70.大津
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どうした」
心に何か引っかかるものを思い出したか、斎藤は俯く夢主を見つめ、もう一度訊ねた。
「すみません、ご心配お掛けして……」
「気掛かりがあるのですね」
沖田の声に少し顔を上げて頷いた。
頷いた拍子に外の空気で冷えた髪がさらりと動き、首筋を冷やす。
「山に雪が積もる時……もう山には雪があるなら既に……」
「何が起こる」
夢主は首を振った。
「ある人が……大事な、愛しい人を失うんです。どうしようも、出来なくて……」
「夢主ちゃん……」
震える声の夢主を励ますように沖田がすぐ隣に座を移した。
斎藤も沖田と同じ目で見守っている。
「大丈夫です、ごめんなさい……どうにも、出来ないから……受け止めるしか……」
「優しすぎるんだよ、お前は」
夢主が顔を上げると斎藤はやれやれと溜息を吐き、口角を上げた。
「どこのどいつか知らんが、どうしようもないならお前が気に病むな」
「はぃ」
「ふふっ、夢主ちゃんは優しいね……本当に」
二人に慰められ、夢主は気持ちを落ち着かせた。
手を出してはいけない。そもそも自分の小さな力では何も変えられない。
ましてや緋村の相手は、記憶を違えていなければ幕府方の影の存在。斎藤達からすれば同じ側の人間になる。力を貸して欲しいなど頼めるはずもない。
夢主は時の流れをただ受け入れて、身を任せるしかなかった。
やがて京の町にも雪が降り始めた。
重たげな雪雲に覆われた空、待ち兼ねたように始まった雪の時間。
ふわふわと柔らかい淡雪に始まり、夢主達が眠りにつく頃も止むことなく降り続け、気付けば部屋から見える景色は全て雪に覆われていた。
それから空が白むまで雪は降り続けた。
すっかり雪に染まった白い町……山……静かな朝だった。
体を半分布団に残していても寒さを感じる。触れた自分の頬がとても冷たかった。
夢主は衝立の向こうで布団を畳む斎藤を覗いた。
「斎藤さん、どこか山の見える場所に……行きたいです」
「突然なんだ、高い場所か」
冷たい空気と降り積もった雪のせいではない。夢主の顔が蒼白くなっていた。
夢にまでうなされたか、考えすぎて眠れなかったのか。
目覚めるなり声を掛けてきた夢主に、斎藤も仕方なしと願いを聞き入れた。
「分かった……着替えたらついて来い」
昨日の話の一件か、そう考えて斎藤は着替えを始めた。
「言っておくが手は貸さんぞ」
「はぃ……山を見たいだけなんです。我がまま言ってごめんなさい……」
斎藤は横目で確認しながら着替えを進めた。
己の着替えに目もやらず俯いている。何かを確認したいだけなのだろう。
「構わん。そんな顔でいられる方が迷惑だ」
「あ……」
「誤解するな、お前が迷惑とは言っとらん、フンッ」
ニッと笑って見せ、朝稽古に出ている沖田に声を掛けておくと、斎藤は先に部屋を出た。
「斎藤さん……」
自分の我が儘に付き合ってくれる斎藤にありがとうと心で告げると、蒼白な顔に少し色が戻ってきた。
温かな気持ちだ。
朝餉も取らずに、斎藤と夢主は屯所を抜け出した。
稽古が終わり次第沖田も後を追ってくるという。
勿論、居合わせた土方にも告げてある。斎藤に不安は無かった。
心に何か引っかかるものを思い出したか、斎藤は俯く夢主を見つめ、もう一度訊ねた。
「すみません、ご心配お掛けして……」
「気掛かりがあるのですね」
沖田の声に少し顔を上げて頷いた。
頷いた拍子に外の空気で冷えた髪がさらりと動き、首筋を冷やす。
「山に雪が積もる時……もう山には雪があるなら既に……」
「何が起こる」
夢主は首を振った。
「ある人が……大事な、愛しい人を失うんです。どうしようも、出来なくて……」
「夢主ちゃん……」
震える声の夢主を励ますように沖田がすぐ隣に座を移した。
斎藤も沖田と同じ目で見守っている。
「大丈夫です、ごめんなさい……どうにも、出来ないから……受け止めるしか……」
「優しすぎるんだよ、お前は」
夢主が顔を上げると斎藤はやれやれと溜息を吐き、口角を上げた。
「どこのどいつか知らんが、どうしようもないならお前が気に病むな」
「はぃ」
「ふふっ、夢主ちゃんは優しいね……本当に」
二人に慰められ、夢主は気持ちを落ち着かせた。
手を出してはいけない。そもそも自分の小さな力では何も変えられない。
ましてや緋村の相手は、記憶を違えていなければ幕府方の影の存在。斎藤達からすれば同じ側の人間になる。力を貸して欲しいなど頼めるはずもない。
夢主は時の流れをただ受け入れて、身を任せるしかなかった。
やがて京の町にも雪が降り始めた。
重たげな雪雲に覆われた空、待ち兼ねたように始まった雪の時間。
ふわふわと柔らかい淡雪に始まり、夢主達が眠りにつく頃も止むことなく降り続け、気付けば部屋から見える景色は全て雪に覆われていた。
それから空が白むまで雪は降り続けた。
すっかり雪に染まった白い町……山……静かな朝だった。
体を半分布団に残していても寒さを感じる。触れた自分の頬がとても冷たかった。
夢主は衝立の向こうで布団を畳む斎藤を覗いた。
「斎藤さん、どこか山の見える場所に……行きたいです」
「突然なんだ、高い場所か」
冷たい空気と降り積もった雪のせいではない。夢主の顔が蒼白くなっていた。
夢にまでうなされたか、考えすぎて眠れなかったのか。
目覚めるなり声を掛けてきた夢主に、斎藤も仕方なしと願いを聞き入れた。
「分かった……着替えたらついて来い」
昨日の話の一件か、そう考えて斎藤は着替えを始めた。
「言っておくが手は貸さんぞ」
「はぃ……山を見たいだけなんです。我がまま言ってごめんなさい……」
斎藤は横目で確認しながら着替えを進めた。
己の着替えに目もやらず俯いている。何かを確認したいだけなのだろう。
「構わん。そんな顔でいられる方が迷惑だ」
「あ……」
「誤解するな、お前が迷惑とは言っとらん、フンッ」
ニッと笑って見せ、朝稽古に出ている沖田に声を掛けておくと、斎藤は先に部屋を出た。
「斎藤さん……」
自分の我が儘に付き合ってくれる斎藤にありがとうと心で告げると、蒼白な顔に少し色が戻ってきた。
温かな気持ちだ。
朝餉も取らずに、斎藤と夢主は屯所を抜け出した。
稽古が終わり次第沖田も後を追ってくるという。
勿論、居合わせた土方にも告げてある。斎藤に不安は無かった。