70.大津
夢主名前設定
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斎藤が頼んでくれた夢主の善哉は、たっぷりの小豆色の汁に、つやつやとした餅、その上に小豆の形が残るころころとした餡子が乗っていた。
器を手にすると冷えた指先がじんじんと温まっていく。
何より甘い香りに頬が緩んだ。
「美味しそう……」
「フッ、食え」
器を寄せて幸せそうに温まる夢主の顔に、斎藤も心なしか嬉しそうだ。
そんな斎藤が手にする器に汁は入っていない。
「それって……焼き餅?ですか」
「いいだろう、美味そうだ」
「ふふっ」
しっかり自分好みに変えてもらう辺りが斎藤らしい。
得意げに澄ましている斎藤に夢主も笑いが込み上げてきた。
「甘味処で甘味を抜いてもらうなんて、斎藤さんらしいです」
珍しい注文に嫌な顔せず応じた女将が、奥でくすくす笑っていた。
店で存分に温まり、外に出ると斎藤は向かうべき道を一瞥し、来た道に体を向けた。
夢主はその向きに戸惑った。
「あの、斎藤さん……」
「大津」
「えっ」
「大津と言ったな」
慌てて引きとめようとすると、斎藤は静かに大津の名を繰り返した。
夢主はゆっくりと頷いた。
「はぃ……」
「大津は東の山の向こう側だ。お前の足ではとても行けまい。東の山を見たところで尾根の向こうは分かるまい」
「見えないのですか」
思いも寄らぬ答えに夢主は驚いた。
「あぁ。無理だ」
外に連れ出したは良いがまさか大津は思わず、塞いでいる夢主を元気付けようと、そのまま戻らず甘味処に入ったのだ。
斎藤の心遣いだった。
……好きでもない甘味処に……
「すみません……ありがとうございます」
全てを悟り現実を受け止めた夢主に、斎藤は柔らかい顔で頷いた。
優しい眼差しの斎藤の顔前を白い塊がゆっくりと通り過ぎていく。
顔を上げると、鈍色の空から再び雪が落ちていた。
寒風が吹きはじめ、斎藤の前髪も揺らぐ。
「また降るな」
「はぃ……」
昨日の降り始めより小さな雪が、空一面から落ちてきた。
見上げる顔に落ちた雪は、消えずに頬の上に留まった。落ちてくる雪は徐々に増えている。更に深く積もるだろう。
「お客はん」
二人が空を見上げていると、店の中から女将が姿を現した。
器を手にすると冷えた指先がじんじんと温まっていく。
何より甘い香りに頬が緩んだ。
「美味しそう……」
「フッ、食え」
器を寄せて幸せそうに温まる夢主の顔に、斎藤も心なしか嬉しそうだ。
そんな斎藤が手にする器に汁は入っていない。
「それって……焼き餅?ですか」
「いいだろう、美味そうだ」
「ふふっ」
しっかり自分好みに変えてもらう辺りが斎藤らしい。
得意げに澄ましている斎藤に夢主も笑いが込み上げてきた。
「甘味処で甘味を抜いてもらうなんて、斎藤さんらしいです」
珍しい注文に嫌な顔せず応じた女将が、奥でくすくす笑っていた。
店で存分に温まり、外に出ると斎藤は向かうべき道を一瞥し、来た道に体を向けた。
夢主はその向きに戸惑った。
「あの、斎藤さん……」
「大津」
「えっ」
「大津と言ったな」
慌てて引きとめようとすると、斎藤は静かに大津の名を繰り返した。
夢主はゆっくりと頷いた。
「はぃ……」
「大津は東の山の向こう側だ。お前の足ではとても行けまい。東の山を見たところで尾根の向こうは分かるまい」
「見えないのですか」
思いも寄らぬ答えに夢主は驚いた。
「あぁ。無理だ」
外に連れ出したは良いがまさか大津は思わず、塞いでいる夢主を元気付けようと、そのまま戻らず甘味処に入ったのだ。
斎藤の心遣いだった。
……好きでもない甘味処に……
「すみません……ありがとうございます」
全てを悟り現実を受け止めた夢主に、斎藤は柔らかい顔で頷いた。
優しい眼差しの斎藤の顔前を白い塊がゆっくりと通り過ぎていく。
顔を上げると、鈍色の空から再び雪が落ちていた。
寒風が吹きはじめ、斎藤の前髪も揺らぐ。
「また降るな」
「はぃ……」
昨日の降り始めより小さな雪が、空一面から落ちてきた。
見上げる顔に落ちた雪は、消えずに頬の上に留まった。落ちてくる雪は徐々に増えている。更に深く積もるだろう。
「お客はん」
二人が空を見上げていると、店の中から女将が姿を現した。