66.差し向かい
夢主名前設定
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「事情をご存知なのでは。藤堂君に江戸で聞いたのでしょう、あんたも人が悪いな、伊東さん」
「おほほほっ、お互い様だと言っているでしょう、確かに話は聞いたわ。でもきっと全てではないのよ。あの娘、面白いことを知っているのでしょう」
藤堂め……
どこまで伝えたか量りかねるならば何も話さぬが最良と、斎藤は口を閉じた。
伊東は口を閉じた態度に、図星であると当たりをつけた。
「知らないはずのことを知っている……予想もつかないと藤堂君は教えてくれたわ。あの娘とも……お話がしたいわね」
「そうですか」
伊東は夢主と仲良くしたいわね……そう伝えたい所を、斎藤の気持ちを汲んで俄かに濁した。
斎藤を敵に回すには惜しく、そして怖ろしいと認識したからだ。
「何れ話す機会があるでしょう」
「そうね、そう願っているわ」
フッと流し目に斎藤を捉えて伊東は酒を酌んだ。
……美しくて使える男、斎藤一。その斎藤に寄り添うこれまた美しい女、夢主、どんな娘なのかしら……両方揃えて手元に置きたいわ……右と左、出来れば別々の手に……
伊東は酒を含みながら思いを馳せ、くすり笑みを漏らした。
そんな深淵な考えに浸る伊東の陰のある笑顔を、斎藤は見逃さなかった。
「酒が足りませんね」
「持って来させましょう」
そう言うと伊東は手を叩き、誰かいないかしらと人を呼んだ。
すぐにやって来た女中に顔を近付け、扇を開いて斎藤から見えぬよう口元を隠す。
そばに寄る女の顔を嬉しそうに目の端に入れ、酒の追加を頼んでいる。
……女が二人並んでいるようにも見えるな……奇妙な男だ……
「斎藤さん、芸妓を呼んでもいいかしら」
「お好きにどうぞ」
「あらっ、物分りのいいっ」
二人きりで話すことも無くなったと、斎藤は諦め半分に言い放った。
「私、斎藤さんの素直な所が大好きよ。今も顔に出てるわ、半分呆れているのが。それに嘘はつかないのね、ますます惚れ込んじゃう」
「フン、嘘をついて困るのは自分、嘘偽は己の首を絞めるだけだからな」
「そうね、頭の良いお人」
伊東はクスッと息を漏らして笑い、斎藤を見つめた。
困ると口は閉ざすが虚言は無し、頭の回転が速く臨機応変に物事に対処できる。
伊東は斎藤の性質に満足していた。
やがて酒と共に芸妓が数人やって来た。
伊東の左右の脇に一人ずつ妓が座り、同じように斎藤の横にも妓がついた。
はなから芸を見せずに酌をしろと伊東が告げたのだろう。
「フン、俺に構うな」
斎藤は銚子を妓に取られないよう自らの手で持ち上げた。
「おほほほっ、お互い様だと言っているでしょう、確かに話は聞いたわ。でもきっと全てではないのよ。あの娘、面白いことを知っているのでしょう」
藤堂め……
どこまで伝えたか量りかねるならば何も話さぬが最良と、斎藤は口を閉じた。
伊東は口を閉じた態度に、図星であると当たりをつけた。
「知らないはずのことを知っている……予想もつかないと藤堂君は教えてくれたわ。あの娘とも……お話がしたいわね」
「そうですか」
伊東は夢主と仲良くしたいわね……そう伝えたい所を、斎藤の気持ちを汲んで俄かに濁した。
斎藤を敵に回すには惜しく、そして怖ろしいと認識したからだ。
「何れ話す機会があるでしょう」
「そうね、そう願っているわ」
フッと流し目に斎藤を捉えて伊東は酒を酌んだ。
……美しくて使える男、斎藤一。その斎藤に寄り添うこれまた美しい女、夢主、どんな娘なのかしら……両方揃えて手元に置きたいわ……右と左、出来れば別々の手に……
伊東は酒を含みながら思いを馳せ、くすり笑みを漏らした。
そんな深淵な考えに浸る伊東の陰のある笑顔を、斎藤は見逃さなかった。
「酒が足りませんね」
「持って来させましょう」
そう言うと伊東は手を叩き、誰かいないかしらと人を呼んだ。
すぐにやって来た女中に顔を近付け、扇を開いて斎藤から見えぬよう口元を隠す。
そばに寄る女の顔を嬉しそうに目の端に入れ、酒の追加を頼んでいる。
……女が二人並んでいるようにも見えるな……奇妙な男だ……
「斎藤さん、芸妓を呼んでもいいかしら」
「お好きにどうぞ」
「あらっ、物分りのいいっ」
二人きりで話すことも無くなったと、斎藤は諦め半分に言い放った。
「私、斎藤さんの素直な所が大好きよ。今も顔に出てるわ、半分呆れているのが。それに嘘はつかないのね、ますます惚れ込んじゃう」
「フン、嘘をついて困るのは自分、嘘偽は己の首を絞めるだけだからな」
「そうね、頭の良いお人」
伊東はクスッと息を漏らして笑い、斎藤を見つめた。
困ると口は閉ざすが虚言は無し、頭の回転が速く臨機応変に物事に対処できる。
伊東は斎藤の性質に満足していた。
やがて酒と共に芸妓が数人やって来た。
伊東の左右の脇に一人ずつ妓が座り、同じように斎藤の横にも妓がついた。
はなから芸を見せずに酌をしろと伊東が告げたのだろう。
「フン、俺に構うな」
斎藤は銚子を妓に取られないよう自らの手で持ち上げた。