使い込まれて深みのある色に変わった火袋越しに、温かみある橙色の光が部屋に広がった。
外からは相変わらず喧騒が耳に届く。
しかし障子一枚を隔てるだけで、騒がしさが柔らかく籠もった音に変わる。
たった僅かの遮りが、外の世界と二人を隔てた。この部屋だけが別の世界として存在しているようだ。
ざわざわとした遠くの音をよそに、静かな部屋の中、斎藤の動きに合わせた衣擦れの音だけが幾度か響く。
火を点し終えた斎藤は、ゆっくりと元の場所に腰を下ろした。
黙って斎藤の所作を眺めていた夢主がおもむろに口を開く。
「……斎藤さん、今年も本当にありがとうございました」
「そんなことか」
落ち着いた斎藤はまたすぐに酒を汲んだ。
なんでもない感謝の言葉に内心安堵していた。
「あぁ構わんさ。俺も色々と迷惑を掛けただろう、お互い様さ」
そうですね……
夢主はにこやかに小首を傾げた。
「おい、酔っているのか」
斎藤は揶揄い過ぎて壊れたか、酔いからきているのかと、冗談半分に訊ねた。
小首傾げる夢主は、あまりに綻んだ顔で、目元も口元も細く柔らかな表情をしていた。
今にも溶けてしまいそうな程、にこやかだった。
「いえ……とっても……幸せだなと思って……」
夢主は少し目を伏せるとゆっくりと首を横に振った。
柔らかな面持ちで、ふふっと笑みを漏らす。
伏せた目は畳にうつる行灯の影を眺めている。
「私……今とっても幸せ……」
「夢主……」
やはり酔っているのか……
斎藤は顔を覗いた後、訝しみながら手元の酒を口に流し込んだ。
「私、斎藤さんのおそばにいられて幸せです…………ふふっ……変なこと言っちゃいました」
斎藤は己から顔を背けている夢主の横顔を見つめた。
「あぁ……その通りだ。おかしいぞ……お前」
「ふふっ……」
そうですよね……
目を逸らしたまま夢主は笑って頷いた。
ふっと伏せた目を上げると、機嫌が良く、いつもより穏やかな斎藤の顔が目に映る。
瞳は普段と異なる夢主の様子を気に掛けて、僅かに心配そうに色を変えている。
月明かりが無い閉ざされた部屋の中、灯りに照らされる斎藤の瞳は枯れ茶色の瞳のまま、行灯の火の揺らぎを移していた。
時折、灯りの色に染まり金茶色に輝く。
……綺麗……
斎藤の瞳は月の下ではもちろん、日の光の下でも、薄暗い行灯の灯りの元でさえも美しく輝く。
夢主は吸い込まれるように見惚れていた。
やがて斎藤から行灯に目を移すと、和紙越しの火の揺らめきを目に映した。
「私、こうして一緒に過ごす何気ない時間がとっても好きなんです……楽しくて……」
「そうか」
俺も同じさ……そう告げるように頷いた。
外で新選組の幹部として過ごす激しい時間はとても愉しい時だ。
だがこうした一時も決して悪くはない、そう感じていた。
「斎藤さん、私……斎藤さんのこと……」
ふっと斎藤を見つめると、穏やかだった斎藤の目が、夢主の言葉に呼応するようにいつもの鋭い瞳に戻っていった。
優しさを含んでいるが、目を細めて威嚇しているようにも見える。
「私……」
夢主は突然変わった斎藤の瞳の色に驚くが、言葉を続けようとした。
「斎藤さんの……ことが……」
尖った目で捉えていたが、堪り兼ねたとばかりに斎藤は体を動かし、やにわに夢主の顎に指をかけた。
へっ……と、夢主は驚きで言葉を忘れた。
気付けば目の前に迫る斎藤がいた。
あまりに疾く美しい斎藤の動きに我を忘れて、自分を睨む瞳を見つめ返す。
「その続きを言えば、俺はお前の口を吸うぞ」
「……ぇ……」
……口を吸う……口を付ける……唇を……
「口を重ねるぞ。無論、それだけでは……済むまい。その覚悟はあるのか」
「ぁ……」
夢主は斎藤の言わんとすることを理解して、目を見開いた。
「そういうことを言おうとしたのではないのか、お前の……」
……お前の俺への気持ちを……
斎藤は何かに戸惑うように一度、瞳を逸らした。
ちりっ……
小さな音を立てて火が点ると、長年使い込まれて深みのある色に変わった火袋越しに、温かみある橙色の光が部屋に広がった。
外からは相変わらず喧騒が耳に届く。
しかし障子一枚を隔てるだけで、騒がしさが柔らかく籠もった音に変わる。
たった僅かの遮りが、外の世界と二人を隔てた。この部屋だけが別の世界として存在しているようだ。
ざわざわとした遠くの音をよそに、静かな部屋の中、斎藤の動きに合わせた衣擦れの音だけが幾度か響く。
火を点し終えた斎藤は、ゆっくりと元の場所に腰を下ろした。
黙って斎藤の所作を眺めていた夢主がおもむろに口を開く。
「……斎藤さん、今年も本当にありがとうございました」
「そんなことか」
落ち着いた斎藤はまたすぐに酒を汲んだ。
なんでもない感謝の言葉に内心安堵していた。
「あぁ構わんさ。俺も色々と迷惑を掛けただろう、お互い様さ」
そうですね……
夢主はにこやかに小首を傾げた。
「おい、酔っているのか」
斎藤は揶揄い過ぎて壊れたか、酔いからきているのかと、冗談半分に訊ねた。
小首傾げる夢主は、あまりに綻んだ顔で、目元も口元も細く柔らかな表情をしていた。
今にも溶けてしまいそうな程、にこやかだった。
「いえ……とっても……幸せだなと思って……」
夢主は少し目を伏せるとゆっくりと首を横に振った。
柔らかな面持ちで、ふふっと笑みを漏らす。
伏せた目は畳にうつる行灯の影を眺めている。
「私……今とっても幸せ……」
「夢主……」
やはり酔っているのか……
斎藤は顔を覗いた後、訝しみながら手元の酒を口に流し込んだ。
「私、斎藤さんのおそばにいられて幸せです…………ふふっ……変なこと言っちゃいました」
斎藤は己から顔を背けている夢主の横顔を見つめた。
「あぁ……その通りだ。おかしいぞ……お前」
「ふふっ……」
そうですよね……
目を逸らしたまま夢主は笑って頷いた。
ふっと伏せた目を上げると、機嫌が良く、いつもより穏やかな斎藤の顔が目に映る。
瞳は普段と異なる夢主の様子を気に掛けて、僅かに心配そうに色を変えている。
月明かりが無い閉ざされた部屋の中、灯りに照らされる斎藤の瞳は枯れ茶色の瞳のまま、行灯の火の揺らぎを移していた。
時折、灯りの色に染まり金茶色に輝く。
……綺麗……
斎藤の瞳は月の下ではもちろん、日の光の下でも、薄暗い行灯の灯りの元でさえも美しく輝く。
夢主は吸い込まれるように見惚れていた。
やがて斎藤から行灯に目を移すと、和紙越しの火の揺らめきを目に映した。
「私、こうして一緒に過ごす何気ない時間がとっても好きなんです……楽しくて……」
「そうか」
俺も同じさ……そう告げるように頷いた。
外で新選組の幹部として過ごす激しい時間はとても愉しい時だ。
だがこうした一時も決して悪くはない、そう感じていた。
「斎藤さん、私……斎藤さんのこと……」
ふっと斎藤を見つめると、穏やかだった斎藤の目が、夢主の言葉に呼応するようにいつもの鋭い瞳に戻っていった。
優しさを含んでいるが、目を細めて威嚇しているようにも見える。
「私……」
夢主は突然変わった斎藤の瞳の色に驚くが、言葉を続けようとした。
「斎藤さんの……ことが……」
尖った目で捉えていたが、堪り兼ねたとばかりに斎藤は体を動かし、やにわに夢主の顎に指をかけた。
へっ……と、夢主は驚きで言葉を忘れた。
気付けば目の前に迫る斎藤がいた。
あまりに疾く美しい斎藤の動きに我を忘れて、自分を睨む瞳を見つめ返す。
「その続きを言えば、俺はお前の口を吸うぞ」
「……ぇ……」
……口を吸う……口を付ける……唇を……
「口を重ねるぞ。無論、それだけでは……済むまい。その覚悟はあるのか」
「ぁ……」
夢主は斎藤の言わんとすることを理解して、目を見開いた。
「そういうことを言おうとしたのではないのか、お前の……」
……お前の俺への気持ちを……
斎藤は何かに戸惑うように一度、瞳を逸らした。