69.あの人の好きなもの
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ひとり部屋に残った夢主は針仕事をしていた。
手にあるのは伊東に渡された着物。
他の預かり物を直し終えてようやくこの一枚に辿り着いた。
皆の物をなおざりに、伊東の着物に手をつける気にはなれなかった。
着物を開くと、袖付けの辺りが僅かにほつれていた。
手を動かしながら持ち主のことを考え、先程の土方と山南の言い争いに考えを移し、やがて意識は斎藤へと移っていった。
「もうすぐ年越し……ってことは斎藤さんのお誕生日だよね、この前はおにぎりを……ふふっ」
今度も何か用意したいと考えながら、一年前の年越しと誕生祝いを思い出していた。
「今度はどうしよう、何が出来るかなぁ……斎藤さんの好きなものって」
うぅん……
天井を見上げるように首を傾げて斎藤の好みを思い浮かべてみた。
……お酒……いつも呑んでるし、女の人……なんて駄目だしっ!刀……あぁ私じゃとっても手に入らない……
「うーーん……物じゃないほうがいいのかな……誰かに相談しようかな、沖田さん……土方さん……」
同じ剣客なら何か共通点があるだろうか。
沖田達の得意や好みを考えるが、剣術くらいしか思い付かない。
一人で唸って考えてみるが、斎藤の好みは分からず、良い相談相手も浮かばなかった。
「戻ったぞ」
「あっ!斎藤さんっ!」
突然戻った斎藤に夢主が驚いて着物をぐしゃっと潰してしまった。
斎藤は過剰な反応から、楽しそうに何やら企んでいるなと読み取るが、詮索せず話を続けた。
「そんなに驚いて、大丈夫か」
ニヤリと楽しげに訊ねてみると、夢主は驚いた言い訳を考えるようにキョロキョロと目を動かした。
「えっと……あの」
斎藤を見上げる顔は眉尻が下がり「困りました」と顔に書いているようだ。
「クッ、まぁいい。俺は少し出てくる」
「どちらへ……」
「フフン、私用、だ」
分かるだろうと斎藤は眉を動かし、歪んだ笑みを向ける。
夢主は、あぁ"あ"の所へ新選組の動向を伝えに行くのだと悟った。
「いいなぁ……」
ぽつり呟いてしまった。
「何がだ」
「わっ、すみません、違うんですっ」
何が羨ましいと訝しむ斎藤、まさか密偵の仕事が羨ましいわけでもあるまい。
何がいいんだ、と顔を覗いた。
「あぁ、その……斎藤さんが会いに行く人が……いいなぁって……」
斎藤は腑に落ちんと眉間に皺を寄せた。
「遊びじゃないぞ」
何か勘違いしているのか、斎藤は小声でたしなめた。
「わ、わかってますっ、ごめんなさい……」
斎藤が会いに行くなんて、会いに来てもらえるその人が羨ましいと思ったなど、口が裂けても言えない。
「フッ、同じ部屋にいるくせによく言うぜ」
「えぇっ」
「行ってくるぞ」
「はっ……はぃっ」
心眼で心の中を覗かれたのかと夢主は狼狽えて赤い顔で斎藤を送り出した。
「ククッ、あの阿呆」
面白い奴だと笑い、斎藤は屯所を出て行った。
手にあるのは伊東に渡された着物。
他の預かり物を直し終えてようやくこの一枚に辿り着いた。
皆の物をなおざりに、伊東の着物に手をつける気にはなれなかった。
着物を開くと、袖付けの辺りが僅かにほつれていた。
手を動かしながら持ち主のことを考え、先程の土方と山南の言い争いに考えを移し、やがて意識は斎藤へと移っていった。
「もうすぐ年越し……ってことは斎藤さんのお誕生日だよね、この前はおにぎりを……ふふっ」
今度も何か用意したいと考えながら、一年前の年越しと誕生祝いを思い出していた。
「今度はどうしよう、何が出来るかなぁ……斎藤さんの好きなものって」
うぅん……
天井を見上げるように首を傾げて斎藤の好みを思い浮かべてみた。
……お酒……いつも呑んでるし、女の人……なんて駄目だしっ!刀……あぁ私じゃとっても手に入らない……
「うーーん……物じゃないほうがいいのかな……誰かに相談しようかな、沖田さん……土方さん……」
同じ剣客なら何か共通点があるだろうか。
沖田達の得意や好みを考えるが、剣術くらいしか思い付かない。
一人で唸って考えてみるが、斎藤の好みは分からず、良い相談相手も浮かばなかった。
「戻ったぞ」
「あっ!斎藤さんっ!」
突然戻った斎藤に夢主が驚いて着物をぐしゃっと潰してしまった。
斎藤は過剰な反応から、楽しそうに何やら企んでいるなと読み取るが、詮索せず話を続けた。
「そんなに驚いて、大丈夫か」
ニヤリと楽しげに訊ねてみると、夢主は驚いた言い訳を考えるようにキョロキョロと目を動かした。
「えっと……あの」
斎藤を見上げる顔は眉尻が下がり「困りました」と顔に書いているようだ。
「クッ、まぁいい。俺は少し出てくる」
「どちらへ……」
「フフン、私用、だ」
分かるだろうと斎藤は眉を動かし、歪んだ笑みを向ける。
夢主は、あぁ"あ"の所へ新選組の動向を伝えに行くのだと悟った。
「いいなぁ……」
ぽつり呟いてしまった。
「何がだ」
「わっ、すみません、違うんですっ」
何が羨ましいと訝しむ斎藤、まさか密偵の仕事が羨ましいわけでもあるまい。
何がいいんだ、と顔を覗いた。
「あぁ、その……斎藤さんが会いに行く人が……いいなぁって……」
斎藤は腑に落ちんと眉間に皺を寄せた。
「遊びじゃないぞ」
何か勘違いしているのか、斎藤は小声でたしなめた。
「わ、わかってますっ、ごめんなさい……」
斎藤が会いに行くなんて、会いに来てもらえるその人が羨ましいと思ったなど、口が裂けても言えない。
「フッ、同じ部屋にいるくせによく言うぜ」
「えぇっ」
「行ってくるぞ」
「はっ……はぃっ」
心眼で心の中を覗かれたのかと夢主は狼狽えて赤い顔で斎藤を送り出した。
「ククッ、あの阿呆」
面白い奴だと笑い、斎藤は屯所を出て行った。