69.あの人の好きなもの
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うん、出来たっ」
斎藤の去った部屋で夢主は完成した直しを確認して、着物を綺麗に畳み、裁縫道具を片付けた。
無事終わった安堵と伊東に渡さねばならない不安から溜息が洩れる。
「はぁ……どうしょうかな。……斎藤さんのお誕生日も……どうしよう……」
憂鬱な悩みが一つ、嬉しい悩みが一つ。
畳んだ着物を膝に乗せ、夢主は再び太い息を吐いた。
やがて決心してゆっくり伊東の部屋に向かう。
途中、先ほど斎藤の部屋へ言伝にやってきた小姓がひとり廊下を歩いていた。
その小姓は夢主が伊東の部屋の前に座ろうと膝を折る姿を見つけ、声を掛けた。
「あの……伊東先生ならいませんよ」
「えっ、良かったぁ……あっ」
遠慮がちな声に夢主はゆっくり振り返った。
まだどこか可愛らしが残る少年の姿に気を緩めて微笑みかける。
小姓は伊東の不在にほっと息を吐いた夢主に驚いた。
「えっ、あの、先生に用では」
「あっ、ごめんなさい、その……内緒にしてくださいね……」
「はぁ……」
「あっ、あのね……ふふっ」
「は、ははははっ」
伊東の不在にほっと愁眉を開いた夢主を小姓は疑問の目で見ていたが、伊東を苦手にしているのだと悟り、二人は揃って笑った。
……目の前のこの女の人は先生方にとても大事にされている。それは男女のそういった感情が伴っているのだ……伊東先生もそうなのか……
小姓の少年はまだ幼い頭で大人達の事情をしっかりと捉えていた。
自分とは関わり無い先生達の色恋だと思っていたが、目の前で振り回されている夢主を見ていたら何やら面白く見えてしまった。
遠い存在だと思っていたヒトの大変な様子を目に、自分に出来ることならば助けてあげようと思えてくる。
「ははっ、安心してください。先生方に伝えることがあればいつでも私を掴まえてください」
「ありがとう……あの、この着物を伊東先生にお渡しくださいますか」
「はい、確かにお受けいたします」
にこにこと遠慮の消えた笑顔で受け取ると小姓は頭を下げて、では、と体の向きを変えた。
「本当に良かった……はぁ……」
伊東と顔を合わさせずに済んだ夢主は、安心から来る大きく長い息を吐き出した。
「あとは斎藤さんの……あっ」
思いついたように夢主は駆け出し、前を歩く小姓を呼び止めた。
呼び止められた小姓は落ち着いて振り返る。
「どうされましたか」
「あっ、あのごめんなさい、斎藤さんの……斎藤先生のお好きなものってご存知ありませんか」
夢主は最近、幹部連中の世話をして回っているこの少年なら、自分が知らない何かを知っているのではと考えたのだ。
「斎藤先生の……好きなものですか」
夢主が頷くと、小姓は夢主の足先に視線を落とし、そのまま上まで視線を運んで目を合わせた。
「貴女だと思いますよ、夢主さん」
「えっ……」
まさか小姓にまで揶揄われると思わなかった夢主は恥ずかしさで染まり、一歩退いた。
斎藤の去った部屋で夢主は完成した直しを確認して、着物を綺麗に畳み、裁縫道具を片付けた。
無事終わった安堵と伊東に渡さねばならない不安から溜息が洩れる。
「はぁ……どうしょうかな。……斎藤さんのお誕生日も……どうしよう……」
憂鬱な悩みが一つ、嬉しい悩みが一つ。
畳んだ着物を膝に乗せ、夢主は再び太い息を吐いた。
やがて決心してゆっくり伊東の部屋に向かう。
途中、先ほど斎藤の部屋へ言伝にやってきた小姓がひとり廊下を歩いていた。
その小姓は夢主が伊東の部屋の前に座ろうと膝を折る姿を見つけ、声を掛けた。
「あの……伊東先生ならいませんよ」
「えっ、良かったぁ……あっ」
遠慮がちな声に夢主はゆっくり振り返った。
まだどこか可愛らしが残る少年の姿に気を緩めて微笑みかける。
小姓は伊東の不在にほっと息を吐いた夢主に驚いた。
「えっ、あの、先生に用では」
「あっ、ごめんなさい、その……内緒にしてくださいね……」
「はぁ……」
「あっ、あのね……ふふっ」
「は、ははははっ」
伊東の不在にほっと愁眉を開いた夢主を小姓は疑問の目で見ていたが、伊東を苦手にしているのだと悟り、二人は揃って笑った。
……目の前のこの女の人は先生方にとても大事にされている。それは男女のそういった感情が伴っているのだ……伊東先生もそうなのか……
小姓の少年はまだ幼い頭で大人達の事情をしっかりと捉えていた。
自分とは関わり無い先生達の色恋だと思っていたが、目の前で振り回されている夢主を見ていたら何やら面白く見えてしまった。
遠い存在だと思っていたヒトの大変な様子を目に、自分に出来ることならば助けてあげようと思えてくる。
「ははっ、安心してください。先生方に伝えることがあればいつでも私を掴まえてください」
「ありがとう……あの、この着物を伊東先生にお渡しくださいますか」
「はい、確かにお受けいたします」
にこにこと遠慮の消えた笑顔で受け取ると小姓は頭を下げて、では、と体の向きを変えた。
「本当に良かった……はぁ……」
伊東と顔を合わさせずに済んだ夢主は、安心から来る大きく長い息を吐き出した。
「あとは斎藤さんの……あっ」
思いついたように夢主は駆け出し、前を歩く小姓を呼び止めた。
呼び止められた小姓は落ち着いて振り返る。
「どうされましたか」
「あっ、あのごめんなさい、斎藤さんの……斎藤先生のお好きなものってご存知ありませんか」
夢主は最近、幹部連中の世話をして回っているこの少年なら、自分が知らない何かを知っているのではと考えたのだ。
「斎藤先生の……好きなものですか」
夢主が頷くと、小姓は夢主の足先に視線を落とし、そのまま上まで視線を運んで目を合わせた。
「貴女だと思いますよ、夢主さん」
「えっ……」
まさか小姓にまで揶揄われると思わなかった夢主は恥ずかしさで染まり、一歩退いた。