71.想いはまだ
夢主名前設定
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斎藤が部屋に戻って暫く、ようやく夢主が戻ってきた。
障子越しに腰を落として膳を置く姿が見える。
すっと障子が開き、心から嬉しそうに笑む顔が覗いた。気恥ずかしさもあり、頬がほんのり紅潮している。
運んできた膳には湯気立ち上る銚子が乗っていた。
「ほぅ、熱燗か」
「はぃ……いつも冷酒ばかりなのでたまにはと思ったのですが……お嫌いですか」
手拭いに乗せて銚子を手にした夢主は、首を傾げて斎藤の返事を待った。
「いや、たまにはいいな。ありがたく頂こうか」
「はいっ」
言いながら猪口を手にする斎藤。
少しは喜んでもらえたかなと、夢主は微笑んだ。
「熱いから少しずつ注げよ」
「はぃ……」
斎藤に言われた通り、素直にゆっくり慎重に酒を注ぐ。
熱せられたせいか、いつもより酒の香りが立っている気がした。
「わぁ……香りますね。私まで酔っちゃいそう……」
夢主は香りを楽しむように目を細めて銚子を膳に戻した。
膳には酒のあてにと漬物や小魚の甘露煮なども乗っている。
熱燗をつけている姿を見て、夕餉の用意をしていた家の者が分けてくれたのだ。そして夢主の酒も一緒に乗っていた。
「お前のは燗につけていないのか」
「はぃ……私は冷たいままで。弱いお酒を熱くしたら全部とんじゃうのかなって……ふふっ」
「そこまで熱くはせんだろう、一緒につければよかったんだ」
「そうですね……一緒に……」
斎藤の言葉に少ししょげた夢主、斎藤はしまったと言い直した。
「まぁ冷酒も美味いな、いいんじゃないか。ほら一緒に呑むぞ」
「あっ……」
斎藤は夢主にも酒をと促した。
誘われるまま夢主は冷酒を注いでもらった。
何をするにもそつが無い斎藤、酒を注ぐにも実に滑らかな美しさを見せる。長い指を添えて軽く銚子を持つ手は艶めかしい。
「ありがとうございます……あの……」
斎藤は酒を注ぎ終えるとフッと口元を吊り上げて息を漏らした。
「お誕生日、おめでとうございます……」
「あぁ」
そう言うと、斎藤は軽く猪口を掲げて一気に酒を流し込んだ。
「わぁ……熱くないんですか」
「平気だ。美味いな」
「ふふっ、斎藤さん凄いです」
「フン」
楽しげな夢主に斎藤も良い一時だと感じている。
「こんな時間がずっと続けばいいのに……」
「んっ」
口の中で囁くような夢主の呟きを斎藤は聞き返した。
心を覗かれた気がする言葉だ。
「いえっ、何でもありません……何でも……」
「そうか。今は無礼講だぞ、何でも言ってみろ。外の連中なんて凄かったぜ」
斎藤は面白がって、控えめに口を閉ざした夢主に誘いをかけた。
「外、行かれたんですか」
「あぁ、お前がいない間に覗いたが、無礼講じゃなければ、あれは二、三人は腹切りだろう」
「そんなぁっ、ふふっ」
すこぶる機嫌の良い斎藤につられ、夢主も笑いが止まらなくなる。小さな肩が楽しげに揺れた。
「おいおい、流石に笑いすぎだぜ」
「ふふふっ、ごめんなさいっ、斎藤さん珍しく酔ってるみたいでっ……ふふっ、だから熱燗は駄目なんですか」
「阿呆ぅ、そんなわけあるか。機嫌がいいだけだよ」
「機嫌が……そうですか、ふふっ」
これほど素直な斎藤も珍しい。確かに機嫌良さげに表情を緩めている。
上機嫌な斎藤を見つめていると、とても照れ臭さを感じる。いつもと違う柔らかい表情だ。
「ほっ、本当に……珍しいです……」
「そうか。珍しいか。今宵の俺はご機嫌だぞ」
「もぉっ!まだ外も明るいですよっ」
「ククッ……面白いな。だが冬の日は短い。すぐに暮れるさ」
斎藤は喉の奥で笑うと手酌で酒を注ぎ足した。
「熱燗もたまには美味いな」
ひとり呟き、味わっている。
障子越しに腰を落として膳を置く姿が見える。
すっと障子が開き、心から嬉しそうに笑む顔が覗いた。気恥ずかしさもあり、頬がほんのり紅潮している。
運んできた膳には湯気立ち上る銚子が乗っていた。
「ほぅ、熱燗か」
「はぃ……いつも冷酒ばかりなのでたまにはと思ったのですが……お嫌いですか」
手拭いに乗せて銚子を手にした夢主は、首を傾げて斎藤の返事を待った。
「いや、たまにはいいな。ありがたく頂こうか」
「はいっ」
言いながら猪口を手にする斎藤。
少しは喜んでもらえたかなと、夢主は微笑んだ。
「熱いから少しずつ注げよ」
「はぃ……」
斎藤に言われた通り、素直にゆっくり慎重に酒を注ぐ。
熱せられたせいか、いつもより酒の香りが立っている気がした。
「わぁ……香りますね。私まで酔っちゃいそう……」
夢主は香りを楽しむように目を細めて銚子を膳に戻した。
膳には酒のあてにと漬物や小魚の甘露煮なども乗っている。
熱燗をつけている姿を見て、夕餉の用意をしていた家の者が分けてくれたのだ。そして夢主の酒も一緒に乗っていた。
「お前のは燗につけていないのか」
「はぃ……私は冷たいままで。弱いお酒を熱くしたら全部とんじゃうのかなって……ふふっ」
「そこまで熱くはせんだろう、一緒につければよかったんだ」
「そうですね……一緒に……」
斎藤の言葉に少ししょげた夢主、斎藤はしまったと言い直した。
「まぁ冷酒も美味いな、いいんじゃないか。ほら一緒に呑むぞ」
「あっ……」
斎藤は夢主にも酒をと促した。
誘われるまま夢主は冷酒を注いでもらった。
何をするにもそつが無い斎藤、酒を注ぐにも実に滑らかな美しさを見せる。長い指を添えて軽く銚子を持つ手は艶めかしい。
「ありがとうございます……あの……」
斎藤は酒を注ぎ終えるとフッと口元を吊り上げて息を漏らした。
「お誕生日、おめでとうございます……」
「あぁ」
そう言うと、斎藤は軽く猪口を掲げて一気に酒を流し込んだ。
「わぁ……熱くないんですか」
「平気だ。美味いな」
「ふふっ、斎藤さん凄いです」
「フン」
楽しげな夢主に斎藤も良い一時だと感じている。
「こんな時間がずっと続けばいいのに……」
「んっ」
口の中で囁くような夢主の呟きを斎藤は聞き返した。
心を覗かれた気がする言葉だ。
「いえっ、何でもありません……何でも……」
「そうか。今は無礼講だぞ、何でも言ってみろ。外の連中なんて凄かったぜ」
斎藤は面白がって、控えめに口を閉ざした夢主に誘いをかけた。
「外、行かれたんですか」
「あぁ、お前がいない間に覗いたが、無礼講じゃなければ、あれは二、三人は腹切りだろう」
「そんなぁっ、ふふっ」
すこぶる機嫌の良い斎藤につられ、夢主も笑いが止まらなくなる。小さな肩が楽しげに揺れた。
「おいおい、流石に笑いすぎだぜ」
「ふふふっ、ごめんなさいっ、斎藤さん珍しく酔ってるみたいでっ……ふふっ、だから熱燗は駄目なんですか」
「阿呆ぅ、そんなわけあるか。機嫌がいいだけだよ」
「機嫌が……そうですか、ふふっ」
これほど素直な斎藤も珍しい。確かに機嫌良さげに表情を緩めている。
上機嫌な斎藤を見つめていると、とても照れ臭さを感じる。いつもと違う柔らかい表情だ。
「ほっ、本当に……珍しいです……」
「そうか。珍しいか。今宵の俺はご機嫌だぞ」
「もぉっ!まだ外も明るいですよっ」
「ククッ……面白いな。だが冬の日は短い。すぐに暮れるさ」
斎藤は喉の奥で笑うと手酌で酒を注ぎ足した。
「熱燗もたまには美味いな」
ひとり呟き、味わっている。