69.あの人の好きなもの
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「あの沖田さんは……」
「あぁ山南さんの部屋にいる」
「そうですか……」
朝、部屋を開けているか、起きると同時に顔を見せることが多い沖田。
道場で稽古をしている様子もない。
特別な用事なのかと、夢主は首を傾げた。
「まぁ正確に言えば、山南さんの部屋にいて、土方さんとの間に入ろうとやっきになっている……と言った所だな」
「えっ」
「また揉めてるんだよ。話が纏まるわけが無い、あれでは」
どちらも譲る気配が無い主張のぶつかり合い。流石の斎藤もお手上げだった。
今朝も早くから言い合いが始まった。
気付いた斎藤は沖田に任せて部屋に残った。
土方と山南の間に入ることは己には出来ず、どちらかの主張を変えることも難しい。
「これでは成るように成るだけさ。さぁて、どうする気なんだか」
「どう……とは、沖田さんがですか」
沖田は策を練るのが苦手だと自負している。
それは夢主も認めるところだ。二人と親しい沖田でも、ぶつかり合う意見を纏めるのは難しい。
「土方さん山南さんはもちろん、沖田君もだし、何より伊東さんだ。あの男がこの格好の機会をみすみす逃すと思うか」
「あ……」
「遠からず、動くだろう」
それにどう対処するのか、斎藤は面白がっているようにも見える。
「斎藤さんはどうなると思いますか……どうなって欲しいですか……」
「さぁな。仮にも馴染みだ、丸く収まるに越したことは無いが、それは望めない。ならば互いの正義がぶつかり、どちらかが斬られる。そうなるだろうな、俺達はそうやって生きている」
己の正義に生き、生き残った者の勝ち。
斎藤は夢主に自分の行き方を見せ付けるが如く、目を離さなかった。
「そぅ……ですね……」
……それならこの正義のぶつかり合いは、山南さんが……そういうことなんだ……
幕末の男達の不器用で実直過ぎる生き方を、夢主は見ていることしか出来なかった。
山南の部屋からは言い争う二人の声が響いていた。
言い合う男達の声は、聞く者の身を委縮させる激しさがあった。
「だから、このままじゃ新選組の行く末が見えねぇって言ってんだよ!隊士の増強は急務だ!!」
「だからといってお寺に、それも西本願寺に移るなんて非常識だと言っているんですよ、土方さん、何度説明すれば分かっていただけるのですか!」
手狭になった屯所の移転先を巡る土方と山南の議論。
何度話し合おうと平行線のまま、歩み寄る気配は互いに感じられない。
土方も、何とか試衛館からの仲間である山南と意見を纏めようと試みていた。
籠もった音で遠くから聞こえる男同士のいがみ合う声。夢主はぼんやりと耳にした。
そんな折、斎藤の部屋の戸が開いた。
「沖田さんっ!」
「やぁ……」
憔悴した顔の沖田がゆっくりと入ってきた。斎藤も横目で捉える。笑顔にいつものはりが無い。
「大丈夫ですか……山南さんのお部屋にいなくてよろしいんですか……」
「えぇ、むしろ追い出されちゃいました、あははっ!僕がいると話が纏まらないそうですよぉ~~っ、僕が話の腰を折るからって……そんな、僕のせいじゃないのに……」
「沖田さん……」
誰もが沖田のせいだとは思っていない。
口にした土方や山南自身もそうは思っていないだろう。
もう後戻り出来ない所まで来てしまっているのだ。
ただ、それだけなのだ。
「あぁ山南さんの部屋にいる」
「そうですか……」
朝、部屋を開けているか、起きると同時に顔を見せることが多い沖田。
道場で稽古をしている様子もない。
特別な用事なのかと、夢主は首を傾げた。
「まぁ正確に言えば、山南さんの部屋にいて、土方さんとの間に入ろうとやっきになっている……と言った所だな」
「えっ」
「また揉めてるんだよ。話が纏まるわけが無い、あれでは」
どちらも譲る気配が無い主張のぶつかり合い。流石の斎藤もお手上げだった。
今朝も早くから言い合いが始まった。
気付いた斎藤は沖田に任せて部屋に残った。
土方と山南の間に入ることは己には出来ず、どちらかの主張を変えることも難しい。
「これでは成るように成るだけさ。さぁて、どうする気なんだか」
「どう……とは、沖田さんがですか」
沖田は策を練るのが苦手だと自負している。
それは夢主も認めるところだ。二人と親しい沖田でも、ぶつかり合う意見を纏めるのは難しい。
「土方さん山南さんはもちろん、沖田君もだし、何より伊東さんだ。あの男がこの格好の機会をみすみす逃すと思うか」
「あ……」
「遠からず、動くだろう」
それにどう対処するのか、斎藤は面白がっているようにも見える。
「斎藤さんはどうなると思いますか……どうなって欲しいですか……」
「さぁな。仮にも馴染みだ、丸く収まるに越したことは無いが、それは望めない。ならば互いの正義がぶつかり、どちらかが斬られる。そうなるだろうな、俺達はそうやって生きている」
己の正義に生き、生き残った者の勝ち。
斎藤は夢主に自分の行き方を見せ付けるが如く、目を離さなかった。
「そぅ……ですね……」
……それならこの正義のぶつかり合いは、山南さんが……そういうことなんだ……
幕末の男達の不器用で実直過ぎる生き方を、夢主は見ていることしか出来なかった。
山南の部屋からは言い争う二人の声が響いていた。
言い合う男達の声は、聞く者の身を委縮させる激しさがあった。
「だから、このままじゃ新選組の行く末が見えねぇって言ってんだよ!隊士の増強は急務だ!!」
「だからといってお寺に、それも西本願寺に移るなんて非常識だと言っているんですよ、土方さん、何度説明すれば分かっていただけるのですか!」
手狭になった屯所の移転先を巡る土方と山南の議論。
何度話し合おうと平行線のまま、歩み寄る気配は互いに感じられない。
土方も、何とか試衛館からの仲間である山南と意見を纏めようと試みていた。
籠もった音で遠くから聞こえる男同士のいがみ合う声。夢主はぼんやりと耳にした。
そんな折、斎藤の部屋の戸が開いた。
「沖田さんっ!」
「やぁ……」
憔悴した顔の沖田がゆっくりと入ってきた。斎藤も横目で捉える。笑顔にいつものはりが無い。
「大丈夫ですか……山南さんのお部屋にいなくてよろしいんですか……」
「えぇ、むしろ追い出されちゃいました、あははっ!僕がいると話が纏まらないそうですよぉ~~っ、僕が話の腰を折るからって……そんな、僕のせいじゃないのに……」
「沖田さん……」
誰もが沖田のせいだとは思っていない。
口にした土方や山南自身もそうは思っていないだろう。
もう後戻り出来ない所まで来てしまっているのだ。
ただ、それだけなのだ。