69.あの人の好きなもの
夢主名前設定
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「もぉ!貴方までそんなこと言わないで下さい、そういうのは土方さんや原田さん達だけで充分ですっ」
頭に血が上り幹部の皆をいつも通り"さん"付けで呼ぶ夢主を、少年は尊いものを見るように嬉しそうに微笑んで眺めていた。
「でも本当にそう思ったんです、すみません。貴女以外でと言うなら……新選組でしょうか。先生はここがお好きなようですよ、土方先生の仰る士道をお気に召しているようですね」
「へぇ……確かに新選組……」
しかし新選組を贈り物には出来ない。
どうすれば良いのだろうと更に頭をひねった。
「あとは熱いお茶もお好きですね、お茶の時は熱いのをと言い付かります」
「熱いお茶……そういえば熱いのが好きですね。寒いし今は特に美味しいでしょうね……お酒も熱いの呑むのかな……」
「そういえば先生方はいつも冷酒ですね」
二人は顔を向かい合わせて互いに頷いた。
いつもと違う酒で祝うのもいいかもしれない。
「熱燗……たまには勧めてみようかな……ありがとう、おかげで考えが纏まりそうです」
「そうですか、良かったです、では……また何かあれば」
腰から頭を下げて小姓は今度こそ立ち去った。
斎藤より細くて小さな背中を見送った後、名前はふと庭に目を移した。
庭には寒さに負けず、濃い緑色の葉を広げる低木がある。
「椿……山茶花、かなぁ。お花の贈り物……ふふっ、喜ばないだろうなっ」
花を受け取って眉をしかめる斎藤の顔を思い描き、くすりと笑った。
「でも……気持ちだけでもいいって言ってくれるかな、気持ちだけでも……熱燗と、お花」
渡せる物は自分には何も無い。
それに斎藤は贈り物を望まないだろう。
おにぎりもいいけれど、今年はお酒かな……思い巡らせながら庭を眺めた。
小姓は伊東が戻るまで一先ず預かり物を置いておこうと、着物を運んでいた。
つと、歩く廊下の途中で部屋の戸が開き、声が掛かる。
「おい、鉄」
「はっ、はい、土方先生!」
自分より頭一つ以上背の高い土方が、部屋の障子を開けてすぐ横に立っていた。
突然呼び止められ声が上ずる。
「あんまり関わるなよ、言っただろう」
「はい、申し訳ございませんっ……」
すぐに夢主のことと理解した小姓は素直に頭を下げた。
「まぁ今回はあいつから声を掛けたのを見ていたがな。お前その齢だ、当然まだ女を知らねぇんだろう」
「そっ、そんなことっ、当たり前じゃありませんかっ!」
そんなことを聞くなんて!関係ないではないか!
頭の中を白くして狼狽する鉄と呼ばれた少年を、土方は目を細めて笑った。
そして頭に手を置くと色男としての忠告をした。
「惚れちまうぞ、関わるな」
「は……はぃ……」
まさか自分が、そんな……
そう思うが、土方が可笑しそうに目を細めて見つめてくるさまに、幾度もこんな状況を見てきたのだろうと、頭の良い小姓は察した。
「分かり……ました。お言葉、肝に銘じておきます」
「フッ、それでいい」
小さく笑みを漏らして土方は部屋に戻っていった。
小姓は、土方も夢主に気があると察している。だが、今の言葉は自分への気遣いであると素直に受け止めた。
……夢主さんという人はなんと罪深いのでしょうか、副長の心までをも掴んでしまうとは……
夢主に渡された着物を手に、小姓はこの新選組の中で密かに交錯する大人達の想いに心を奪われていた。
頭に血が上り幹部の皆をいつも通り"さん"付けで呼ぶ夢主を、少年は尊いものを見るように嬉しそうに微笑んで眺めていた。
「でも本当にそう思ったんです、すみません。貴女以外でと言うなら……新選組でしょうか。先生はここがお好きなようですよ、土方先生の仰る士道をお気に召しているようですね」
「へぇ……確かに新選組……」
しかし新選組を贈り物には出来ない。
どうすれば良いのだろうと更に頭をひねった。
「あとは熱いお茶もお好きですね、お茶の時は熱いのをと言い付かります」
「熱いお茶……そういえば熱いのが好きですね。寒いし今は特に美味しいでしょうね……お酒も熱いの呑むのかな……」
「そういえば先生方はいつも冷酒ですね」
二人は顔を向かい合わせて互いに頷いた。
いつもと違う酒で祝うのもいいかもしれない。
「熱燗……たまには勧めてみようかな……ありがとう、おかげで考えが纏まりそうです」
「そうですか、良かったです、では……また何かあれば」
腰から頭を下げて小姓は今度こそ立ち去った。
斎藤より細くて小さな背中を見送った後、名前はふと庭に目を移した。
庭には寒さに負けず、濃い緑色の葉を広げる低木がある。
「椿……山茶花、かなぁ。お花の贈り物……ふふっ、喜ばないだろうなっ」
花を受け取って眉をしかめる斎藤の顔を思い描き、くすりと笑った。
「でも……気持ちだけでもいいって言ってくれるかな、気持ちだけでも……熱燗と、お花」
渡せる物は自分には何も無い。
それに斎藤は贈り物を望まないだろう。
おにぎりもいいけれど、今年はお酒かな……思い巡らせながら庭を眺めた。
小姓は伊東が戻るまで一先ず預かり物を置いておこうと、着物を運んでいた。
つと、歩く廊下の途中で部屋の戸が開き、声が掛かる。
「おい、鉄」
「はっ、はい、土方先生!」
自分より頭一つ以上背の高い土方が、部屋の障子を開けてすぐ横に立っていた。
突然呼び止められ声が上ずる。
「あんまり関わるなよ、言っただろう」
「はい、申し訳ございませんっ……」
すぐに夢主のことと理解した小姓は素直に頭を下げた。
「まぁ今回はあいつから声を掛けたのを見ていたがな。お前その齢だ、当然まだ女を知らねぇんだろう」
「そっ、そんなことっ、当たり前じゃありませんかっ!」
そんなことを聞くなんて!関係ないではないか!
頭の中を白くして狼狽する鉄と呼ばれた少年を、土方は目を細めて笑った。
そして頭に手を置くと色男としての忠告をした。
「惚れちまうぞ、関わるな」
「は……はぃ……」
まさか自分が、そんな……
そう思うが、土方が可笑しそうに目を細めて見つめてくるさまに、幾度もこんな状況を見てきたのだろうと、頭の良い小姓は察した。
「分かり……ました。お言葉、肝に銘じておきます」
「フッ、それでいい」
小さく笑みを漏らして土方は部屋に戻っていった。
小姓は、土方も夢主に気があると察している。だが、今の言葉は自分への気遣いであると素直に受け止めた。
……夢主さんという人はなんと罪深いのでしょうか、副長の心までをも掴んでしまうとは……
夢主に渡された着物を手に、小姓はこの新選組の中で密かに交錯する大人達の想いに心を奪われていた。